ep.8 深い闇の記憶
目の前の小さな赤と黒の何か。
焦げるとは別の鼻につく匂い。これは何だろう。
ぼやけていた視界がだんだん鮮明になっていく。
赤いのは炎だ。
最初は小さく弱かった火がどんどん強く燃え盛る炎に変わっていく。炎の中にいる人影はこっちを見ている。
何か言っている様な気がするが何も分からない。
広がった炎に隠れた地面には、飛び散っている血と黒く焦げた何かが転がっている。
その数は一つや二つじゃない。目の前に多く転がる黒い何かと血から下を向き目を背ける。
手は赤黒い血で汚れてい近くには血まみれの剣が落ちていた。
(これは何なんだろう?精神干渉魔法にしては出来すぎている。じゃあ、誰かの記憶?でも、誰の⋯⋯?)
そこでプツっと映像が消えたように真っ暗になった。
目を開いたらそこは寮のベッドの上だった。
頬を伝い垂れた汗がポツポツと布団を湿らせている。
「なんだっけ⋯⋯?今、何か嫌な夢を見てた気がする⋯⋯。」
思い出そうしても思い出せない。
ただ、背筋が凍りそうになるほどの憎悪と嫌悪感は覚えている。
初めて魔人と会った時だ。
あれは、私が魔女と言われ始めたばかりの頃、突然私の前に現れた。
「えっと、確か⋯⋯そう、ユフィーアだ、お久しぶりです。ユフィーア・エスプリア様」
「あ、貴方は⋯⋯?」
「お忘れになられてしまったのですね。では、軽く自己紹介を。私の名はフェスリダン。貴方様の腹心の者です。」
「腹心?何を言っているの?私は今まで一人で暮らして来て⋯⋯」
今までの事を思い出そうとすると頭がズキっと痛む。
「痛っ⋯⋯」
「今はあまり、無理をなさらないでください。まだ負荷がかかってる状態ですからね。ユフィーア様もお辛そうなので今日はこの辺で。また会いに来ますね。その時は共に帰りましょう。では。」
そう言ってフェスリダンと名乗る魔人は居なくなった。
フェスリダンが居なくなった瞬間、ユフィーアは張っていた気が緩んだせいか、安堵して膝から崩れ落ちた。
圧倒される様な魔力とフェスリダンが去り際に見せた笑顔は、異常なまでの執着と狂恋を含んでいた。
現れた瞬間の重圧は高位の魔物からも感じられない程大きなもので、体の震えを抑えるのも苦労したくらいだ。
結局、今になってもあの時の事はよく分かっていない。
朝から昔の事を思い出していても仕方ない!と勢いよく立ち上がり切り替えてお風呂に入る事にした。
いつもより早く起きたおかげで今日はいつも以上に時間に余裕がある。
お風呂に入ったらのんびり食事でもしようかな、とそんな事を考えていた矢先、一瞬歪な魔力を感じた。
違和感を感じたユフィーアは、即座に魔力探索を使うが既に魔力は感じられなくなっていた。
感じた魔力は人の物とは違い圧を感じる。
魔物に近い感じがしたがそれとも少し違う。
感じた事のあるような魔力だが思い出せない。
警戒をしながら、あの魔力の正体はなんだったのか、と考えながら生活をしていたら一週間も経っていた。歪な魔力はあの日以降一度も感じられていないが、一週間も経てば授業も進み、ついに初めての実践演習の授業がやってきた。




