茨木さんとご自宅2
「始めまして、茨木さんのクラスメイトの石田哲也です!」
「お前に父と呼ばれる筋合いはない!」
突如としていわれのない暴力が石田君を襲う!
綺麗に土下座をした石田君は襟首をつかまれ綺麗に投げ飛ばされてしまった。
受身は取れたが凄い音をしながら畳に打ち付けられる、痛そうだ。
「あなた、まだその癖なおってないのね。哲也君は挨拶しただけよ」
思い込みで会話するところと杏の母、百合は続けた。
咎めるどころかむしろ楽しそうだ。
「お父様もお母様もやりすぎよ」
「そうですよ!」
杏も流石にやりすぎだと両親を責め、佐々木も同調したが、夫婦はなんのその、全く聞き入れる気はない。
うーん流石茨木家、みんなキャラが濃い。
むしろお父さんについてはヒートアップしているように見える。
「大事な一人娘が男連れてくるということはそういう事だろう!何が違う」
「やめてお父様!そういう事ではないの、まだ」
杏ちゃんが珍しく顔を真っ赤にさせて手をあわあわさせている。
そうだね、石田君にはまだ何も言ってないもんね。
「おほほほ。多分違わないわね、まぁ彼のほうはそうじゃないかもしれないけど・・・」
チラリと視線を石田君に送る。
石田君本人は杏ちゃんのレアな表情を目に焼き付けながら、懐であったまっているデジカメを取り出そうかどうか迷っているようだ。
ちらりと見えたデジカメに目をつけたのは意外にも茨木母だった。
「あら彼もそういう人種なの?ほんっと・・・家にはそういう人しか集まらないのかしら」
頬に手を当てはぁとため息をつく姿はとても綺麗だ。
「そういう人種とはなんだ?」
「あなたみたいな人のことですよ」
納得いかないという表情をしているが杏ちゃんから話を聞くに相当しでかしている人だと思う、普通の人は結婚間近の女性を誘拐したりしないし、3部屋も奥さんコレクションを飾る部屋など存在しない。
そのまま過去の冤罪をつらつらと言い続ける茨木母に、茨木父はぐぬぬと何も言えないようだ。しかし構ってもらって嬉しいのか、表情は明るい。
杏ちゃんは話しが進んでいることにも気付かず相変わらず顔を真っ赤のまま弁明しているし、石田君もそんな姿を見てぽーとしているし収集がつかない。
佐々木さんもため息をつくばかりだ。
私もどうすればいいのかきょろきょろすることしか出来ない。
「もー、珍しく佐々木君が玄関にお迎えにこないと思っていたらこんなことになっていたのね?」
後ろから、杏ちゃんとはまた違った涼やかで軽い声が聞こえてきた。
「祥子!?今日は来るって聞いていないのに一体どうしたの?」
「楓くんの彼女が百合ちゃん家にいるって聞いたから慌てて来たの」
茨木母も慌てたようにぱっと立ち上がり、声をかけた人物に近づいた。周りからお花が舞っているような錯覚を覚えそうなふわふわした美少女がそこに居た。
お人形のように綺麗な人と目が合う。
パッと表情が明るくなったと思ったら、その人は気まずそうに目を伏せ、私の手を握った。
「始めまして、楓の母です。楓がいつもごめんなさい、そしてこれからもごめんなさい、末永く本当にごめんなさい」
真剣な表情で頭を下げられてしまった。
大事なことだから3回も言ったのか?
「それから石田君も、楓がいつも迷惑かけてごめんなさいね。あれでも貴方のこと、凄く気に入っているのよ」
「そうなんですか?絶対下僕として見られてると・・・」
あいつめと言って照れたようにうつむく石田君とは反対に、東野母も杏ちゃんも石田君から視線を逸らした。
「そ、そうね大事な友達としてみていると思うわー」
「ええ、ちょっとやり方が乱暴だし、気持ちも伴っていないかもしれないけれど・・・」
「それって全然駄目じゃないの、ねぇあなた?」
「そうだな」
2人が必死にフォローするが茨木母によって論破されている。
茨木家で一番権力を持っているのは母だということが分かってきた。
現にしょぼんとした石田君を見て楽しそうにころころと笑っている。
「だいたい状況は掴めたわ、遊びはこれくらいにしましょう。早紀ちゃんも哲也君もゆっくりしていきなさい」
「男は帰れ」
「そういうことを言っているとお父様嫌いって言われるわよ。私の若い頃の顔と声そっくりに」
「ぐっ・・・哲也君もゆっくりしていきなさい――」
ぎりぎりと歯を食いしばりながら無理に笑う茨木父怖い。
「じゃあ私も杏ちゃん達と一緒に」
「祥子はこっち、佐々木も付いてきなさい。今後について作戦会議しなきゃ!おほほ、こんなに楽しいのは久しぶり」
優雅な足取りで部屋から出る茨木母を追う父と一礼してその場を去った佐々木さん、東野母はこちらに来ようとしたが腕をつかまれずるずると引きづられていった。
なんだろう、あの光景どこかで見たことある。
「濃い――」
「濃すぎるな」
「何が濃いのかしら?」
飾り付け?と、きょとんとした表情の杏ちゃんは可愛いが残念!てんで見当違いだ。
でも可愛いから許せてしまう。
その後、部屋に案内された私は隠し撮りをしようとしている石田君を阻止できたことだけは明記しておく。
* *
チェアで読書をしているとブルルルと車の音が聞こえてきた。
祥子は慌てて窓際による、すると黒い見慣れた車が見えた。会社の挨拶周りに行っていた夫と息子が帰ってきたのだ。
玄関口まで迎えに行くと夫である大輔は祥子の姿を確認すると優しく微笑む、こちらも自然と笑顔になる。大輔の背広を受け取りながら声をかける。
「お帰りなさい、あなた、楓君」
「ただいま祥子」
「…ただいま母さん」
声が普段より低い。普段から母親の自分にすら本心をあまり見せない息子にしては珍しい態度だ。
「楓の彼女が雄大の家に来ていたと知ったらしくてね、それからずっとこの調子だ。流石にゲストにはにこやかに対応していたが」
雄大はくっきりした男らしい眉をゆがめる。同調するように祥子の眉もへの字になる。
そんな様子をつまらなそうみ見ていた楓ははぁとため息を一つついた。
「母さんは会ったみたいだな」
「ええ、あまりお話できなかったけどいい子そうだったわ!今度はゆっくりお話できるといいのだけれど…」
「そうだね、私も会ってみたいし今度つれてきなさい」
「来ないと思うけど…一応誘ってみる」
まぁ無理だと思うけどな。
望月さんは家に来るイコール王手がかかるって思っているがそれは正しい。
望月さんの直感が鋭いのはこういうときに邪魔だと思う。
「来てくれないのね、寂しいわ。私、お嫁さんと一緒にご飯作るの夢だったのに――」
「まぁまぁ、来ないなら会いに行けばいいさ、今度三者面談があるだろう」
「そうね!楓の友達、石田君のことも紹介するわ」
「2人で来るのかよ…」
この万年お花畑夫婦が。
思っていても口には出さない、何故なら父に先に紹介するのは自分にとって都合がいいからだ。
それが分かっているからこそ父はそう言い出したのだ。
自分の父ながら性格が悪い、心底そう思った。
次のお話はまた決まり次第書こうと思いますのでひとまず完結にさせて頂きます。




