茨木さんってどんなヒト
高校生らしく図書館で勉強しようと教科書を開いた瞬間に記憶がなくなった私は気付いたら司書の先生に起こされていた。どうやら閉館時間だったようだ。
よかった、いびきがうるさくて起こされたんじゃなかったんだ。
私は下校すべく薄暗くなった校舎の中を歩いていた。
図書館から玄関に向かうにつれ窓から見える景色は、小降りだった雨がだんだん本降りになっているのをリアルタイムに教えてくれている。
けれど今日の朝母にいわれて傘をもってきている私には隙が無かった。
絶対振らないと思っていた私がぶつぶつ母に文句を言いながら登校したのもご愛嬌というものだと思う。
しかし玄関口に立っている茨木さんは違ったようで手にはカバンだけを持ち黙って外を見つめていた。
ふと中学の先生が熱く語っていた話を思い出した。遠い昔美女が遠くのものを見る際に目を細めた姿がとても美しいと町の娘達がこぞって真似をしだし町中が目つきの悪い不細工な顔に溢れたそうだ。つまり美人はなにをやっても許されるのよ!先生は許されないけどね!!と、どや顔で自虐ネタをしめくくった河西先生は元気だろうか。
つまりなにが言いたいのかというと彼女はなにをやっても許される美人な人ということで、
目を細める姿ひとつ取ってもまるで絵画から切り取られたような美しさがあった。
私の高校には国宝級の美しさと言われている人物が2人いる。
その内の一人
茨木 杏
シミひとつない白い肌に一際目立つ大きな黒い瞳、なにも塗っていないにも関わらずぷっくりと膨らんだ形のいい赤い唇、すっと通った鼻、ほんのりと色づいた頬、セミロングで整えられた漆黒の髪。
日本人形のようだと皆から言われているのをよく耳にするけど、なるほど近くで改めて見るとその通りだと思う。
身長はそれほど高くは無いが引き締まった体に大きなメロンが2つ。げふんげふんこれは失敬。
2年になりクラス替えによって同じクラスになったもののほとんど話したことはない。
それは私だけに限ったことではなく、彼女は友達が少ない、というか私の知っているかぎりではいない。
いつも一人窓際の席で外を見ているか読書をしているのが大半だ。1年の時もそうだったらしい。
とっつきにくい子かといわれればそうゆうことでもなく、話しかければにこやかに対応してくれる。
でも友達はいない。私が推測するに綺麗すぎて皆近寄れないのだろうなと思う。
告白はよくされているようだが全て断っているらしい。
とくかくそんな彼女が玄関口にいて声をかけない男がいるわけもなく
爽やかと噂されるイケメン君が徐々に茨木さんの背後から忍び寄る。
矢島君が口を開きさぁ声をかけるぞというその瞬間に茨木さんは雨に向かって走り出したではないか!
走り方が短距離ランナーのように様になっている茨木さんはどんどん小さくなり僅かな時間で後ろ姿さえ見えなくなってしまった。
矢島君は口を開きかけたまま固まっている。
暫くして行動を再開したと思ったら肩を落とし、とぼとぼと帰っていった。
そんな哀愁ただよう背中を見送った後、私も真っ黒のなんの変哲もない傘をさして帰った。
潔いダッシュだったなーとかあれは矢島君を避けるためだったのかどうかを考えながら
玄関口を通りすぎるともう一人の国宝級、東野君がいたけどスルーして帰ることにした。
今は東野君より茨木さんが気になるんです。
しばらく茨木さんを観察してみようかと思う。
ご閲覧ありがとうございました。
主人公が一言も話してないという罠…