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43/61

43 赤

 地に落ちた天使をグラナートの剣が地面に縫いつけ、容赦なく首を刎ねた。

 そこまでしてようやく天使の動きが止まる。

「このあたりに来ていたのは2体だけ、か……?ウル、もう少し周りを……ウル?」

 グラナートが天使から顔を上げて周りを見回すが、周りは燃える炎と残骸と化した村、怪我をしている村人、泣いている子どもたち。

 ウルラートはいない。

「ウルラート様なら、クリアール様を探しに行かれました」

 村の住人を治療しながらピスティが口を挟むと、グラナートはため息をついた。

「敵がいるかもしれんというのに」

「敵ではありません。天使様です」

 ピスティの声が固い。その声音の変化に、グラナートは眉根を寄せたが、言葉を返すことはしなかった。

 ピスティの光魔法が怪我人を癒す。グラナートはその傍を、周りを警戒しながら守る。

 怪我人のうめき声と泣き声以外は、残火が跳ねる音しかしない。

「………なぜ、天使様が」

 ポツリとピスティがこぼした。顔を上げることなく、手元の傷と癒しの光に視線を落としたまま。それに、グラナートは何かを返そうとして、一度口を開き、そして閉じた。

 そこに足音が近づいてくる。

「グラナート、ピスティ」

「フィリテか。こっちはひとまず落ち着いた」

 グラナートがとどめを刺した天使に目をやって、フィリテが空を見る。

「2体だけ、か。少ないな。で、ウルラートは」

「クリアールを探しに行った。ここ、任せられるか。ウルを探してくる」

 フィリテが頷いて役割を交代し、グラナートはその場を離れた。



 ウルラートはまず、自分の家の方ではなく、その反対、村の魔族領側に茂る小さな森に足を運んだ。

 クリアールはよくこちら側に足を運んでいた。なぜだっただろうか。わざわざその理由を聞いたこともなかった気がする。

「クリアール!」

 あれだけの騒ぎになって、あのクソ親父が黙って寝こけているわけでもないだろう、と、家を除外したのだが、ここはハズレか?

 ウルラートが首をかしげながら、さらに歩を進めた。

「クリアール!いるか?怪我でもしてんのか?いないならいないって返事しろよ」

 呼んでもどこからも返事が返ってこない。

「ったく……ほかの場所かな……」

 だんだん首をもたげてくる不安をため息と一緒に吐き出す。

「ウル……?」

 探していた声より幾分高い声が、もう少し奥から震えているように聞こえた。ウルラートが村に帰ってきたときに出迎えに来た小さなエルフが、泣いている。

 その声を追って、ウルラートはさらに奥に向かった。

「どこだ?怪我でもしたのか?」

 慣れた様子でガサガサと茂みをかき分けて声の主を探す。

「おい、大丈夫か?」

「ウル、来ちゃダメ!」

 最後の茂みを踏み倒してウルラートがその先を視界に入れるのとほぼ同時に小さなエルフが絶叫した。

「は?なんだよ、デカい声出し、て……」

 茂みを踏み倒した足が、木の枝を払う手が、小さなエルフと育ての親を探していたその目が。

 凍りついたように、動きを止めた。呼吸すら止まった気がした。

「ぁ……」

 ウルラートより先に、小さなエルフが声を出した。

 その声に反応して、ウルラートの視線がゆっくりと地面を這い、小さなエルフを捉えた。

「ウル……」

 涙でぐちゃぐちゃになった顔に赤いものをつけた小さなエルフが、ウルラートを見上げて言葉を失った。

 凍りついたように動かないウルラート。その視線がまた、地面を這う。その先にあるのは、脳裏に焼き付くほどに鮮烈な、赤。

「親父……?」

 ぽろり、と、地面に広がる赤の上に、ウルラートの声が落ちた。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回更新は土曜日12時を予定していますので、またよろしくお願いします。

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