茨木さんとご自宅
杏ちゃんの自宅に御呼ばれした私と石田君は茨木邸の前で立ち止っていた。
スーツ姿の石田君と合流し、手渡された地図のもと高級住宅街を5分程突き進むと屋敷が見えてきたため首を傾げ地図に目を向ける。15分程度進むと玄関が見えてくると書いてあるがすでに屋敷が見えているのだ。特に早歩きをした記憶もないためこれはおかしいということになった、が、杏ちゃんを信じて曲がり道含み直進すること10分、ようやく玄関が見えた。もう一度言おう、玄関が見えたのだ。今まで見てきた屋敷は全部茨木邸だということを理解した。
隣にも同じ広さがあろう洋風の屋敷が立っている。豪華ながらも品よくまとめられているのが私の乏しい審美眼でも分かる。
威圧感を発している日本屋敷を見ているとタイムスリップした気分になることはないだろうか。私は今そういう気分を味わっている。
「石田君、私いま京都に来た気分」
「隣にある洋風の家を見て一気に現実に戻されるけどな」
手にもっていた土産を確認する。
石田君も自分の手荷物を見ているようだ。
「杏ちゃんのお土産1,000円の茶菓子なんかじゃ駄目だった気がするんだけどどうしよう・・・ところでなんで石田君今日スーツなの?」
「最初に聞けよ。第一印象は大事だろ、もしかしたら今後・・・へへ」
石田君は今日も絶好調に変態チックだ。今後へへってなんだ。
「――お嬢様のご友人ですよね?お待たせいたしました」
重たい扉の先から出てきたのは着物を身に纏う、20代半ばの優しげな表情をした男性だった。そこはいい、良家のお宅に見えた時点である程度予想できた。
「お、お嬢様?」石田君の声が緊張でかすんでいる。
「い、茨木さんのことだったら、そうです」
「望月様に石田様ですね。お待ちしておりました、こちらへどうぞ」
一流のホテルマンの如くサラリと門を支えた男性は私達を先に促した。
先をゆく男性の背中を追いながら流されるまま案内された部屋は私の基準で客間と呼ぶには大きすぎる和室だった。刀と兜が置いてあるのがもう金持ちわっしょいと言わんばかりだ。石田君は緊張のせいか、回りを見渡す余裕がないくらいカチコチに固まっている。
すっとお茶を出した男性は暫くお待ち下さいと立ち上がりその場を去ろうとしたため慌ててお手洗いの場所を聞く。
気付かなくてすみませんと謝罪され、いやいやむしろこっちがすみませんと応答しながら少し歩き案内されたお手洗いに入った。
お手洗いから出て石田君が待つ部屋に戻る。
きょろきょろしながら歩くとこの家がどれだけ広いか分かる、外からは見えないが中央にこれぞ日本美といわんばかりの池があり、ふすま一枚一枚の絵柄もこっている・・・気がする。
はたから見ると相当あほだろうがその時の私の口は開きっぱなしだった。
素敵だなー綺麗だなーと思いながらゆっくり歩いていくと目的地からなにやらドタドタと騒がしい音が襖越しに声が聞こえてくる。
急いで石田君がいる筈の客間を開ける。
スパーンと小気味のいい音だ。
「な、い、石田君!え、あ、杏ちゃん、この方どなた!?」
日本語になっていないのは自分でも分かった。けれど混乱していたのだ。
30か40代くらいの非常に綺麗な男性にアイアンクローされている石田君。
そしてそれを正座して見守る杏ちゃんと、杏ちゃんをそのまま大人にした感じの綺麗な女性。2人とも和装をしている。
「早紀ちゃん、今日は来てくれてありがとう。ゆっくりしていってね」
「これが噂の望月早紀さんね。始めまして、杏の母です」
「杏の父だ、よく来たな、ゆっくりしていってくれ」
反射的に頭を下げ、ありがとうございますと答えたが意味が分からない、杏ちゃんの両親だということは分かったが何故石田君の頭を掴んでいるのかがまだ解明されていない。
そして止めずに見守っている2人も謎すぎる。
「と、とにかく石田君を離してもらっていいですか?なんかもうバタバタがピクピクになってますし。」
魚が尊い命を燃やし尽くす様によく似ていた。
茨木家当主雄大は目を光らせた。
「そうか、こいつは石田と言うのか」
「杏、彼の名前は?」
「哲也君ですお母様」
名前も知らずにその行為しちゃったんだとか、余計な情報を与えた気がしたとかいろいろ考えることはあったが、いえることはただ1つ。
杏ちゃんに名前呼んでもらったからって、その状態で顔を赤くそめるな石田君。
大きい手の隙間から垣間見える石田君の顔は真っ赤だった。
ダダダダと走ってくる音が聞こえたかと思えばそこには先ほどの優しげな表情から一転眉を吊り上げて立っている案内してくれた男性がいた。
「――旦那様!お部屋にいらっしゃらないかと思えばお嬢様のお客様に何をなさっているんです!」
「佐々木、思ったより早かったな」
ボトリと石田君が落とされた
「私を部屋に閉じ込めてその言い草はなんです!奥様とお嬢様も見ていないで止めてください!」
「ごめんなさいね、つい面白くて。佐々木の脱出劇と悩んだのだけれど今回はこっちにしたわ」
「ごめんなさい、お父様なりの愛情表現かと思っていたの」
あの短時間の間に佐々木さん閉じ込められて脱出しての一通りをしてきたのか。
茨木家がお説教を貰っている間に先ほど落ちたままの石田君に近寄る。
生きてるかどうか聞いてみると生きてないとの返事だったので残念ながらもう駄目なようだ。
「私がいない間に何があったの?」
「望月がトイレにいっている間のことだよな。」
そういって石田君は体制を整えてこちらに向いた。人がぼかしたところを言い直すのはいかがなものかと思う。
腑に落ちないながらに頷く
「まずいきなり着物を着た男が入ってきた、刀を持ってな・・・」
「辻斬りフラグって奴だね」
石田君は遠い目をした
「そんなフラグは無い、刀はすぐに置いてた。で、次に茨木さん似の美女が座布団2枚持って入ってきたんだ。ちなみにこの間に会話は一切ない」
「石田君がえっ、とかあっ、とか言って凄くきょどってそうだけどね。それで?」
「なぜわかった。それでだ、美人の女性が座布団に座ったと同時にいきなり頭を掴まれた、その後茨木さんに名前を呼ばれて嬉しいけど恥ずかしい気持ちになって今に至る」
「凄くいろんな部分が抜けているんだけど・・・それだと杏ちゃん突然ふっと沸いて出たことになるよ?」
もしくはここが忍者屋敷かだと思う。
「正直痛い時間が長くてよくわからん。俺としては望月も沸いて出た感じがしたけどな。」
「ふーん、じゃああの2人が杏ちゃんの両親だってことも知らない?」
「な、んだと?」
石田君の目が普段より見開いている。
そのままフラリと立ち上がった石田君は佐々木さんに更に怒られて正座をしている茨木一家の方を向いた。
「つまり俺は今まで試されていたということなのか・・・?」
「違うと思う」
多分杏ちゃんが初めて招いた異性の人(東野君除く)だから威嚇の程度が分からなくてアイアンクローしたほうに一票入れたい。
「茨木さんの相手としてふさわしいかどうかを品定めされていたんだ・・・」
名前も知らないのに品定めも何もないと思うが石田君は私の話しなど全く聞いていないようで少しず茨木家に近寄って行く。
このままだと本当に石田君が日本刀の錆になってしまう!
どうなる次回!
というわけでもう少し続きます。
後半はサブキャラたちメインで出す予定です。




