表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王軍物語 ~ ドタバタ会議室 ~  作者: じゆう七ON
第1章 元勇者の魔王タロウ誕生!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

4話 冒険者侵入と、魔王軍の対応 その1

 魔界の朝は、重く、そして静かだ。しかし、その静寂は突如として破られた。魔王軍が誇る巨大ダンジョンの深奥から、けたたましい警報が鳴り響く。情報部門代表のユーレが発した緊急通達は、それぞれの持ち場にいた各部門の代表たちの心に、戦慄と高揚を同時に引き起こした。


「ついに冒険者っすか! おもてなしの出番っすね!」


 補給部門代表のゴブ吉は、目を輝かせて歓喜の声を上げた。まるで初めての来客を迎えるかのように、その小さな体は期待に満ちてそわそわと揺れる。


 その隣では、地下部門代表のオークが、戦いの熱意を全身から噴き出させていた。彼は自慢の拳をぐっと握りしめ、血管を浮き上がらせながら咆哮する。


「ついに来たか! この日のために拳を磨いてきたんだ!」


 その言葉は、まるで岩盤を砕く地響きのように響き、彼はダンジョン監視室の扉を勢いよく開けようとして、そのまま隣の分厚い壁に巨大な亀裂を入れてしまった。


 一方、ダンジョン監視室へと向かう廊下を、戦略部門代表のアックマは静かに歩いていた。彼の視線は、手に持ったデータパッドに釘付けだ。画面には、ダンジョンに侵入した冒険者の映像と、それを分析する無数のデータが表示されている。


「統計上、初侵入者が単独である確率は98%です。しかし、油断は禁物……」


 彼は淡々と呟き、歩みを進める。


 その向こうを、研究部門代表のリッチたんが、優雅に宙を浮きながら通り過ぎていく。彼女はアックマを一瞥(いちべつ)することもなく、鼻で冷たく笑い飛ばした。


「くだらんな。単なる冒険者ごっこだろう」


 すでに彼女の周囲には淡く光る魔法陣がいくつか浮かび、この騒動には一切興味がないとでも言うように、次の研究の題材を探しているようだった。


 魔王軍の幹部たちは、冒険者という未知の存在に対し、それぞれの誇りを胸に、様々な反応を見せていた。力、知性、そしてユーモア。彼らの多角的なアプローチが、ダンジョンの侵入者に通用するのか。混沌に満ちた物語は、まさに今、始まろうとしていた。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




 魔王軍本部から少し離れた所にあるダンジョン監視室は、警報の余韻がまだ残る中、重く分厚い空気に満ちていた。壁一面を占める大型モニターには、迷宮の入り口に立つ一人の冒険者の姿が映し出されている。これまでの彼の戦いが相当激しかったのか、服はボロボロになっていた。そして、装備も持たずユラユラと横に揺れ奇妙な動きを見せている。


 ユーレの姿は、監視室の隅にいるものの、まるで影が揺らめくように見え、その声だけが淡々と響いた。


「……侵入者……確認……」


 戦略部門代表アックマは静かに、しかし有無を言わせぬ口調で状況を報告していく。アックマはモニターから目を離さず、指先でいくつものデータを瞬時にスクロールさせていく。彼の視線は、冒険者の装備や能力値を示す数値、過去の侵入者データとの比較グラフを淡々と追っていた。


「ユーレの情報によれば、侵入者は単独。装備は平均以下。ステータスは……ふむ、少しバグがある様ですが想定内の能力値です。我々が用意した罠と魔物で、十分に撃退可能だと推測します」


 アックマの冷静な声に、オークは苛立ちを隠せない。彼はモニターに映る冒険者の姿を指さし、不満げに鼻を鳴らす。その瞳には、血の通った戦いへの渇望が燃えていた。


「なーにが想定内だ!」


 彼は怒りを爆発させるように、机に拳を叩きつけ、その衝撃でモニターがびりびりと震える。


「冒険者はデータじゃねえ! 血が通った生き物だ! 数値だけで相手の強さを測るんじゃねえ! このまま俺の拳で、そのデータを覆してやる!」


 その怒りの声に、補給部門代表のゴブ吉が慌てて割って入る。彼は両手を広げ、まるで柔らかなクッションでオークの怒りを受け止めるかのように、必死になだめようとする。


「いやいや! オークさん! その拳は最終手段っすよ!」


 ゴブ吉は両手を上下に揺らし、必死に言葉を紡ぐ。


「まずはダンジョンの罠で、おもてなしっす! 僕が考案した『お菓子で誘惑トラップ』とか、試してみるっすか? 甘い香りで誘い込んで、身動きが取れなくなったところを、お菓子で埋め尽くすんすよ!」


 ゴブ吉の言葉に、研究部門代表のリッチたんは、まるで汚物を見るかのように冷たい視線を向け、宙に浮きながら、フンと鼻を鳴らした。その皮肉な笑みは、ゴブ吉の純粋な熱意を嘲笑しているかのようだった。


「お菓子で誘惑? 愚かだな」


 彼女はゆっくりと宙を漂い、ゴブ吉との間に距離を取る。


「冒険者とは、誘惑に打ち勝つために存在する。そんな安易なトラップ、何の意味もない。冒険者の知的好奇心を刺激し、心理を揺さぶる魔法的な罠こそ、我々が用意すべきだ。魔法陣を組んで、幻覚を見せたり、迷路の構造を刻々と変化させる方が、よほど効率的で知的だろう」


 リッチたんの冷たい言葉は、オークの熱い心をさらに燃え上がらせた。彼はリッチたんの目の前に仁王立ちになり、その巨体で彼女の視界を塞ぐ。


「お前はまず、そのくだらねえ魔法で、冒険者の頭をぶっ叩いてみろ!」


 オークは感情をむき出しにして叫ぶ。


「小難しい理屈ばかり並べやがって、一番単純な攻撃が、一番効果的だって、なぜわからねえ! 力こそ、すべての真理だ!」


 激しい口論が交わされる中、軍事部門代表のデーモンは、一人、静寂を保っていた。彼の全身からは、静かな威圧感が滲み出ており、誰も彼に話しかけようとはしない。彼はゆっくりと、まるで言葉を選び抜くかのように口を開き、論争の間に割り込んだ。


「……冒険者の行動パターンを分析すべきだ。罠は、単に破壊するものではない」


 彼は腕を組み、静かに語り始めた。


「心理的に、あるいは物理的に、冒険者の選択肢を狭めるためにある……。最初のフロアは、あえて単純な構造にすべきではないか? 警戒を解かせ、深部へと誘い込む……」


 癒し部門代表のフェリーナが、そっとモニターに映る冒険者の姿を愛おしむように見つめながら、静かに語った。彼女の優しい声は、荒れ果てた監視室の空気に、一筋の清涼な風を吹き込んだ。


「冒険者さんも、きっと緊張していると思います」


 フェリーナは悲しそうな、そして慈愛に満ちた目でモニターを見つめる。


「もし迷っているなら、温かい飲み物でも差し入れしてあげたいですね……。そして、少し油断したところで、優しく……迷宮の奥へ誘導する、とか。戦うことだけが、魔王軍の誇りではありません。心を通わせることも、大切なことだと思います」


 元軍事部門の老兵、ドラゴマックスは、その場の雰囲気に耐えきれず、モニターに映る冒険者の姿を見て、懐かしそうに目を細めた。彼は大きくため息をつき、遠い過去に思いを馳せるように話し始めた。


「……昔はよかった……。冒険者など、来る前に焼き払うものだった……」


 ドラゴマックスは杖を握りしめ、かつての武勇伝を思い出すように目を閉じる。


「こんなに騒ぎ立てて、監視室でだらだらと議論するなど、ありえんかったわい……。ワシが若い頃は、魔王の一言で、全てが終わったもんじゃ……。無駄な議論など、なかったわい……」


 ドラゴマックスの言葉は、リッチたんの神経を逆撫でした。彼女は冷たい視線を彼に向け、その顔に軽蔑の色を浮かべた。


「くだらんな。過去の栄光に縋る(すが)とは」


 彼女は鼻で笑い、嘲るように続けた。


「貴様のその脳味噌は、化石と化したと見える。我々の戦術は、常に最新の論理と魔法で構築されるべきだ。貴様のような老兵の戯言(ざれごと)に耳を傾ける必要など、欠片もない」


 ゴブ吉は、興奮で体が震えるのを抑えつつ、混乱する議論をなんとかまとめようと、そわそわと両手を揉み合わせながら話し始めた。


「えっと、つまり、拳と、お菓子と、魔法と、分析と、お茶と、焼き払いで、冒険者をおもてなすってことっすよね!?」


 彼は目を輝かせ、希望に満ちた表情で周囲を見渡した。


「これなら、みんなの意見を尊重できるっす!」


 オークは、その混沌としたまとめに、額に青筋を立ててツッコミを入れた。彼はゴブ吉の肩を掴んで激しく揺さぶり、その瞳は怒りで燃え上がっている。


「まとまってねえよ、ゴブ吉!」


 彼は深いため息をつき、叫んだ。


「全部ごちゃごちゃになってんじゃねえか! 拳とお茶は一緒に使えねえだろ!」


 その時、監視室の隅にいたヌメヌメが、ゆったりとした口調で、場違いな発言をする。彼の言葉は、まるでどこか別の世界から聞こえてきたかのようだった。


「ぬるぬる〜。冒険者さん、疲れてるっす〜。湿度が足りないっす〜」


 彼は床を這い、自らの粘液で床を濡らしながら、ゆっくりと語る。


「僕の粘液で、もっとじとじとさせて、靴をぬるぬるにしてあげるっす〜。そうすれば、滑って転んで、無駄な戦いはなくなるっす〜」


 監視室の喧騒(けんそう)が最高潮に達したその時、アックマはすっと立ち上がると、一言も発することなく、人差し指でモニターの表示を切り替えた。そこに映し出されたのは、複雑な数式とグラフ、そして『最適な作戦遂行率:99.9%』という明確な数値。その圧倒的な論理の前では、いかなる感情的な言葉も無力だった。騒がしかった監視室が、嘘のように静まり返る。アックマは、その静寂の中で、淡々と結論を告げた。


「全意見をデータに照らし合わせた結果、最善策を導き出しました」


 彼は淡々と、しかし明確な声で続けた。


「オーク代表には、拳ではなく、第一階層の監視と、冒険者の物理的な行動データを収集していただきたい。ゴブ吉代表には、第二階層での簡易的な誘導罠の設置を。お菓子の形状と誘惑効果は、データに基づいて最適化してください。リッチたん代表には、第三階層で心理的な魔法トラップの構築を。デーモン代表には全フロアの戦術的見直しを。フェリーナ代表には、冒険者が休息を取るポイントを分析していただきたい。そして、ヌメヌメ代表には、湿度管理を徹底し、通路に粘液を散布することで、冒険者の進行速度を低下させる任務をお願いします」


 アックマの冷静かつ完璧な指示に、オークは不満そうに唸り声(うなりごえ)を上げ、腕を組んだ。拳での戦いこそが魔族の誇りだと信じる彼にとって、この任務は屈辱に等しかった。


「チッ、つまんねえな! 俺は拳で話すのが一番なんだよ!」


 彼は不満を露わにした後、ため息をついて続けた。


「でも……まあ、データ収集ってやつも、冒険者がどんな奴か知るには良いかもしれねえな」


 ゴブ吉は安堵(あんど)したように、嬉しそうに飛び跳ねた。自分の得意なことで貢献できるのが嬉しかったのだ。


「了解っす! お菓子トラップ、頑張るっす! データに基づいたお菓子、最高に美味しそうっす!」


 アックマはモニターを見つめながら、淡々と指示を出していく。その姿は、まるで無駄な動きを一切排除した完璧な機械のようだった。


「我々戦略部門の結論です。魔王軍の誇りは、力だけではない。知恵と、技術と、そして――綿密な計画。冒険者を迎え撃て」


 それぞれの思いを胸に、魔族たちは持ち場へと散っていく。彼らの足音は、静まり返ったダンジョンの通路に、新たな戦いの序曲を奏でていた。




◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




 議論が収束した後の監視室は、熱気が冷め、静寂に包まれていた。各々がバラバラになり、次の行動に移る。


 不満げに唸りながらも、オークは最前線で冒険者の動きをデータ化する任務に就いた。しかし、彼の衝動は抑えきれなかったようだ。データ収集の途中で、思わず通路の壁に拳で巨大な穴を開けてしまったらしい。


 補給部門代表のゴブ吉は、おもてなしの準備に余念がない。彼は「お菓子で冒険者を誘惑するっす!」と意気込み、通路のあちこちに、可愛らしいダンジョン型のパンを並べていく。だが、冒険者は警戒したのか、そのパンには一切手を付けなかった。


 リッチたんは「くだらんな」と呟きながらも、第三階層で完璧な魔法陣の構築を始めた。彼女の指先から放たれる魔力は、複雑な模様を描き、幻覚の罠を張り巡らせていく。その光景は、まさに知的な美の極致だった。


 一方、ヌメヌメは、通路を徹底的にぬるぬるにしていた。地面に散布された粘液は、不快な光沢を放ち、進行速度を低下させる。しかし、冒険者はそのぬるぬるを避け、器用に壁を伝って進んでいく。


 アックマは「勝率は99.9%」と、勝利を確信しているようだった。だが、その完璧な計画の背後で、魔族たちの混沌とした日常は続いていた。地下技術部門のモグゾーが、いつものように悲鳴を上げているのが聞こえる。「おい! 冒険者が通路をぶっ壊し始めたぞ! だから非常口は……!」その叫びは、ダンジョンに侵入した冒険者が、彼らと同じく、常識が通用しない存在であることを物語っていた。


 魔王軍の幹部たちの奮闘は、まさに熱いドラマだ。だが、この戦いは、それぞれの個性がぶつかり合う、ユーモラスな日常の一コマでもあった。彼らが力を合わせれば、どのような強敵も打ち砕けるだろう。だが、その力の方向性を決めるのは、常に冷静な頭脳。アックマの計画が、この戦いを勝利へと導く鍵となるだろう。魔王軍と冒険者、どちらがこの奇妙な迷宮を制するのか。その結末を、魔界の夜は静かに見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ