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魔王軍物語 ~ ドタバタ会議室 ~  作者: じゆう七ON
第1章 元勇者の魔王タロウ誕生!

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9/12

9話 新魔王歓迎パーティ計画の会議、その波乱の幕開け 1日目

 魔界の朝は、重く、そして静かだ。しかし、この日の魔王城は、その静寂とは裏腹に、張り詰めた空気が漂っていた。魔界の玉座に、かつての宿敵であった勇者が、新魔王として君臨した。その就任を記念して、かつてない壮大な歓迎パーティが開催されることになり、新魔王が「――伝説で必殺の宴にせよ」と号令を発したからだ。


 魔王軍の幹部たちは、威信をかけた企画会議のため、続々と本部へと集結する。玉座の間から聞こえる、新魔王の楽しげな笑い声。その声が、これから始まる会議の不穏な空気を、一層色濃くしているようだった。


 会議室の窓の外には、魔界特有の紫色の空が広がり、不気味な静けさが漂う。しかし、部屋の中はすでに、これから始まる激論を予感させるような、張り詰めた空気に満ちていた。


 スラポンが壇上に立ち、いつものように冷静に議題を読み上げる。その声は、重苦しい空気を切り裂くかのように、はっきりと響き渡った。


「それでは、議題を始めます。新魔王様歓迎パーティの企画について……。新時代を象徴する、伝説で必殺の宴とすべく、皆様の忌憚(きたん)なきご意見を伺いたいと思います」


 その言葉を合図に、ヴァパイアが優雅に扇子を広げる。彼女の目は、まるで獲物を定めたかのように鋭く光り、唇には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。


「品位を第一に、格式高い舞踏会を催すべきですわ」


 彼女はゆっくりと扇子を閉じ、高貴な仕草で胸に手を当てた。


「我が魔界の威厳を内外に示す、絶好の機会かと存じます。それに、新魔王様も、きっとそのような場をお好みになるでしょう。彼が元人間であろうと、魔王となったからには、最高の格式で迎え入れるべきですわ。それが、わたくしたち貴族の務めですもの」


 ヴァパイアの発言に、グリモアは静かに首を横に振る。古びた歴史書を音を立てて開き、その分厚い頁から顔を上げて、淡々とした声で語り始めた。その声には、千年の時を重ねてきた重みが宿っている。


「かつての魔王は、その力を示すために、己が魔力を凝縮した巨大な結晶を創造し、それを来賓に与えていた……。パーティとは、親睦の場であると同時に、力の証明の場であるべきである。新魔王も、己の偉大なる魔力を、宴の場で示すべきなのだ。それが、魔界の伝統であり、誇りである」


 その重厚な議論を、セイレンの美しい歌声が優しく包み込んだ。彼女は目を閉じ、指先で空中にメロディーを描くように、詩的な言葉を紡ぎ出す。


「あら、そんな無粋なことよりも……」


 セイレンは、かすかに首をかしげ、遠い空を見つめるように目を細めた。


「パーティは、音楽と歌で彩るべきだわ。皆の魂を揺さぶるような、美しい旋律を奏でれば……新魔王様の御心も、きっと癒されるはずよ……。力や格式だけでは、魔界の真の魅力は伝わらないわ。心に響く、本物の芸術こそが、伝説となる宴には必要なの」


 その時、会議室の隅から、キュウリを(かじ)る「ボリボリ」という音が場違いに響いてきた。カッパがマイペースに口を開く。彼の頭の上にある皿には、水が満たされ、まるで世界が自分だけのものだとでも言いたげな、のんびりとした雰囲気を漂わせている。


「パーティ、水、大事……」


 カッパはキュウリをもう一口(かじ)り、ぼんやりと天井を見つめた。


「水、いっぱい、ある? キュウリ、いる? 水がないと、喉、乾く……。キュウリがないと、元気、出ない……」


 カッパの場違いな発言に、ガーゴイルは額に深い皺を刻み、両目を怒りで真っ赤に光らせた。その威圧的な視線は、カッパに突き刺さり、空気を震わせる。


「何を言っているのだ、カッパ!」


 彼は両手をテーブルに突き、身を乗り出した。その迫力は、会議室の空気を一変させる。


「パーティの議題に、なぜ水とキュウリが出てくる! その発言は、魔王軍の規律を乱すものではないか! お前、それで本当にいいと思っているのか!? この会議は、魔界の未来を決める神聖な場だ! 水とキュウリでその品格を汚すなど、断じて許されん!」


 議論が白熱し始めたところで、スラポンが冷静な声で全員の言葉を遮った。彼の額には、わずかに汗が浮かんでいるが、その表情はあくまで平静を保っている。


「……皆さん、落ち着いて。それぞれの意見は理解しました。しかし、どれも一筋縄ではいかないものばかりです。ここは一度、新魔王様ご本人に、ご意見を伺うべきでしょう。直接、伝説で必殺のアイデアを伺うことにします」


 スラポンがそう言い終わった瞬間、会議室の扉が勢いよく開き、コボルトが息を切らせて飛び込んできた。彼の小さな体は震え、汗と涙でぐしょぐしょになっている。


「あ、あの……! 新魔王様が、今、玉座の間にいらっしゃるんですけど、ご、ご用事があって、行けないから、代わりに、僕に行ってくれって……!」


 彼はぎゅっと目を(つむ)り、両手を強く握りしめた。


「僕、何も悪いことしてないっす……! 本当っす……!」


 会議室がざわつき始める。ヴァパイアが不機嫌そうに扇子を閉じ、眉をひそめて問いかけた。


「御用事ですって? 我が魔界の未来を左右する宴の会議よりも、優先すべき用事とは何でございましょうか?」


 彼女は顔を歪め、鋭い視線をコボルトに向けた。


「まさか、くだらぬ遊興(ゆうきょう)ではないでしょうね? そんなこと、あってはなりませんわ」


 全員の視線が、コボルトに集まる。彼は顔を真っ赤にして、小さく震えながら、絞り出すような声で正直に答えた。


「あ、あの……ジュエルさんと、いちゃいちゃされてるので、今は、無理だって……」


 その言葉に、会議室の空気が一瞬で凍りついた。魔王軍の幹部たちの顔に、怒りと軽蔑の色が浮かぶ。


 オニは、はっと息をのむと、虚ろな目で宙を睨んだ。その静かな怒りは、誰よりも深く、鋭い。


「……くだらん……っ。我が身を挺して、新魔王様に尽くすはずが、遊興に溺れているとは……。こんな会議、意味がない……。もはや、我々の存在は、新魔王様にとって、ただの遊び相手に過ぎないのか……。戦場での血と汗は、こんなくだらんもののために流したわけではない」


 ヴァパイアは、信じられないというように両手で口を覆い、身震いする。


「な、なんて品位を損なうこと……! 玉座とは、神聖な場所ではございませんか!」


 彼女は怒りに顔を紅潮(こうちょう)させ、震える声で続けた。


「そのような場所で、不謹慎なことをするとは……! 私は認めませんわ! このような者が、魔王だなんて……! 魔王の座が、これほどまでに軽んじられるとは……! 信じられませんわ……!」


 グリモアは、静かに目を閉じ、深くため息をついた。その姿からは、途方もない失望が感じられる。


「……歴史にも類を見ない、前代未聞の愚行である……。かつての魔王は、常に威厳を保ち、己の存在そのもので魔界を統治していた……。玉座とは、魔王の威厳が凝縮された場所である。その威厳が、このようなことで地に落ちるなど……、言語道断である……。書物に記すことすら、恥ずべきことだ……!」


 混乱が頂点に達したとき、スラポンは再び冷静に、しかし、どこか戸惑いを含んだ声で彼らをなだめる。


「……落ち着いてください……」


 彼は、一度深呼吸をすると、ゆっくりと続けた。


「……まずは、この状況を、整理するぽん……いや、整理する必要があります。感情的になっても、何も解決しません。このままでは、伝説で必殺どころか、ただの惨めな宴になってしまう」


 会議室が騒然とする中、重厚な扉がゆっくりと開き、新魔王がジュエルと共に現れた。彼のローブはわずかに乱れ、頬は少し赤らんでいる。ジュエルは、彼の隣で、どこか誇らしげな表情を浮かべている。その姿は、会議室の怒りをさらに煽るかのようだった。しかし、新魔王は、一切の動揺を見せず、一歩踏み出す。彼の瞳には、かつての勇者としての、強い意志が宿っていた。


「――静まれ」


 その一言が、会議室に響き渡ると、先ほどの喧騒は嘘のように消え去り、絶対の静寂が支配した。それは、嵐の前の静けさでもなく、激しい熱湯に投げ込まれた氷塊が、一瞬で蒸発したかのような、五感の全てを奪うような静寂だった。新魔王は、静かに顔を上げ、少し照れくさそうに、しかし真摯な声で話し始めた。


「本当にごめんなさい。ずっと、女性からキモいって言われ続けてた人生だったので……」


 彼は、ゆっくりと頭を下げた。


「20年振りに女性と話せた事があまりにも嬉しくて、舞い上がってしまって、失礼な態度をとってしまいました。ちゃんと反省しています。もしよければ、ちゃんとした話す機会をもらえませんか? 私は、皆さんと向き合いたいと思っています」


 新魔王の言葉に、ジュエルがそっと彼の隣に立ち、優雅に頭を下げた。彼女の言葉は、まるで詩を朗読するかのようだ。


「ずっと女性と話したことがなく、キモがられていたとのことで、あまりに美しき魂だと感じ、つい話し込んでしまいました……。美しき心は、誰にも拒まれるべきではないのですわ……」


 彼女は、新魔王の肩にそっと手を置き、その言葉に力を込めた。


「この愛と希望に満ちた魂を、わたくしは守りたいのです。このような美しい物語を、決して他者に汚させるわけにはいかないのです」


 ジュエルの言葉に、会議室の幹部たちは、何とも言えない表情で立ち尽くした。怒りも軽蔑も、すべてが宙に浮いたような、奇妙な静けさだった。


 その沈黙を破り、スラポンが冷静な声で、新たな提案を口にする。


「……新魔王たるもの、女性にもモテていただけなければ、魔界の未来は暗いぽん……、困ります。ここは、各部門から代表を選出し、曜日ごとの『お相手』を任命してはぽん……いかがでしょうか。新魔王様には、様々な美の形を知っていただく必要があります」


 スラポンの提案に、ヴァパイアが優雅に笑みを浮かべ、扇子を広げた。その顔には、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。


「あら、新魔王様って、可愛らしい方ですこと……。そのようなご経験がおありとは、存じ上げませんでしたわ。曜日ごとだなんて、無粋ですわ。精気を吸い取って差し上げるのは、わたくし一人で十分ですわ。わたくしこそが、魔界で最も高貴な血統を持つ者ですもの。新魔王様のお相手として、最も相応しいのは、このわたくししかいませんわ」


 ヴァパイアの発言に、ジュエルとセイレンが、一斉に反発する。ジュエルは目を輝かせ、芸術的なポーズを取る。


「何を言っているの、ヴァパイア!」


 彼女は片手を高く掲げ、まるで舞台女優のように声を張り上げた。


「わたくしなら、新魔王様の心を、より高貴な美で満たして差し上げられるわ! あんなことやこんなことまで、芸術的な会話を……! わたくしこそ、新魔王様に相応しい、美のミューズですわ! あなたの退廃的な美など、わたくしの創造する美には足元にも及ばないわ!」


 セイレンが、歌うように優雅に微笑む。その声は、まるで水面に広がる波紋のように、会議室全体に広がっていく。


「あら、ジュエル。歌を忘れてはいけないわ……。私が、新魔王様の心を、忘れられない旋律で満たしてあげる……!」


 彼女は、そっと目を閉じ、遠い記憶をたどるように続けた。


「誰も知らないような、とっておきのメロディーで……! あなたの魂を、私の歌で包んであげる……。愛と希望に満ちた、永遠の歌で……」


 三つ巴の言い争いが始まるのを前に、ガーゴイルが額に青筋を立て、目を赤く光らせて大喝する。彼の声は、まるで岩盤を砕くかのように響き渡った。


「お前たち、それで本当にいいと思っているのか? 新魔王様の座は、そのような低俗な遊興のために存在するのではない! その発言は、魔王軍の規律を乱すものだ! 新魔王様の威厳を、何だと思っているのだ! そのくだらない(いさか)いはやめろ!」


 会議室が再び混乱に陥る。スラポンは、一瞬だけ感情を露わにしかけるも、すぐに冷静な表情に戻る。


「……皆様、落ち着いてください。このままでは、議論が進みません。新魔王様、どうか、この混乱を収めてください」


 新魔王は、顔を上げ、深い溜息をついた。彼の瞳には、かつての疲労感とは違う、確固たる意志が宿っていた。


「――静まれ」


 絶対の静寂が、会議室を支配する。新魔王は、全員をまっすぐに見つめ、後悔と決意が入り混じった声で語り始めた。


「本当に申し訳ない。私の私的な理由で、この大切な会議を脱線させてしまった。だが、今、この混乱を目の当たりにして、はっきりと分かった。――伝説で必殺のパーティーとは、美や規律、力の証明だけではない。それは、心を繋ぎ、新しい文化を創造する場だ。勇者や魔王、種族の垣根を越え、互いを理解し、尊重し合うことで、真の強さは生まれる。この宴は、その第一歩なのだ。私は、皆さんと共に、新しい魔界を創りたい」


 新魔王の言葉に、スラポンは深く感銘を受け、静かに頭を垂れた。


「……新魔王様。その御言葉、誠にごもっともです。このスラポン、深く感銘を受けました。新魔王様こそ、我々が探し求めていた真の指導者かもしれません」


 ジュエルは、新魔王の言葉に感極まり、両手を広げてクルクルと回る。


「ああ! なんて芸術的な御言葉なの! 心を繋ぐ美の宴だなんて、わたくしの魂が震えるわ! あの玉座、もうラメだけじゃなくて、希望と愛のクリスタルで埋め尽くすわ! ええ、絶対に! わたくしが、あの玉座を、世界で最も美しいアート作品にしてみせますわ! 伝説で必殺の美の革命ですわ!」


 その言葉に、ヴァパイアが鼻で笑い、扇子を優雅に揺らす。


「あら、ジュエル。美しさとは、表面を飾るものではございませんわ。内面から滲み出る、気品ある振る舞いこそが、真の美。その薄っぺらいクリスタルとラメは、わたくしの優雅な一歩には遠く及びませんわ。あなたのような派手な美しさなど、下品なものですわ」


 ヴァパイアの挑発に、セイレンが静かに目を閉じ、切ないメロディーを口ずさむ。


「……そう、表面だけじゃ、だめなの……。心に響く、本当の美しさは……目には見えないのよ……。あなたのその言葉、まるで寂しい木枯らしのようね……。誰も心を通わせる人がいない、孤独な歌だわ……」


 三つ巴の言い争いが、再びヒートアップする。それを見かねたガーゴイルが、激しい怒りに顔を紅潮させ、両目を真っ赤に光らせて、新魔王を指差しながら叫ぶ。


「お前たち、それで本当にいいと思っているのか? 新魔王様の言葉を理解しようとせず、またもや己の欲望に走るのか! 新魔王様は、心を繋ぐと言われたのだ! その言葉の意味を、今一度、よく考えろ! 貴様らは、魔王軍の幹部としての自覚を失ったのか!」


 ガーゴイルの大喝に、会議室は再び静まり返った。新魔王は、呆然とする幹部たちを見渡し、少しだけ口角を上げた。


「――伝説で必殺の宴は、一日にしてならず……。まずは、お互いを理解するところから、始めようじゃないか」


 こうして、新魔王歓迎パーティ計画は、議論と混乱の渦に飲み込まれたまま、その第一歩を終えたのであった。


 新魔王の人間的な弱さが露呈し、幹部たちの思惑が交錯した今回の会議。議論が本筋から大きく脱線し、混沌とした様相を呈した。しかし、新魔王が最後に示した「心を繋ぐ」という理念は、混乱の中に一筋の光を投げかけた。この宴が、単なる力の誇示ではなく、新しい関係性を築く場となるのか、誰も予測できない。魔界の宴の行方を、誰もが固唾をのんで見守っている。


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