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茨木さんと種目決め

体育祭が近づいてきたため、今日のホームルームは種目決めを行われていた。

我が校は校長がお茶目なせいと、それをしょうがないなと許してしまう教師陣のせいで毎年体育祭、文化祭が奇抜なものになっている。


私は去年パン食い競争に参加した。ぶら下がっているのはまさかのエダマメ、ちいさい上にとりづらい、そもそもパンじゃないと3拍子そろった鬼畜ぶり。だがこれはまだましな方だった。


例えば100m走、ただ走るのではなく各走者ごとマイクを装着、音楽の教科書に乗っている歌の中からランダムでくじ引きを行い、それを歌いながら完走しなければならない。

順位とは別に歌唱力もちゃんと加点対象になるため無視ができないのが辛いところ。足の速い人を選ぶか歌のうまい人は選ぶかはクラス毎の判断に委ねられている。


去年茨木さんは借り物競争でまさかの『校長先生のづら』を引いた。当然悪戯っ子の校長はなかなか渡さないつもりだったのだろう、だが目の前に差し出された右手と至近距離での何の感情も読めない人形のように美しい人、なすすべもなく己のづらを差し出す校長に全校生徒が固唾を呑んだのは懐かしい思い出だ。


そんな面倒なもの誰もやらねーよと思うだろうがよっぽどの理由がない限り欠席は許されない。理由は簡単、単位に響くからである。

うちの校長はお茶目だがそういう所はえげつないのだ。


森口先生が教卓の後ろに立つ。

夏に近づいたこともあって衣替えをした生徒達と同様、森口先生も薄着であったが違うのはその鍛えられた筋肉である。だるそうな表情とは裏腹に苛められ、鍛え抜かれた腕を露出している。これがギャップ!これが大人の魅力!流石一時期私をレスリング部のマネージャーを本気で考えさせただけはある。

石田君?いやはや彼はまだまだひよっこですよ。ただのまっちょではまだまだ。


教卓に手を置いた先生は一度生徒達をぐるりと見渡し、誰も欠席者がいないことを確認してから

「競技を決めたいと思ったが、どうせもめるのが目に見えているからな、俺がお前らの長所、短所を考慮して予め作っておいた。プリントまわすから目を通せ。俺は職員室に戻る」


そういってプリントを前の席に渡し、要望は聞かんとばかりに教室からさっさと出て行ってしまった森口先生。あまった時間は自習のようだ。

前から回ってきたプリントを受け取り、目を通す。


茨木さんと東野くんはペアで仮装2人3脚だ。

これもただの仮装ではなく、男女2人のコンセプトを合わせ、徹底し挑まなければいけない。去年の3年生は邪馬台国ルックで参戦。速さでは1位だったが両名とも靴を履いていた為減点、実質総合では2位になったなどシビアな競技なのだ。

ビジュアルも重視されるこの競技、見目はいいほうが着こなせる服も多くなるということでのこの2人なのだろう。


後ろを振り返ると2人とも凄く不満そうだ。示し合わせたように2人は目線を合わし、しばし目線のみで会話をしていたが、すぐ舌打ちをしそうな表情で視線を逸らした。

交渉は決裂したようだ。


私は去年と同じパン食い競争だった。

よかった、去年と同じなら対策も取れる。


石田君は外れの競技、「仁義無き玉拾い」だった。

この競技単純に玉を拾い玉入れに入れる競技などではない、いかに相手の玉いれを落とすかにかかっているのだ。棒倒しの派生版とでも言えばわかりやすいと思う。

守備、攻撃と分かれそして小数の女子がひたすら玉を入れる係りになる。たまに男子でも女子に攻撃する者は現れるが、その人はその後1年間、男子からの賞賛と女子からの畏怖によりスナイパーボムの称号を与えられる。

ようするに女子はほぼ安全牌、男子にとっては怪我覚悟の競技なのだ。


目の前にやたらもじもじした石田君が先ほど配られたプリントを持ったままやってきた。


「もっちゃん、お願いがあるんだけど」

「やだよ」

石田君が変なあだ名で人のことを呼んでくるときは碌なことがないのは去年より実証済みだ。去年の唐突にバンジーしようぜってきたときにはどうしようかと思ったものだ。

今回も断られるとは思っていなかったらしく、目を丸くして驚いている。


「せめて話しだけは聞いてくれ」

「いいけど、玉拾い代われだったら嫌だからね?」

「「・・・・・」」

「玉拾いっていい響きだと思わないか?」

路線を変更してきたようだ。


「仁義なきがつかなければ」

「「・・・・」」

「ばーか!」

「なっ、馬鹿っていった人が馬鹿なんだよ!」

捨て台詞とともに自分の席に戻っていく石田君。

思わず言い返してしまったが無事帰還してくれと祈らずにはいられない。


私も暇になってしまったので茨木さんの席に向かう、向かう途中まだ茨木さんは怒っているかなと思ったが機嫌はもう戻っているようで、今はなにやら懸命にノートに向かっていろんなイラストを書いている。人の形をしているのは辛うじて分かるが耳が4つ程あるのでもしかしたら人外かもしれない。

「茨木さん何書いているの?」

呼びかけた瞬間、茨木さんは即座に出していたノートを閉じこちらを向いた。

側にいると思わなかったのだろう、かなり驚いてただでさえ大きい目がさらに開いている。石田君のときは何も思わなかったがなぜか驚かせてごめんなさいとジャンピング土下座をしたい気持ちになる。


「も、望月さん、いえこれは次の仮装の時にどんな服がいいのかしらと思って」

「そっか、あの競技お金は出してくれるけど自主制作だっけ?」

「そうなの、裁縫は別にいいのだけれど衣装案がなくて」

そういってため息をつく茨木さん。


アラブ系、チャイナ服、ナース服茨木さんならどれでも着こなせそうだ。

だがやはり個人的な趣味でいかしてもらうなら

「茨木さんならお姫様がいいよ。きっと世界で一番綺麗だと思う」

「そうかしら・・・望月さんがそう言ってくれて嬉しいけど」

そう言って照れて笑う茨木さんに絶対似合うよ!と再度後押しをする。そのやり取りを

3回ほど繰り返した後、茨木さんもようやく納得してくれたようで、先ほど閉じたノートを開き、今度は文字でお姫様と書き込んだ。そして東野君の名前を書いたあと亀と書き、2つを結びつけた。


まさかの浦島太郎系!


「え、東野君亀でいいの?」

「ええ、問題ないわ。奴の口車に乗せられて協力したけれど、よく考えたら別にお隣さんでなくても私が会いにいけばいいだけの話だったわ」

「?それと亀にはなんの関係が・・・」

「おしくなってしまったの。高校卒業までじゃ寂しいわ」


相変わらず茨木さんの言いたいことは分からないことが多い。

けれどひとつだけ分かったことはある。



東野君は亀の衣装を着ることである。



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