茨木さんと東野君
茨木さんの雨の日ダッシュ事件から10日が経ちました。
茨木さんは相変わらず友達も作らず読書をするか窓の外を眺めているばかり。
あの日から私は茨城さんを観察するようになり一方的にだが彼女がちょっと分かってきている。
まず茨木さんはよく読書をしているけれど実は6割がブックカバーでカモフラージュされている漫画である。少女漫画より男性向けのギャグ漫画がお好きなようだ。私もその漫画読んでいるよと話しかけたかったが先に観察をせねばと歯を食いしばって耐えた。
こんな事他の人も当然知っているだろうと友人に聞いてみると、皆神々しくて茨木さんを直視できないらしい、茨木さんどれだけ美人なの!
ちなみに外をよく見つめている理由は漫画だと早く読み終わってしまうと暇なため時間つぶしに見ているみたい。
ただ外を見ているだけで儚さを演出できる茨木さんまじぱねぇっす。
でも実際そんなに儚くないのが今はやりのギャップって奴なのでしょうか。
そんな本日最後のコマは委員会決め。
去年の様子からすると一番大変なのは委員長、その次に毎週当番がある図書委員、保健委員が入り一定期間だけ物凄く忙しい文化委員、体育委員はあまり人気がない気がする。
ちなみに去年図書委員だった私は今年も図書委員を選ぼうと思っている。
去年一年を通して司書の先生と仲良くなったからで、読書も前よりちょっとは好きになれた。あとは当番の日には図書館にきている東野君や茨木さんを間近で見られるため目の保養にもなった。
我が校の図書館は旧校舎と新校舎があり私が担当した旧校舎の方の図書館にはあまり人がこない。そのため2人はよくこちらに来るようだった。
今茨木さんブームが来ている私がこんなチャンスを逃すわけにはいかない!
その上司書の先生にももう図書委員に入ると言ってあるのでどっちにしろ図書委員以外の道はない。
「じゃあ委員会決めるぞ。ちなみに挙手制の早い者勝ちだから。」
副委員長である三原さんが黒板に委員会名と必要人数を書いているのと同時に委員長の戸田君が委員会の名前を読み上げ挙手を促す。
2年生になったその日にクラスの先生の指名により委員長、副委員長は決まっているので進行はスムーズだ。
なぜ早いもの勝ちなのかというと、うちのクラスには国宝級が2名いるため必然的に同じ委員に入ろうと皆が挙手をしてしまい。血なまぐさい戦いが始まりかねないからだそうだ。
去年は茨木さんも東野君もクラスは違っていたが同じ現象がおこったらしい。そんな2人が同じクラスでなにもおこらないわけがないと事前に解決先が早い者勝ちである。
ちなみに暗黙の了解で2人には希望する委員会を聞いてはいけないらしい。
「まずは体育委員からいくぞー」
委員長が委員会の名前を次々と読み上げて行く。
中には端から国宝級と一緒の委員を諦めている人、興味がない人が早々に希望する委員会に挙手をしていく。
3つ目にさしかかっても茨木さんも東野くんも手を挙げない。
図書委員は5番目で定員人数は3名、挙手に全神経を集中しなければ。
「次、図書委員か、早かったな望月。おっ、茨木さんと東野も図書委員でいいんだな?」
「ええ」
「うん」
私は早かった、戸田君が全てを言い終わる前に挙手をしたのだ。
正直ちょっと早すぎた感じはしないでもないがこれで図書委員会になれるなら問題ないだろうとほっと一息ついたら戸田君のちょっとびっくりした声。一番後ろの席の私は凍りついた。東野君と茨木さん図書委員会に手を挙げているじゃないか。
しかも茨木さんについては微笑みを浮かべる東野君をまるでごみを見る目で見つめていた。そんな彼女にクラスの何名かが光悦な表情を浮かべただけで東野君には全く効いていない。
そして狙う間もなく委員会を決めてしまった2人に他のクラスメイト達は肩を落としている。うん、いやなんかどんまいである。だからそんな熱い視線で私を見つめないで、嫉妬で燃えそう。私ワルクナイヨー
いろいろ言いたいことがあってももう決定してしまえば覆らないわけで、他のクラスメイト達も次々に委員会を決めていった。
そして同じ委員会になった同士が挨拶をする時間になった。
「よろしく、望月さん」
初めて会話した東野君。優しい笑顔で私に声をかけた。
ほとんど無表情か顔をしかめている茨木さんとは正反対に、彼はいつもにこにこ笑っている。それ以外の表情は出来ないのだと思ったことがあるほどだ。
東野 楓
茨木さんの美しさが和なら東野君は洋である。
背は高く、色素が薄い髪は光にあたると金髪になり、まるで物語の王子様が抜け出してきたようである。堀の深い聡明そうなお顔立ちに優しい茶色い瞳、そこにあの笑顔とあれば落ちない女はいないと言われている。
ちなみにおじいさんがフランス人だったらしい。
「うん、こちらこそよろしく」
「今日は委員会があるだろ?一緒に行こうよ」
「え、ああうーん。」
「馬鹿なの?あなたと行ったら女の子のやっかみを受けるでしょう。
望月さん一緒に行きましょうか。」
「勝手に会話に入らないでくれるかな。それより君は去年保健の先生に是非今年もと言われていたのによかったのかな。愛しい立花先生が待っているんじゃないの?」
「同じ委員会なんだけど。
それに勘違いしているようだけどあれは単に私がいるだけで先生目当ての患者がいなくなるからでそういう意味ではないわ。
そもそもゴキブリ見ただけでキャーっていう男性の方はちょっと。」
「君その後スリッパで一発バシンと潰していたね。あの時の立花先生の顔は笑えたな。そのスリッパはまだ履いているの?だとしたら気持ち悪いな。」
「それを知っているなら私と先生がそういう仲じゃないことも知っていたわね?あとちゃんと洗ったわ。」
「つまりまだ履いているってことじゃないか、気持ち悪い」
「気持ち悪い2度言わないでもらえるかしら。」
スネークスネーク応答してくれ。
国宝級の2人の会話についていけない。
東野君のまさかの同伴のお誘いに生存本能が刺激された私が戸惑っているとベストなタイミングで助けてくれた茨木さんはそのまま東野君との口げんかを続行している。
普段の茨木さんの無関心、東野君のスマイルとは程遠い2人の様子をただただ見守ることしかできない。あの2人付き合っているのかな、とかひそひそ話されているよ、お2人さん。よしよしいいぞいいぞ、このまま行けば私は嫉妬されなくなる。
それにしても茨木さんほんとギャップ。
私でも流石にゴキブリ居たらギャー言って逃げるよ。やつら飛ぶからね、スパンと一撃できるほど動体視力もない。まじかっけーす
「あなたとは会話が成り立たないわ。行こう望月さん。」
授業終了のチャイムが鳴る。
会話は茨木さんのため息で終了したようで、私の腕をとって図書館に向かい始めた。
後ろで不満そうにしながらも東野くんも付いてくる。
女子たちからは誰かに取られるぐらいならいっそ、茨木さんでよかったのよと慰めあい、いつのまにか円陣を組んでいる。何故だ
男達は俺達の茨木さんを東野にとられたー!と叫んでいる。
なにこのクラス怖い
正気のままのクラスメイトも少なからずいるようで各自同じ委員会の人を引きずって各々の委員会に向かっていった。
「なにこのクラス怖い」
「そうかな、面白いよこのクラス。ね、望月さん」
「あはは、どうかなー個性的ではあると思うけど」
「望月さん無理しなくていいから。」
同意しようとした瞬間に東野君のこのコメントである。
そして気を使ってくれる茨木さん。
あれなにこれデジャブ?
そしてこの2人なにが凄いってお互いの顔を一切見ずに会話しているのだ。
なにを見ているって?私だ、私を見ながら2人は会話をしているのだ。
気まずいことこの上ないからやめてください。
その後図書室についた私たちは新校舎か旧校舎どちらかの当番を決めることになった。
当然のように茨木さんも東野くんも旧校舎を希望してくれたので無事旧校舎にきまった。
去年同じ委員だった人達は全然来てくれなかったため毎週のように私が行っていたが本来なら3人なら3週間に1回でいいのだ。
それだとあまり司書の先生と奥の部屋でお茶を飲みながら世間話が出来ないので寂しい。
私が当番を全部やると言ったら当然のように断られてしまった。ですよねー2人とも真面目だしね。
しょうがないので当番じゃない日でも一緒にいってもいいかを聞いてみると、東野君は破顔した笑顔で許可をくれた。これを見た茨木さんは汚物を見る目で東野君を見つめていた。うん、たぶんこの2人付き合ってないと思う。
茨木さんはだめかなーと見てみると慌てて表情を繕ってもちろんと言ってくれた。
優しい、是非私と結婚してほしい。おっほんおっほん失敬
帰り際茨木さんに可哀想なものを見る目で見られたのが気にかかったが今日の私は気分がよかったのでスルーすることにした。
ご閲覧ありがとうございました。