茨木さんとご飯
東野君おすすめの喫茶店に入った私達、4人がけのテーブルに、隣は茨木さん、向かいに東野君、斜め向かいに石田君という席順で着席した。石田君と東野君が水をとりに行ってくれることになったので私と茨木さんは席で待つことになった。
しばし談話をしている、茨木さんが携帯を取り出した。なんということでしょう、カバンから携帯と一緒に顔を出したのは東野君の雑誌。しかも本来の持ち主が丁度戻ってきた所だったのであえなく目撃されてしまった。
東野君は水を置き、驚くべき速さでその雑誌と茨木さんの頭をわし掴み外に出て行こうとしている。驚いたのは私だけで茨木さんは頭を掴まれながらも余裕の表情で腕を組んだままひきづられている。慣れているんだろうか?後からきた石田君は事態も何も分からないなりに茨木さんの危険を察知したのだろうか、一応止めようと試みたが東野くんの死角からの手刀をくらい撃沈。私に出来たことは石田君の持っていた水を空中でキャッチしたくらいだ。
そのまま消えていく背中を見送った私達の周りで「なにいまの」「駆け落ちよ駆け落ち」「あの子たち振られたのねー可哀想」「あの美少女の髪ぺろぺろしたい」なんて声が聞こえてくる。
(見なかったことにしよう)
私と石田くんはさっと着席し、何事もなかったようにメニューを開く。
「なににしようかな」
「俺エビフライ」
「石田君エビフライ好きだよね。私チキン定食にしよ」
「望月はチキン娘だな」
「その言い方はやめて」
私が臆病者みたいじゃないか
基本的に悩む前に行動せよが基本の私と石田君では注文に時間がかからない。
当然たいした時間もたっていないため、2人が帰ってくる兆候は全く見えない。
ガラス越しに小さく見える2人は雑誌を開いてなにやら話し合いをしているようでまだまだ時間はかかりそうだ。
もう一度メニューに目を向ける
石田君も出された水を飲みながらメニューをみるため身を乗り出した
「2人は何食べるのかな?」
「茨木さんはオムライスが好きだから注文するとしたらそれだな」
そう言って手でオムライスの写真をトントンと叩く。
「石田君詳しいな。東野君は何が好きなの?」
「普段から高いもの食べているってことしかわからん」
「フォークとナイフが似合いそうだよね」
そんな時ブブブと振動がポケットに響く
どうやらメールのようだ
『ごめんね。もうしばらくかかりそう。
PS.俺は望月さんが作るのもならたとえ破壊兵器でも食べられるよ。』
・・・
「破壊兵器は流石に作らないよ!」
「いきなりどうした!?」
大声をあげて立ち上がってしまったために、周りの人はびっくりしたようにこちらに視線を向けた。
あ、まずいと思いすみませんと頭を下げながら着席する。
まさか東野君にいきなり料理の腕前を貶められるとは思っていなかったのでショックが大きい。ビックリしている石田君にメール画面を見せるとしばし沈黙した後ぽつりと「自爆型か…」という意味深な発言。
「わ、私確かに料理う、うまくないけど、一応口に含める程あkdjldkk…だー!」
頭を抱え込んだ。
興奮して唯一離せる日本語すら怪しくなった私をなんとか落ち着けようと石田君がヒーヒーフー、ヒーヒーフーと何度も言ってくるがそれは深呼吸じゃなくてラマーズ法だ!
それでも5分後になんとか落ち着いた私は今までの反動か、ぐでーとテーブルにくっついていた。
いま考えるとさっきの東野君のメール、リアルタイムすぎじゃないかと思ったがもう疲れてしまってまともに考える力がない。
「東野君はいい人なのか悪い人なのかよく分からない・・・」
「根が悪い奴が優しくしようとするとああなるんだろ・・・」
「それはそれは」
「おまたせ」
「またせてごめん」
茨木さんと東野君は帰ってきた
相変わらず2人は神々しくてまぶしい。茨木さんもいつもと変わらず美しい。
横目で雑誌を見るとついている付箋がさっきまでより明らかに増えているのが気にかかった。同じく無気力だった石田君は茨木さんを見た瞬間シャキンと背筋が伸びたが私の背筋は伸びる気配すらない。そんな私の頬を2.3度つつく茨木さん。
「どうしたの望月さん?元気がないみたいだけど」
「気分悪いの?それなら僕の家来る?」
「なんで楓の家に行くのよ」
そのまま口論を始めてしまった2人をよそに、石田君がこちらに放った言葉はとても魅力的だった。
「望月、チキン」
「そうだ、ご飯」
ご飯食べれば元気になれると私は起き上がり、いまだ話をしている茨木さんの袖をひっぱる。え、と振り返る茨木さんににっこり笑い
「茨木さん、とりあえず、ご飯食べようか」
「ええ、そうね。食べましょう」
その後、茨木さんが選んだメニューはオムライスだった。石田君すごいな。
東野君はハンバーグにするようで全員のメニューが決まり注文をし、しばらくしたら食事が届けられた。
流石隠れた名店だけあって味がおいしい。
チキンの皮から染み出てくる油がなんともジューシーでソースにもよく合う。むっしゃむっしゃうまーと食事を続けていると隣でいい笑顔でオムライスの乗っているスプーンを持っている茨木さんがいた。
「はい、望月さんアーン」
「え、茨木さん?どうしたの?」
「あーん」
これは恐らく、雑誌に載っていたことを強いられている!
どうやら食べるまで許してくれないようだいただきますと小声で呟き思い切って一気にオムライスを頂く。そのとき隣からパシャパシャと写真の音とぎゃーという声がするが茨木さんの嬉しそうな表情を間近で見てしまい動くに動けなくなってしまっていた。
「美味しい?」
「う、うん」
「ふふ、よかった。今度は私の自信のある手料理でおいしいって言ってもらいたいな」
私はこの後の記憶がない。
覚えていないというのは御幣があるが、ずっとふわふわした感覚で、気づくと家の中でワンピース姿のまま布団をかぶっていた。
今日のことはひょっとして夢なのかと思ったが石田君の件名、呪とかかれたメールを見る限り現実のようだ。茨木さんからは今度両親に紹介するので是非家に来てねとメールが来ていた。婚約者を紹介する文に見えるのは気のせいじゃない、茨木さんは友情と恋愛が一緒になっているから一度きちんと説明しようと思った。東野君については意外にも一番普通で今度は2人で遊びに行こうというお誘いのメールだった。もちろん丁重にお断りした。
学校に登校した後、石田君にあれは事故だったんだよと浮気がばれた言い訳がましい弁解をし、やっと許してもらった後、土曜日の話を聞くとどうやらその後私は何を聞かれても夢心地のまま、うんそうだねとしか答えなかったそうだ。なにそれ私こわい
冗談だろうが東野君が僕と結婚してくれる?といったときも、うんそうだねって答えていたらしい。止めてくれよ!と言ったら止められるわけねーだろ!と反論を頂いてしまった。
茨木さんがそこは仲裁に入ってくれたためなんとか卒業までは保留してくれることになったらしい。茨木さんの仲裁の中途半端具合には驚くばかりである。しかもその感じなんか本気っぽくて怖い!
「私、悪女になった気分だよ」
「間違いなくお前は悪女だよ」
石田君からお墨付きをもらってしまった。
私がなにをやったっていうんだろうか。
最後に映画についての感想だが私は全く覚えていないため他の3人に聞いてみると
「茨木さんが可愛かった」
「友達と映画館という感動をかみ締めていたわ」
「隣しかみてなかったよ」
映画は誰も見ていなかったようだ。




