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魔王軍物語 ~ ドタバタ会議室 ~  作者: じゆう七ON
第1章 元勇者の魔王タロウ誕生!

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5話 冒険者侵入と、魔王軍の対応 その2

 魔王軍が誇るダンジョンの最前線に、一人の冒険者が侵入した。彼(冒険者1号)は従来の侵入者とは一線を画す、信じがたい手法でダンジョンを攻略しつつあった。それは、正規のルートや罠を嘲笑うかのように、巨大な拳から放たれる衝撃波で壁を次々と吹き飛ばしながら突き進むというものだった。この「衝撃波破壊」の蛮行(ばんこう)は、魔王軍の各部門に物理的ショックを与えていた。


 状況が変わった事で、ダンジョン監視室には、各部門の代表が再度集められていた。壁一面を占める大型モニターには、冒険者が放つ衝撃波で、通路の壁が粉砕される様子が無慈悲なほど鮮明に映し出されている。その無残な光景を前に、地下技術部門のモグゾーは、土埃まみれの顔をわなわなと震わせ、今にも泣き出しそうな悲鳴を上げた。


「俺たちが、魂込めて築いた壁が……! こんなの、ありえないんだよ!」


 それはまるで、自分の家を壊されたかのような悲痛な叫びだった。一方、地下部門代表のオークは、興奮を隠せない様子で牙をむき出しに笑っていた。


「ハッ! 結局は力! それが真理だ!」


 彼は自慢の拳をゴツリとぶつけ合い、威嚇するようにその強靭な両腕を組んだ。

 そして、研究部門代表のリッチたんは、冒険者の行動をまるで興味深いサンプルでも見るかのように観察し、薄く笑みを浮かべた。


「愚かだな。しかし、その無知ゆえの蛮行は、時に知恵を上回る……いや、やはり愚かだな」


 その言葉には、侮蔑とわずかな好奇心が入り混じっていた。


 魔王軍本部の監視室は、冒険者の侵入により、張り詰めた空気に満ちていた。誰もが次の展開を固唾をのんで見守る中、部屋の片隅に静かに座っていたアックマが、その冷たく事務的な声で口火を切った。


「現在の状況は、データ上の予測を大きく上回っています」


 アックマは淡々と、しかし全員に聞こえるように言葉を(つむ)ぐ。


「冒険者の行動パターンが想定外の『物理的破壊』に移行したことにより、各部門の初動対応計画は機能不全に陥っています。このままでは、我々の誇るダンジョンは、まるで歴代で『災害』とまで呼ばれた、あの最強の勇者が現れた時のように、ただの瓦礫の山と化してしまうでしょう」


 その言葉は、まるで鋭いメスのように、現状の惨状を冷静に切り裂いていく。モグゾーはモニターに映る悲惨な光景に、土埃まみれの拳を震わせながら、悲痛な声を上げた。


「ぐちゃぐちゃだよ……!」


 彼は顔を歪め、地面に膝をつきそうになりながら叫ぶ。


「俺が、俺たちが、何日も徹夜して、頑丈な岩盤に丁寧に魔法陣を埋め込んで作った壁なんだよ! それが、衝撃波一発で、まるで豆腐みたいに、あっけなく……。この敗北感、わかるか……? もう、施工の誇りがボロボロなんだよ……!」


 モグゾーの魂の叫びに、オークは豪快に笑いながら、自慢の拳を天に突き出した。


「ハッハッハ! 見たかお前ら! 知恵だの、罠だの、小賢しいことばかり言ってても、結局は力なんだよ!」


 彼はモニタを指差し、得意げに胸を張る。


「破壊こそ、冒険者が持つ本能だ! 単純明快、それが一番! 俺の拳の方が、よっぽど優秀な罠だろうが!」


 リッチたんは、オークの原始的な発言を冷ややかな視線で見下しながら、皮肉たっぷりに嘲笑する。


「くだらんな。その破壊行為が、我々の魔法陣を迂回するためのものだということに気づかぬか?」


 彼女はため息をつき、何やら不思議な仕草をする。


「無知な蛮行(ばんこう)に見えて、実は綿密な計算が隠されている……という可能性を考慮する知性すら持たぬとは。愚かだな、どちらにせよ。私の完璧な魔法理論を、ただの衝撃波で打ち破ろうとするなど、まるで砂漠で氷を売るようなものだ。無意味だ」


 デーモンは静かに、顎に手を当てながら深く思考を巡らせた。彼の瞳の奥に、わずかながら好奇の光が宿る。


「……通路を破壊するという行動は、我々の想定ルートから逸脱している。だが、それは同時に、我々の罠を無効化する最も効率的な手段でもある」


 彼は言葉を切り、沈黙する。


「……この冒険者は、単なる蛮力(ばんりょく)ではなく、知性と力を兼ね備えている可能性が高い……。我々は、彼の行動の裏に隠された意図を読み解く必要がある……」


 ゴブ吉は、不安そうにお菓子を握りしめ、しょんぼりと肩を落とす。彼の小さな体が、監視室の冷たい空気に縮こまっている。


「ええー! 僕のお菓子トラップ、壊されないように、お菓子の壁で作ってたんすけど、衝撃波じゃ無理っすよね……」


 彼は手に持ったお菓子をまじまじと見つめる。


「僕のセンス、古いのかな……。もっと、こう……最新の、おしゃれな罠、考えるべきっすかね……」


 ゴブ吉の情けない声に、オークは思わず大きな声でツッコミを入れる。その声は、監視室の壁にこだました。


「おい、ゴブ吉ィ! お菓子の壁ってなんだよ! 食い物で壁作るやつがあるか!」


 オークは呆れて頭を抱える。


「だ〜か〜ら〜食い物にしか見えなかったんだよ! 壊す以前に食われんだよ!」


 フェリーナは、争い合う彼らの間に、そっと優しい声を投げかける。その声は、乾いた監視室に一輪の花を咲かせたかのように、穏やかだった。


「冒険者さん、きっと何か深い事情があるのかもしれません」


 彼女はそっと手を合わせ、遠い目でモニターを見つめる。


「わざわざ壁を壊して進むなんて、よっぽど急いでいるか、何かを恐れているのか……。何か、彼を落ち着かせるような、安らぎの罠を仕掛けてあげたいですね。もしかしたら、彼は心に深い傷を負っているのかもしれません」


 ユーレは静かに、ただ淡々と事実を報告する。彼女の言葉には感情が一切なく、まるで機械の音声のようだった。


「……冒険者の……ステータスに……『破壊衝動』という……称号が……追加された……。新たな……行動パターンと……報告にあります……」


 ヌメヌメは、モニターの画面をぬるっとした手で(ぬぐ)いながら、哲学的なことをつぶやく。その指先は、画面に濡れた跡を残した。


「壁を壊すって、自分の中の壁を壊すってことっすかねぇ……。ぬるぬるっと、人生の迷宮を進んでるっすよぉ……」


 彼は濡れた画面をうっとりと見つめる。


「でも、壁壊しちゃったら、湿度が逃げちゃうっすね……。うぅ、ぬるぬるの湿度が……」


 ドラゴマックスは、ヌメヌメのよく分からない発言に呆れながら、大きくため息をつく。その息は、部屋の空気をわずかに震わせた。


「昔はよかった……。冒険者も、正面から堂々と挑んでくるものじゃった……。あのような、わけのわからぬことを口にする者もおらんかった……」


 彼は顔をしかめ、眉間にしわを寄せる。


「破壊などせずとも、ただ立ち向かえばよかったものを……。何事にも、品格というものがあったものじゃ……」


 議論が紛糾し、監視室が騒然とする。それぞれの感情がぶつかり合い、熱気が充満し、まさに嵐の前の静けさのような緊張感が走った。その時、アックマが、その冷めた瞳で全員を見回し、事務的な口調で全員の発言を遮った。その声には、一切の感情が宿っていなかった。


「全意見、承知いたしました。しかし、感情論は必要ありません」


 アックマは全員の視線を一身に集める。


「今必要なのはデータに基づいた確実な戦略です。冒険者が知性と力を兼ね備えているならば、それに合わせた複合的な罠を構築すべきです」


 続けてアックマは淡々と、しかし明確な指示を出していく。その姿は、まるで精密機械のようだった。


「デーモン代表には、冒険者の行動パターンを分析し、最適なフロア構造を再構築していただきます。リッチたん代表には、破壊行為を誘発させつつ、その結果として魔法的ダメージを与えるトラップを。モグゾー代表には、破壊に耐えうる素材の選定を。ゴブ吉代表には、壊されないように、その素材を用いた『耐久性』重視の罠の考案を。フェリーナ代表には、冒険者の精神的な隙を狙った、心理的トラップの構築をお願いします」


 アックマの指示に、オークはつまらなそうに腕を組み、不満げに鼻を鳴らした。


「チッ、つまんねえな! 結局、俺の出番はまだか!」


 アックマは冷めた視線を向ける。


「オーク代表には、第三階層に待機していただきます。データ上、冒険者が最も疲弊する地点です。そこで、我々の計画の最終防衛ラインとして、冒険者を迎え撃ってください。あなたの圧倒的な膂力りょりょくは、計算不能な強力なファクターとなり得ます」


 アックマの言葉に、オークはニヤリと笑った。その顔には、再び闘気が満ちる。


「フン、やっと来たか。いいぜアックマ! お前らのくだらねえ罠が通用しなかった時のために、俺の拳を磨いて待っててやる!」


 それぞれの思いを胸に、魔族たちは持ち場へと散っていく。監視室には、再び静寂が戻った。しかし、それは決して平穏なものではなく、新たな嵐の予感に満ちた、重苦しい静けさだった。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




 魔王軍ダンジョンに侵入した冒険者が、衝撃波で壁を破壊しながら進むという予想外の行動に出た。この蛮行により、魔王軍は最初の計画を立て直し、耐久性を重視した新たな罠を設置する方針を固めた。


 この対応は、魔王軍の柔軟な思考力と危機管理能力を示すものとして、高く評価されている(気がした)。アックマ戦略部門代表が指揮を執り、各部門代表がそれぞれの得意分野を活かした複合的な罠を構築中だ。「感情論は必要ありません」とクールに言い放ち、冷静沈着に指示を出すアックマの姿は、多くの魔族の心を掴んだ。


 アックマは一人、静かにモニターを見つめ続けていた。彼の隣には、ゴブ吉がしょんぼりと肩を落としたまま立っている。


「僕の得意なのは、かわいらしさと美味しさっすよ……」と、新たなミッションに不安げな表情を浮かべるゴブ吉の背中を、アックマは何も言わずに見つめていた。その表情からは、感情を読み取ることはできない。


 一方、モグゾーはすでに、新しい素材のサンプルを取り出すために地下へと向かっていた。「今度は絶対壊させねえぞ!」彼の決意に満ちた声が、地下通路に響き渡る。


 この冒険者の蛮行は、魔王軍の隠された潜在能力を引き出したと言える。従来の計画が通用しない時、いかにして新たな道を切り拓くか。アックマの冷静な判断と各部門の連携は、魔王軍が単なる力の集団ではなく、知性と柔軟性を兼ね備えた組織であることを証明した。


 しかし、感情を切り捨てた戦略が、果たして魔族の誇りを守り抜けるのか。冒険者の破壊力が、耐久性を増した魔王軍の罠にどこまで耐えられるか、そして果たしてオークの拳が火を噴く日は来るのか。魔界の明日を占う闘いは、今、始まったばかりだ。


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