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茨木さんとお誘い

金曜日の放課後になると私は機嫌がよくなる。

理由は言わずもがなである。サークルにしか所属していない私は平日週2回の活動日に顔を出せばいいだけなので休日は完全にフリー。しかも今週はなんと!祭日と休日が重なったため月曜日は振替休日で3・連・休!

私の荒ぶれるハートが収まる筈も無く、最後の授業が終わったと同時に数学の教科書を力強くスクールバックに放り込んでいく。

1日目は石田君と一緒にファンクラブ発行、茨木さんのお気に入りプレイス本を片手に聖地巡礼する約束をしている。これで学校に行ってからの茨木さんとの会話も弾むってものだ。

2日目はゲームでもしようかなとうきうきしながら考えていると、肩に2度ぽんぽんと叩かれた感触を感じた。振りかえってみると茨木さんが先ほど肩をたたいた姿勢のまま立っている。その手をパッと自分の手元に戻した茨木さんは緊張しているのだろうか、そのまま両手を合わせ強く握り締めて何度か視線をさまよわせた後、決心したように私と目線を合わせる。

「も、望月さん、あのね」

「う、うん」

「明日――、私と一緒に遊びませんか?」


エンダァー!と私の脳内であの有名な曲が鳴り響くのを感じる。

即座に了解しようと口を開くがん?と踏みとどまる。明日は石田君との約束があった。

が、しかし目的は茨木さんの聖地巡礼。本人の足跡を辿るより本人と一緒に遊んだほうがいいに決まっている。ちらりと石田君のほうを見る。血が滲み出るくらい唇をかみ締めているがその指は行って来いとサインを出している。私にはもう迷いはなかった。

「喜んで!」

その後茨木さんとは明日駅前に11時集合の約束をして家に帰宅。


母に興奮のあまり支離滅裂な説明をしてしまったがそこは流石私の母、言いたいことを汲み取ってくれたらしい。

まぁ、あんた石田君以外にも一緒に遊べる友達いたの?しかもあの別嬪さんの子?やったじゃない!!って言ってくれた。

友達が少ない娘でごめんよ母さん。



部屋の中、今ある服を全てベッドの上に広げその前で仁王立ちをする。茨木さんとのお出かけにふさわしい服装ってなんだろうか。隣で歩いている茨木さんが「あの綺麗な子の隣にいる子ださーいあんな綺麗なのにあんな子としか友達になれないって相当性格悪いよねー」「わかるー」って言われて評価を下げられたら堪らない。そんな事にならないように当たり障り無く、かつ無難な服装をしなければいけない。となるとワンピース?ジーパン?ロングスカート?いろいろ思案してみるが、そもそも茨木さんの私服を見ないことには無難な服装が出来ないことに気付くと服選びは難航した。時計の針がついに11時をさし、考えることを放棄し始めた私はブリッジをしながらいっそのこと明日制服で行くかと思いかけていたとき、上下逆さまな視界の中携帯が点滅していることに気付く。起き上がり携帯を開くと3時間前に来ていたようで、差出人は東野君からだ。

内容は茨木さんがはしゃぎすぎて人の部屋までおしかけてきて大変という内容だった。

凄いやんわりとまとめたが優しげな文章の中に憎しみが滲み出ているのは気のせいではないと思う。

そっか、あの2人は幼馴染だったっけ。

茨木さんが普段どんな服を着ているのかももちろん知っているだろうし教えてくれるかも。

夜分遅くにすみませんが起きていたら返事をくれと思いながらメールを返す。


『遅くなってごめんね。私も楽しみなんだ!ところで茨木さんって普段どんな服装しているの?』

2分もしない内に帰ってきた。どうやら起きてくれていたようだ。

『面白みがない服装だよ。スカートはよく履いているけど派手な原色の服とかは持ってないと思う』

『シンプルってことかな?ありがとう参考にするね!』

『役に立てたならよかった。明日の望月さんの私服楽しみにしているね。』

なんで東野君が明日楽しみにするのだろうとは思ったがあまり遅くまでメールをするのも申し訳ないので無理矢理だがメールを切ってしまおう。

『ありがとう!おやすみなさい』


これでなんとかなりそうだと一息ついた後、そういえばまだ謝罪していなかったなと思い石田君の電話番号を携帯から探し出し電話する。東野君だと申し訳ない時間帯だが石田君なら許容範囲の時間だろう。

4回ほどコール音がなった後石田君は電話に出た。


『もしもし』

『もしもし、今日はごめんね石田君』

『気にすんな、俺も他の奴と出かけることにしたから』

『そうなの?てっきり茨木さんの尾行でもするのかと思っていたよ』

『いやするけど』

『ですよねー。なんか安心したよ』

『茨木さんの健やかな生活を見守ることはファンクラブの勤めだからな!』

『威張っちゃだめでしょ!ストーカーだめ絶対!』

『は?それは俺じゃなくて東野にいうべきだろ』

『え!?』

『あ、まずい。じゃあまた明日』

『え、詳しく聞きた』

慌てて聞き返そうとするがとき既に遅し、ぶつりと電話が切れた音がするだけだった。すぐさま2.3度リダイヤルをしたが出なかったのでこれ以上は話す気はないということだろう。が、分かった上で5回程さらに電話をしたら着信拒否をされてしまった。明日には解除されていることを願おう。


それにしても東野君ストーカーなのか。

茨木さんもそんな事を言っていたのを考えるとあながち嘘ではないかもしれない。

あんな生類全てを慈しんでそうなそうな顔をしているのにストーカーしちゃうとか、ほんと世の中はわからないことだらけである。

ま、どうせあのぐらい綺麗な人にストーカーされるなら被害者もきっと喜んで受け入れるのだろうけど。私も茨木さんにストーカーされるなら許せる。ただその場合ストーカー茨木さんをさらにストーカーしている石田君というオプションがつくのが考え物である。



さて、気分を変えて服選びを再開する。

その後、迷いに迷って結局花柄のワンピースに決めた。

去年の誕生日にはとこのお姉さんが買ってくれたものだ。

可愛いらしい服を着ることに抵抗があった去年の私は素直に喜べなかったが今は違う!

サンキューさつきお姉さん!

花柄のワンピースを頭上にかかげ、くるくると回転しながら部屋の中を回っていると、こちらをじーと見ている兄を発見した。丁度風呂から上がったきたところだったらしくタオルを首にかけている。

なにかを納得したように一度頷くと、「盆踊りの練習か、ガンバレよ」と声をかけるとフェードアウトしてしまった。


どうやら兄には私がうかれて踊る姿が盆踊りにしか見えなかったらしい。なんてこった!

その後1人になった私は急に恥ずかしくなり、全開だった扉をそっと閉め落ち着くために部屋中に広がっている服たちを片付けるのに精を出した。


寝る前にも先ほどのことを思い出してうがーとなりずっと布団の中でごろごろしていたのはご愛嬌である。

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