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03 勇者の剣を振るうのもまた務め

3話目です。よろしくお願いします。

 そして翌日。

「………………昨日のことが夢みたいだ、夢であってくれ……」

 朝陽に叩き起こされてノソノソと動き出す。

 一体何が悲しくて、楽しみにしていた屋台巡りを延期してまで王宮騎士団長と決闘しなければならないのか。

 端的に、率直に言って、

「ものすごく嫌だ……」

 これに尽きる。可哀想に。

 それでも時間は無情に過ぎるし、お偉いさん2人との約束をすっぽかすわけにもいかない。何より、物凄くきらびやかな剣が朝陽の中で存在を主張している。

 めっちゃ目立つ。しかも、ほぼほぼ成人の儀式に形骸化していたこの勇者の剣、よく考えなくても、大人はみんな見たことがあるのである。

「…………布巻くか……」

 ため息をついて大判の布をバサリと広げた。

 どうして朝から剣を布でぐるぐる巻きにしているのか。どうしてこれから王宮騎士団長と一騎打ちなのか。

 ムカつくくらい、空は晴れ渡っていた。



 布でぐるぐる巻きの剣を担いで、再び王宮の門をくぐる。

 当たり前だが昨日とは別の部屋に通された。

「おはようございます、勇者様」

 ひょぇっ……と変な音が漏れた。

「ヴィテス殿がお待ちです。こちらへどうぞ」

 行きたくないこと山のごとしであるが、行かざるを得ないのでしぶしぶ歩く。死刑台にでも登るような心持ちである。可哀想に(2回目)。

 嫌だ嫌だとごねても足が進めばいずれは到着するもので。

「来たな、ウルラート」

「……………はい……」

「なんだ、飯は食ったのか?」

「一応……」

 ヴィテスの前に立ったウルラートの目が死んでいた。

「さ、勇者様、ヴィテス殿。よろしいですか?」

 そして相変わらずエレオスは空気を読まなかった。

「まったく良くないけどもういいです……」

「では、ウルラート。剣を抜け」

「え?」

 昨日申告したし、と得意なフィールドである拳で戦う気満々だったウルラートの口から間抜けな音が溢れる。

「当然だろう。勇者の剣を振るうこともまた勇者の務めなのだから」

 ヴィテスが磨き上げられた愛剣をスラリと引き抜く。剣を扱い慣れた動作は洗練されて美しかった。

 だがそれはそれとして、勇者の剣は布でぐるぐる巻きのままである。だって使う気なかったし。

 そういうわけで、決闘はウルラートが布から剣を引っ張り出すという格好のつかない形で始まったのだった。


「行くぞ!」

 初老と侮るなかれ、王宮騎士団長を任されるヴィテスの動きは歳を感じさせない速度と滑らかさで歳を重ねた技術を振るう。

 ガキンッと激しい音がなった。

「いっ……!」

 想定外、いや、想定以上の重さと衝撃が勇者の剣を伝ってウルラートの体を震わせる。

 剣を扱い慣れないウルラートはそれを受け止めるので精一杯。しかし、ヴィテスの動きそのものにはきっちりついていく。

 ヴィテスが加減をしているのかどうかは分からないが、少なくとも、ヴィテスの剣戟をウルラートは全て剣で受け止めていた。当然、腕はめちゃくちゃ痺れて痛い。それでも、剣を握る手を緩めることなく、視線はヴィテスから外れることもない。

 必死に剣の重みを制御し、なんとか反撃に転じるが一撃を入れるには今一歩及ばない。

「そんな腕では魔王と戦う前に死んでしまうぞ!」

 せっかく勇者が選ばれたのだ、やすやすと失いたくはない。ヴィテスが声を張り上げて叱咤する。

 ブチッ、と、ウルラートの中で何かがキレた。

 ガジャン、と音を立てて勇者の剣が地面に落ちる。昨日あれだけ、宝石が落ちたら、剣が傷ついたら、とビクビクして抱きかかえていた剣が地面を転がり……

「知るかぁぁぁっ!!」

 ウルラートの拳が魔力でコーティングされてヴィテスの剣を弾き飛ばした。

 一瞬、場の空気が凍る。

「ほぉ……」

「魔力コーティングありとは言え、ヴィテス殿の剣を拳で……」

 これは面白い、と言わんばかりの2人の視線が、やっべぇ……という顔で固まっているウルラートを見つめる。

「魔力コーティングできるなら、範囲拡大して剣まで自分の一部としてコーティングしてしまえばいけそうですね」

「いけないけど?」

「剣を振るうのも勇者の務め。俺がみっちり鍛えてやろう」

「いや、いいです……」

「「さぁ、もう一回」」

 逃げ場はなかった。開き直って剣を投げ捨てたばかりに、余計に逃げられなくなってしまった。余計なことはするものではない。

 それから3日間、朝から晩までウルラートはみっちり剣を叩き込まれたのであった。


「ふむ、3日でこれなら上出来だな」

「そうですね。魔物の動きが活発になっていますし、これ以上引っ張るのも得策ではありません」

 地獄のような3日間を乗り切ったウルラートはまたもや口から魂が抜けていた。

 王宮騎士団長に朝から晩までタイマンさせられ、上級神官からは魔力コーティングの範囲を広げるための魔力操作を同時進行で叩き込まれたのである。普通に無理ゲーであった。

 だが、ウルラートはそれを乗り切る素地があったらしい。

「も、もう無理……もう嫌だ……」

 それはそれとしてもういろいろ無理そうではあったが。

「まぁ一応、格好はついたな」

「そうですね。一応は」

 評価はそれなりではあったが一応合格ラインといったところだろうか。

「では、勇者様」

「な、なに……」

 ビクッと震えてエレオスを見上げるウルラート。

「午後から、響鳴ノ祝を執り行います」

 静寂。ウルラートがその言葉を理解するまで少し時間を要した。

「………誰の?」

「あなたのです。勇者様」

「俺の?」

「はい」

「響魔契約?」

「はい」

「午後から?」

「はい」

 そしてまた沈黙。

「やった!!!!」

 ウルラートはとても現金……いや、素直な男であった。

 へたり込んでいた体を軽快に立ち上がらせ、待ってましたと言わんばかりの顔になる。

 想いが響鳴する人間と魔物を引き合わせる儀式。

 ウルラートの場合は、魔王と戦うための相棒になるであろう魔物。

「ど、どうしよう……強くてかっこいいやつもいいけど、こう、可愛いもふもふとかも癒しって感じでいいよな……ごついやつも頼りになりそうだし……乗れるようなサイズとかも捨てがたい……」

 夢と妄想が膨らんでいる。元気そうで何よりだ。

「………別に理想通りの魔物が来るとは限らんがな」

「まぁいいんじゃないですか。夢と現実は別物ですし」

 完全にドリーム入ってるウルラートを微笑ましく見守りながら2人は辛辣な言葉を口にした。

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