62 お友だち
のそ……のそ……と橋ができていく。のはいいのだが。
「なぁ……これ渡って大丈夫かな……」
出来上がった橋はどことなく歪で、なんとなく不安を煽る出来だった。
「大丈夫、だとは思うが……ポチ、コロ、タマはやめたほうがいいかもしれんな……」
人程度の重さなら大丈夫かもしれないが、ポチコロタマが渡ると同じことになる予感がする。せっかくゴーレムが目の前で修復してくれた橋を、そのゴーレムの目の前で再度ぶっ壊すのはさすがに気が引けた。
「とりあえずグラナートが渡ればいいんじゃないか。監督不行届きの責任を取って」
「待て待て待て、フィリテ、俺を使って橋の安全性を試そうとするな、魔王だぞ、俺は!」
ポジション的には上司。それも、王、トップである。
「あぁ、うん。魔王だからこそ、部下のためにも自分で安全性を確認してきてくれ、責任を持って。部下のために動ける上司ってスバラシイ」
完全に棒読み。かけらも思っていないのがひしひしと伝わってくる。だが、グラナートはぐぬぅ……と唸って口を閉じた。ちょろい。
橋を作り終えたゴーレムは、崖の縁に岩の指を置いてじぃっとウルラートたちを見ている。見えているのかどうかは知らないが、とりあえず顔はこっちを向いている。
「え、なに……」
「ちょっと怖いんですけど……」
無表情なゴツゴツした岩の顔が、じぃぃっと。
圧が強い。
「ふむ……?どうした?」
グラナートがゴーレムを観察する。もちろん何も分からない。ポチコロタマは、崖縁に置かれたゴーレムの指に片足を乗せて“お手”の状態になっている。
「なんか言いたいことがあるんだろうけど……」
「言いたいことがあるってことは、自我はあるな。とすると、橋の保全のために造られたゴーレムじゃなさそうだ」
「……通るために対価を、とか、そういう話では……?いえ、対価を払うのが嫌というわけではないのですが」
ぶっ壊した側なのだから、むしろ払うべきであるが、何を払うべきなのかがわからない。金銭も食べ物もゴーレムには必要ないだろう。
相変わらずじぃっと見つめてくるゴーレムを見つめ返す、不毛なにらめっこが少し続き、そろそろ首が痛くなってきたあたりで、ふと、ポチコロタマの姿が見えないことに気づく。もちろん気づいたのは飼い主である。
「………ポチ、コロ、タマ、どこ行った?」
グラナートがキョロキョロと辺りを見回すと、ゴーレムにお手していたポチコロタマの黒い身体が、少し離れた茂みの中に見えた。
「あぁ。ポチ、コロ、タマ、終わったらちゃんと土をかけるんだぞ」
「わんっ!」
とてもいいお返事が聞こえた。つまりそういうことである。やめろ。
「……………おいまさか」
「うむ」
魔王の余裕たっぷり、鷹揚な頷きに、ウルラートは長い沈黙を挟んで、もういいや、とため息をついた。
「…………………………………………次の街で、スコップでも買うか……」
「別にいいだろう。街中で粗相しないよう躾けてある。覚えも早くてな」
自慢げな魔王を生温い目で眺めるしかない。
「…………あっそ」
「なんなんですか、本当にこの魔王は……」
一気に脱力したウルラートとピスティ。一行をまとめて見下ろすゴーレム。その前に、尻尾をフリフリ、お尻もフリフリ、ご機嫌なポチコロタマが何か咥えてきた。厳密にはポチが何か咥えてきた。
「ん?なんだ?」
ゴロンと放り出された、古びた立て札。それを一斉に覗き込む。
「なんだこれ……よくわかんねぇな……」
古ぼけてかすれた表面の立て札はだいぶ古い。
なんとか読もうと、立て札を全員で額を突き合わせて、じぃっと見る。
そしてなんとか読める部分をつなぎ合わせて導き出された文章は。
『この橋は私のお友だちの橋です。私のお友だちにお花の種をください。お友だちはかわいいものが好きです』
口を閉ざした。沈黙が流れる。
「………この立て札は見るからにかなり古い。これを書いたのが人間なら、年老いているか、もう……」
グラナートが立て札の表面を拭って汚れを払う。
「お友達……」
ピスティがゴーレムを見上げる。ただ黙ってそこに立つゴーレム。そこにいて、橋が壊れたら橋を直しに起きてくる。
魔物は、壊すものではなかったのか。しばらく思考の隅に追いやられていた思想がまたピスティの心を掠めていく。
「響魔は、契約した人間が死んだら一緒に消える。こいつが消えてないなら、人間が生きているか、そもそも響魔契約をしていないかのどちらかだ」
「おそらく、そういう契約はしていなかったんだろう。でなければ、ここにゴーレムが放置されているのは不自然だからな」
フィリテとグラナートがゴーレムと立て札を見比べ、ウルラートは立て札を見つめ、ピスティはゴーレムを見つめている。
このゴーレムは、ずっと橋を守り続けていたのだろう。何を思って続けているのかを測り知ることはできないが、“お友だち”の存在はきっと、無視できないものだった。
崖縁に置かれ、ポチコロタマにお手されていたその指は、茂みの方を向いている。
あっちにあるよ。
そう言っているように。
かつてこの橋を憩いの場にしていた誰かとゴーレムが、通行料に花の種を望んでいる。
ゴーレムはずっと守っている。この橋を、お友だちの誰かがいた場所を。
「……………響魔でなくても、人間と魔族が一緒にいる、ということですか……」
「まぁ……アスモデウスのところもそんな感じではあったけど……」
愛の街だけが特別なのだろうと、どこかで思っていたのに。
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