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第3話 【緊急クエスト】深夜の水属性攻撃(おねしょ)により、俺の尊厳が水没した件

孤高を愛する5歳児にも、抗えない運命がある。

それは深夜の生理現象。

今朝、俺の布団には、見知らぬ「世界地図」が描かれていた――。

1.冷たい海原での目覚め


 午前5時12分。

 俺は、下半身に広がる不快な冷たさによって、強制的に覚醒させられた。

 目を開けると、そこはいつもの寝室だ。だが、俺の置かれた状況は、平常時とは決定的に異なっていた。


「……バカな」


 俺は震える声で呟いた。

 布団をめくる。そこには、俺の腰を中心として、見事な円形のシミ――通称「世界地図」が広がっていた。

 おねしょ。

 幼児期における最大の失態であり、ダンディズムを追求する俺にとって、決して許されざる尊厳の欠落。

 昨夜、風呂上がりに飲んだフルーツ牛乳が美味すぎたのが敗因か。いや、夢の中でトイレに行ったのが運の尽きだった。夢の中のトイレは、現実世界の洪水ゲートと直結しているというトラップに、まんまと嵌まったのだ。


「……隠蔽工作を開始する」


 俺は即座に行動を開始した。

 現在、隣で寝ている「溶接ゴリラ」こと親父殿は、地響きのようなイビキをかいて熟睡中だ。

 問題は、逆サイドにいる「絶対権力者」こと親父の嫁(母上)だ。彼女の朝は遅いが、この異臭(アンモニア臭)を感知されたら終わりだ。

 俺は音もなく布団から抜け出し、濡れたパジャマのズボンを脱ぎ捨てた。


2.証拠隠滅の難易度


 作戦目標:シーツの洗浄、および乾燥。

 しかし、俺は重大な事実に直面した。

 濡れたシーツは重い。水分を含んだ布地は、5歳児の筋力では持ち上げることすら困難な質量兵器と化していた。

 しかも、洗濯機を回せばその駆動音で親父の嫁が目覚めるリスクがある。手洗い? この広大な地図を? 不可能だ。


「……詰んだ」


 俺がパンツ一丁で絶望に打ちひしがれていると、背後で気配がした。


「……りたろー?」


 心臓が止まるかと思った。

 恐る恐る振り返ると、そこには半目で髪を爆発させた、寝起きの怪獣(親父の嫁)が立っていた。


「こんな朝早くから何して……あ」


 彼女の視線が、俺の下半身と、その背後にある世界地図へと注がれる。

 万事休す。

 罵倒か? 嘲笑か?

 俺はギュッと目を瞑り、処刑の時を待った。

 だが、降ってきたのは予想外の言葉だった。


「あらー、やっちゃったねぇ。豪快な地図だこと」


 目を開けると、彼女はニヤニヤしながらも、手際よくシーツを剥がし始めていた。


「母上……その、これは不可抗力による事故であり……」


「はいはい、言い訳しない。着替えなさい。風邪ひくよ」


 彼女は新しいパンツとズボンを投げてよこすと、重たいシーツを軽々と抱え上げた。

 怒っていない。

 それどころか、その手つきは慣れたもので、どこか慈愛すら感じさせる。


3.王者の風格


 数分後。  証拠品シーツは洗濯機に放り込まれ、俺は新しい服に身を包んでいた。  完全犯罪は失敗したが、社会的抹殺は免れた。

 親父の嫁は、「よいしょっ!」と巨大な敷布団を担ぎ上げ、庭へと向かおうとした。天日干しによる完全証拠隠滅を図るつもりだ。

 その時、寝室のドアが開き、あくびを噛み殺しながら家ゴリラが出てきた。洗濯機の駆動音程度ではピクリともしないこの男が起きるとは、よほど喉が渇いたのだろう。


「……ん?」


 親父殿は、朝から重労働に勤しむ妻と、その横で項垂れる俺を見て、足を止めた。

 俺はビクリと震えた。バレれば、男としての沽券に関わる。

 親父の嫁は、担いだ布団の陰からニカっと笑った。


「おはよ、晃くん。今日はいい天気だからね、リタくんの布団、干してくる!」


 それだけだ。余計な説明はない。

 だが、親父殿の視線は、俺の新しいズボンと、庭へ運ばれていく布団の濡れたシミを捉えていたはずだ。

 沈黙が流れる。

 嘲笑か。呆れか。

 俺が身構えた、その時だった。


「……そうか」


 親父殿は短く呟くと、俺の頭にその大きな手を置いた。

 そして、無言のままガシガシと乱暴に、しかし温かく撫で回した。


 ……それだけだった。

 怒られることも、冷やかされることもない。

 ただ、「そういうこともある」という男同士の無骨な肯定だけがそこにあった。


「……面目ない」


 俺は小さく呟いた。

 この家では、失敗すらも笑い話に変換され、日常の一部として消化されていく。

 その懐の深さに、俺はまたしても敗北感を味わうのだった。


 ちなみにその日の夕飯は、水分を控えた焼き魚定食だった。

 絶対権力者の危機管理能力(再発防止策)には、隙がない。


(第3話 完)

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