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茨木さんと映画館

何かがいる。


そう思ったのは友人と一緒に映画館に向かう途中でした。

何か粘りつくような視線を背中から感じるのです。

振り返っても誰もいません。

これだけの人ごみですので最初は気のせいだろうと思っておりました。


ですがショーウィンドウ、カーブミラーを通り過ぎるたび、ちらり、ちらりと私達を追っているなにかが見えるのです。もうとうてい気のせいとはいえません。

友人にその事を伝えても普段から視線に晒され続けていることも影響してか、反応はいまいちでした


もう頼れるのは自分しかいません。


私は携帯を取り出した

「尾行するならちゃんとして石田君!」と熱い思いをメールに綴った。




いることは知っていたが、段々と堂々としてきたのは予想外だった。

まさかショーウィンドウ越しに目があってピースされるとは誰が想像できたか。反射的にピースを返してしまった所を茨木さんに丁度見られてしまったらしく大丈夫(頭的な意味で)?な視線を受けてしまったのは非常に不本意である。


サングラスをした東野君も隣にいるがこちらは最初からバレバレだった。

高身長のイケメンがサングラスしたぐらいで何を隠せると思ったのだろうかと問いてやりたい。彼の周りにはたくさんの女性がいてある意味カモフラージュにはなっているが、いかんせん高身長の彼と石田君は女子に埋もれても尚、頭ひとつ分突き出ている。

なんで東野君は折角の3連休の初日を尾行に使ってしまったのだろうか。

凄い付き合いがいいのか幼馴染が心配だったのかは知らないが彼の将来が心配になってしまう。

ちなみに石田君はそのままいけばいいと思う。


茨木さんの周りには意外にも人はいない。

ぽーと見惚れている人はいるがそういう人は追いかけてこない上、

あきらかに遊んでそうなお兄さん達が声をかけようとしても周りが牽制をして声をかけられない事がこの短時間の内に何度かあった。

茨木さんATフィールドは常時発動しているようだ。


隣を見てみると茨木さんはデート本をもはや隠そうとすらせず真剣な表情で見ている。先ほど中身がチラリと目に入ったがまさかの男性側のデート本だった。しかも付箋やマーカー、更にはメモまで書かれているその本はかなり使い込まれていることが分かる。

先ほど道路側を必要に進められたのもこの本によるものだったのかと納得した。


「茨木さん、その本いつ買ったの?」

「ああこれ?楓の部屋にあったの。友達と出かけるのは始めてだからどうすればいいのか分からなくて。ほら、教科書とかもないでしょ?せめて似たような教材がないかなって思ったらあったから」

「東野君の私物!?」

「ええそうよ!帰り際にこっそり持ってきたの。」

どやっと本を目の前にかかげる茨木さん。

自信満々のどや顔がかわいいと思ったのは生まれて初めてである。

それにしても勝手に持ってきて大丈夫なのだろうかと思ったがお互い様らしいと聞いて安心した。



それ以前に中身が凄い気になる。

見せてと言ったら茨木さんは無言で本をぱらぱらと開きそのまま雑誌を閉じてしまった。

「望月さんにはちょっと刺激が強すぎるかも」

「R18!?」

「近いものがあるわね」

そういいながら雑誌をかばんに戻した茨木さん。

誠に残念である。今度東野君本人に見せてもらえるよう頼んでみよう。



そうこうしている内に映画館に到着した。

特に映画を決めていなかったため予告中の看板を見ながら気に入ったものを見ようという話しになった。


君のために生きる

アイアンメイデン

賭博地獄

キューティクルミッチ☆

僕は身長が低い

ホラー、アニメ、純愛もの。やっているものは様々だが私たちはある看板の前で佇んでいた。

そのタイトルは


灼熱のグラウンド~グラウンドが燃えている~

燃えているグラウンドの両端に劇画タッチの少年2人が描かれている。


「どの程度燃えているのかな?」

「サブタイトルをつけてまで重複させているなら相当燃えているのでしょうね」

なんともなしに茨木さんと見詰め合ってしまう


「これは流石につまらないよね?」

「ええ、そうね。つまらないと思うわ」

お互い笑ってはいるが引きつっているのがわかる。

ごめん茨木さん、これ絶対面白くないのは分かっているのだけど凄く見たい。

でもこのつまらなそうな映画に付き合わせるのは申し訳ないというときに差し出された右手、顔を上げれば微笑んでいる茨木さんがいた。

彼女の表情から同じ気持ちだったんだと悟った私は差し出された右手にすっと自分の右手を添える。私たちはもう迷わない。あとこの手できる限り洗いたくない。


「グラウンド14時から中高生で2枚ください」

カウンターにいるお姉さんからチケットを購入した。

その横で同じチケットを購入する2人。隠れる気がない。


「さて、映画まであと2時間30分あるね。その間にお昼食べちゃおうか」

「そうね、石田君と楓も一緒に食べる?」

映画館から出て時計を確認している最中に茨木さんが後ろを振り返りそう問いかけた。

流石に気付いていたよねと思ったが石田君と東野君は気付かれてないと思っていたらしく、酷く驚いた様子でこちらを見ている


「い、茨木さん!?気付いて…」

「馬鹿、望月さんにばれるだろ!」

東野君気付かれてないと思っていたのか。


「馬鹿はそっちよ、隠れるならもっとうまく隠れなさいな」

「はい、精進します!!」

精進しちゃいけない上に茨木さんも推奨しちゃ駄目だろうと思ったが私は言わない。

にこにこと隣で笑っている東野くんは変装用のサングラスを既に外していたようでその綺麗な瞳があらわになっている。


「私服かわいいね望月さん」

「あ、あ、ありがとう…」

普段褒められることが少ない私がそんな状態で褒められて照れないわけがない。だが勘違いをするな私、私服が褒められただけであって可愛いの形容詞は私にかかっていないんだ。


そういい聞かせても一度赤くなった頬は元にもどらなかった。

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