8話 冒険者侵入と、魔王軍の対応 その5
分かり辛いですね
魔王=元魔王勇者=リセラ・セラ
元勇者=災害=下請けのおっさん=新魔王=タロウ
8話 登場人物
新魔王 タロウ(元勇者)
元魔王 リセラ・セラ(タロウと元PTの勇者)
ゴブ吉 補給部門代表 ゴブリン族
グリモア 歴史部門代表 魔導書精霊族
ヴァパイア 貴族代表 吸血鬼族
コボルト 庶務部門 コボルト族
ガーゴイル 防衛部門代表 ガーゴイル族
ジュエル 美術戦術顧問 ジュエル族
スラポン 魔王軍統括 スライム族
セイレン 魔界音響部門 セイレーン族
アックマ 戦略部門代表 魔族
監視室は、ただ茫然自失とした幹部たちと、無邪気にはしゃぐゴブ吉、そして、深々と開いた穴だけが残された。その静寂を破るように、元勇者のおっさんは、泥と土にまみれたボロボロのつなぎのまま、闇の中を突き進んでいた。彼の足元には、なぜか懐中電灯のように光る石ころが転がっており、まるで道を示しているかのようだ。彼は、このダンジョンに隠されたすべての通路を知っているかのように、迷うことなく前へ進んでいく。そして、やがて光の兆しが見え始め、彼は疲労に満ちた顔を上げ、最後の力を振り絞るかのように、その光の中へと飛び出した。
彼がたどり着いたのは、魔王軍の最高機関である会議室「虚無ノ議場」ではなく、漆黒の玉座が荘厳に佇む、魔王城の心臓部だった。不測の事態に、玉座の間に控えていた魔王軍の精鋭たちが、一斉に武器を構え、侵入者を取り囲もうと身構える。魔王の玉座へと続く、深紅の絨毯には、元勇者が歩いてきたのか、泥と土の足跡が点々と続いていた。元勇者は、そんな殺気に満ちたモンスターたちを一瞥すると、いつもの疲れた表情でぼんやりと立ち尽くした。
その静寂を打ち破ったのは、元勇者が飛び出してきた穴から、場違いな明るさで頭を出したゴブ吉だった。彼は、手柄をこれでもかとアピールするかのように、ぴょこんと穴から顔を出すと、周囲を誇らしげに見回しながら、満面の笑みで大声で叫んだ。
「その人、魔王軍の下請けの勇者っす! 僕が新しい在庫を探すのを、手伝ってもらってたんすよ!」
ゴブ吉は胸を張り、得意げに続けた。
「僕の交渉術、なかなかのものっしょ?」
ゴブ吉の言葉に、周囲のモンスターたちは、一瞬にして殺気を失った。その中の一匹、古株のグリモアが、信じられないものを見るかのように元勇者を凝視し、静かに頁を捲りながら呟いた。彼の持つ魔導書が、静かに光を放つ。
「……まさか、歴史書にも記されていない事態である。かつて、勇者と魔王は、互いの存在を賭けた戦いを繰り広げる宿命にあった……。その変態的で強大なる力は、【災害】と記され幾度となく記録されているが……」
彼は、視線を元勇者に向け、信じられないというように呟いた。
「……まさか、その歴史上の存在が、下請けの労働者となっていたとは……。我々の知識は、この事態を前にして無力である……」
その時、玉座から立ち上がった魔王は、ゆっくりと、しかし確かな足取りで元勇者に歩み寄った。その威厳ある声が、静寂に包まれた玉座の間に響き渡る。その声には、長きにわたる友情と、深い安堵の色が滲んでいた。
「――久しいな、勇者よ」
魔王は、差し出された手を握り、静かに言葉を続けた。
「ようやく、約束の時が来たか。待ちくたびれたぞ。この玉座の重みにも、そろそろ飽いていたところだ」
元勇者は、疲れた顔を上げて魔王を見つめる。彼の顔には、安堵と同時に、ようやく終わるという満足感が浮かんでいた。そして、差し出された手を握り、これまでの苦労が報われたかのように、安堵の息を深く吐き出した。
「ああ……長かったぜ。約束通り、引き受けに来た」
彼は、魔王の言葉に頷き、静かに言った。
「その重責、確かに引き受けたぜ。これで、お前も少しは楽ができるだろう」
周囲の魔族が、信じられない光景に呆然と立ち尽くす中、魔王と元勇者は、互いのローブとボロボロの冒険者の服を交換し始めた。ローブを脱いだ元魔王は、その威厳を捨て去り、華やかで優雅なオーラを纏い笑みを浮かべながら話し始めた。
「あら、その風格……案外、様になっているじゃない?」
元魔王勇者は、優雅な仕草で新魔王を見つめ、にっこりと笑みを浮かべた。
「うふふ、私のこのゴージャスなローブ、貴方ならきっと素敵に着こなせるわ。さあ、遠慮なく着てちょうだい」
新魔王は、ボロボロの冒険者の服を脱ぎ捨て、重厚な魔王のローブを身につけた。その瞬間、彼の疲労に満ちた佇まいが、どこか威厳を増したような気がした。そして、元魔王勇者は、慣れた手つきで冒険者の服に着替え、軽やかに玉座から飛び降り、ダンジョンの穴へと向かって歩き出す。
その軽やかな足取りを、魔王軍の品位を何よりも重んじるヴァパイアが信じられないといった顔で見つめる。彼女の顔には、衝撃と困惑の色が浮かんでいた。
「な、何をなさるおつもりですか、魔王様!」
彼女は、元魔王勇者の背中に向かって、悲痛な叫びを上げた。
「そのボロボロの冒険者の服は、我が魔界の品位を損なうものではございませんか! おやめください!」
元魔王勇者は、振り返り、優雅に微笑んだ。彼女の瞳は、かつての威厳を宿しながらも、今は自由な光を放っている。
「あら、ヴァパイアちゃん。品位なんて、この際、どうでもいいじゃない?」
彼女は、ボロボロの冒険者の服を広げ、クルリと身を翻した。
「私は今から、自由という名の冒険に出るの。この冒険者の服、意外と動きやすくて最高よ! それに、たまには品位なんて忘れて、泥んこになって遊ぶのも悪くないわ」
その言葉に、コボルトが、慌てて元魔王勇者のそばに駆け寄った。彼の小さな手には、つぎはぎだらけの、しかし心を込めて繕われたローブが握られていた。
「あ、あの! もしよかったら、僕のつぎはぎだらけのローブも、使ってくれませんか……!」
彼はどもりがちに、しかし真剣な眼差しで、元魔王勇者を見つめた。
「僕が心を込めて繕ったんっす!」
元魔王勇者は、コボルトの優しさに心を打たれたように、その小さな手を優しく握った。その顔には、慈愛に満ちた微笑みが浮かんでいる。
「ありがとう、コボルト。貴方の優しさ、ちゃんと伝わったわ」
彼女は、コボルトの頭をそっと撫で、優しく言った。
「でも、いいの。これはこれで、私の新しい冒険のユニフォームになるのよ」
そう言って、元魔王勇者は、軽やかにダンジョンの穴へと身を投げた。玉座の間に残された幹部たちは、呆然と立ち尽くした。その混乱の中、ジュエルが感極まった表情で両手を広げ、宙を仰ぐ。彼女の全身からは、キラキラとラメが光り輝き、玉座の間に散らばっていく。
「ああ……! なんて美しく、そして退廃的な物語なの! これこそ、真の芸術よ!」
彼女は、恍惚とした表情で、目を閉じる。
「ボロボロの布切れが、希望と冒険を象徴するだなんて……私、今から全身にラメを纏って、その穴に飛び込みたいわ! そして、その穴の奥で、新たな美を発見するのよ!」
ジュエルの芝居がかった言葉に、ガーゴイルが眉間に深い皺を寄せ、目を赤く光らせながら厳格に問い詰める。その威圧的な声は、石の壁に反響し、玉座の間に轟いた。
「何を言っているのだ、ジュエル! 貴様、その姿で穴に飛び込むとは、芸術の品位を貶めるつもりか?」
彼は、ジュエルを真正面に立ち、威圧的な視線を送った。
「ラメは、本来、神聖な儀式を彩るものではないか! 軽薄な発想は、魔王軍の規律を乱すだけだ!」
その時、歴史のすべてを知るグリモアが、静かに頁を捲りながら、自問自答するように呟いた。彼の知識を司る魔導書が、何事かを懸命に探しているかのように、せわしなく頁をめくり続ける。
「……かつての歴史を紐解けば、魔王と勇者は常に敵対関係にあり、平和は力によって勝ち取るものであった。しかし、この事態は……その常識を覆す、新たな時代の夜明けであるのか? ……いや、我々の記録には、この事象を説明する術がない……」
彼は、魔導書を閉じ、深い溜息をついた。
「……歴史とは、常に予期せぬ出来事によって書き換えられるものなのか……?」
その混乱を収めるべく、虚無ノ議場から駆けつけたスラポンが、玉座の間に立ち尽くす幹部たちを見渡した。彼の冷静な瞳は、すべてを正確に捉え、事態を分析していた。彼は一歩前に出ると、静かに言葉を紡ぎ出す。
「皆さん! 落ち着いてください! 事態は理解しました」
彼は、静かに周囲を見渡し、冷静に続けた。
「しかし、この場で混乱していては、魔王軍の名が廃ります。まずは、新魔王様の御命令を仰ぎ、新たな方針を定めるべきです。この事態をどう捉え、どう行動すべきか……我々に問われているのは、その一点です」
スラポンの言葉に、幹部たちの視線は一斉に新魔王へと向けられた。新魔王は、魔王のローブを身につけ、静かに玉座に座り、ゆっくりと口を開く。その声が響いた瞬間、場の空気は一変した。まるで、これまでバラバラに響いていた不協和音が、一瞬にして完璧なハーモニーへと収束したかのようだった。
「――静まれ」
玉座の間は、絶対の静寂に包まれた。新魔王の瞳は、疲労の色を宿しながらも、確固たる意志に満ちている。
「――伝説で必殺の今日この日から、我々は変わる。古い常識を壊し、新たな価値を創造するのだ」
彼は、一言一言、噛み締めるように言葉を紡ぎ出した。
「勇者も魔王も、ただの肩書きに過ぎない。重要なのは、その存在が何を生み出すかだ。我々は、自らの手で、新たな歴史を紡いでいくのだ」
新魔王の言葉は、まるで新しい旋律を奏でるかのように、セイレンの心を揺さぶった。彼女は静かに目を閉じ、その美しい歌声で言葉を紡ぎ出す。
「ああ、あなたのその言葉……まるで、新しい歌の始まりみたい……!」
彼女は、両手を胸に当て、うっとりと呟いた。
「あなたの魂の音色が、私の心に深く響くわ……! どんなメロディーが生まれるのかしら……!」
セイレンの詩的な言葉が玉座の間に響き渡る中、その美に呼応するようにジュエルが感嘆の声を上げる。彼女は再び両手を広げ、恍惚とした表情で空を仰いだ。
「ああ、なんと……! 私の魂が震えるわ! その言葉、まさに美そのもの!」
ジュエルは、興奮のあまり、体を震わせながら続けた。
「私も今、新しい価値を創造したい! この玉座を、もっと美しいクリスタルで飾り付けましょうか! それとも、この玉座をラメで埋め尽くして、最強の魔王の座としますわ! これこそ、新時代の美の革命よ!」
ジュエルの暴走を許すまじと、ガーゴイルが目をさらに赤く光らせ、玉座に駆け寄る。その動きは、まるで巨大な岩が崩れ落ちるかのようだった。彼はジュエルを威圧するように、真正面に立ち、厳格な言葉を放った。
「お前、それで本当にいいと思っているのか? 玉座とは、魔王軍の威厳を象徴する神聖な場所ではないか!」
彼は、ジュエルを鋭い視線で睨みつけ、断定的に言った。
「ラメなどという軽薄なもので、その品格を汚すなど、断じて許されることではない! 貴様のそのくだらん発想は、即刻廃棄すべきだ!」
玉座の間には、新魔王の静かな言葉と、ジュエルとガーゴイルの激しい言い争いが、まるで嵐のようにこだましていた。魔王軍の新たな歴史は、こうしてドタバタと幕を開けたのである。
(場面変更)
日が傾き、魔王城の窓から差し込む夕日が、玉座の間に長い影を落としていた。玉座の間にいた幹部たちは、それぞれの持ち場に戻り、今後の動向について考えを巡らせていた。
アックマは、手に持ったデータパッドを虚ろな目で眺めながら、自らの理論の崩壊をまざまざと実感していた。彼は、データパッドの電源をそっと切り、頭を抱えて静かに蹲った。彼の未来予測は、元勇者のおっさんという、あまりにも非論理的な存在によって、完全に打ち砕かれたのだ。
一方、ゴブ吉は、興奮を抑えきれない様子で、玉座の間に残っていた。彼は、ジュエルが飛び散らせたラメの粒を拾い集め、宝物のように握りしめている。そして、誰もいなくなった玉座の間に、一人だけ残った彼は、きらきらと輝くラメを眺めながら、次の冒険の計画を立てていた。その目には、未来への期待が満ちていた。
歴史は常に変化する。しかし、その変化がここまで劇的なものになるとは、誰も予想していなかっただろう。旧魔王の謎めいた旅立ち、そして新魔王の言葉は、今後の魔界のあり方を根底から変えるかもしれない。
この日、魔王軍は、最強の戦力を失い、最強のトラブルメーカーを魔王として迎えた。魔界の明日は、誰も予測できない。玉座は、クリスタルとラメに埋もれてしまうのだろうか。それとも、新たな時代を象徴する、斬新なアート作品となるのだろうか。その答えは、まだ誰も知らない。
ネタバレ
タロウこと田中タロウと、リセラは元PTです。
20年前魔王と対峙した時にタロウの代わりに、魔王の呪いを受け、以降リセラは魔王として君臨していました。
タロウは世界に戻り、魔王となったリセラを討伐するかずっと悩んでいました。
10年悩み、世界の為にリセラ討伐を決心しましたが、いざリセラと対峙した時に、リセラを討伐するのは自分には無理だと討伐を諦めました。
リセラからの世界の半分をアナタに上げると言う提案を拒否し、タロウは単身人間界に戻り王に魔物との共存を提唱し、説得しようとしました。
勿論、断られ勇者の称号も剥奪され、それでも1人で世界の各地で魔物との共存を掲げて活動していましたが、どこに行っても反社会的勢力と見なされ、働く所も無く、ついには所持金が尽きてしまい乞食生活をしていました。
そしてまた10年経った頃に、見つけたのが魔王軍のダンジョンのバイトでした。
タロウの胸には、人間と魔物の共存が思い描かれていると思います
ネタバレ
魔王化するとそれ以降、歳を取りません。
リセラ 20歳のまま
おっさん 40歳




