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魔王軍物語 ~ ドタバタ会議室 ~  作者: じゆう七ON
第1章 元勇者の魔王タロウ誕生!

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12/12

12話 新魔王歓迎パーティ計画の会議、その波乱の幕開け 4日目

 新魔王歓迎パーティの計画が、最終局面を迎える朝が来た。魔界の朝は重く、静けさが支配していた。しかし、魔王城の一角にある虚無ノ議場は、これから始まるであろう驚愕の会議を前に、奇妙な静けさに包まれていた。それは、喧噪(けんそう)が収まった後の静寂ではなく、これから始まる嵐を予感させる、張り詰めた静けさだった。わずかに湿り気を帯びた空気が重くのしかかり、誰もが息をひそめている。


 会議室に差し込む光は、昨日までとは違い、どこか期待と不安を混ぜ合わせたような色を帯びていた。幹部たちはそれぞれの席で、これからミミックが発表するであろう、三つの企画を融合させた最終案に思いを馳せていた。一体どのような奇想天外な計画が飛び出すのか。誰もが固唾(かたず)をのんで、その瞬間を待っていた。


 壇上に立つスラポンは、その静寂を打ち破るように、手元の書類を財政部門代表のミミックに差し出した。紙が擦れる微かな音は、まるで刃物のように、張り詰めた部屋の空気を切り裂く。


「それでは、本日の議題を始めます」


 スラポンは、一言一言、丁寧に語りかけるように続けた。


「財政部門代表のミミック殿には、昨日提出された三つの企画案を融合させた、新たなパーティ案を考案していただきました。……それでは、ミミック殿、発表をお願いします」


 ミミックは、得意げに胸を張り、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。その顔には、何かとんでもないことを企んでいるという確信が満ちている。彼の目は、巨大な金塊を前にしたかのようにギラギラと光り、唇は不敵に歪んでいた。


「へっ、お前ら、驚くなよ?」


 ミミックは、わざとらしく小声で囁き、そして自信満々に声を張り上げた。


「俺様が考えたのは、ただのパーティ会場じゃねえ。伝説で必殺の『移動式芸術要塞ゴーレム』だぜ!」


 ヴァパイアは、優雅に扇子で口元を隠し、眉をひそめて呟いた。彼女の瞳には、明らかな軽蔑の色が浮かんでいる。


「巨大なゴーレムですって? そのような無骨なものが、我が魔界の品位を損なうことになりはしないかしら? せっかくの歓迎パーティが、品性のない見世物になるなんて、考えただけで鳥肌が立ちますわ……。一体、どこに美しさがあるというのかしら?」


 ミミックはヴァパイアの言葉を無視し、さらに続けた。彼の目は、計画の全貌(ぜんぼう)が浮かび上がっていくのを想像して、きらきらと輝いていた。まるで、巨大な財宝の山を前にしたかのようだ。


「へへっ、よく聞けよ」


 ミミックは、周囲をゆっくりと見回し、言葉を選びながら、だが誇らしげに語った。


「まずは、資源管理部門のゴレムに、巨大なゴーレムを作らせる。そいつの内部に、パーティ会場と、各種設備の部屋を作るんだ。これで、魔界全土を移動しながら、パーティを開けるってわけだ!」


 ミミックの言葉は止まらない。彼は、まるで自身の傑作を披露するかのように、詳細なプランを語り始めた。


「次に、このゴーレムに、美術戦術顧問のジュエルが加工した最高級のクリスタルを埋め込む。さらに魔界音響部門のセイレンが歌うと、クリスタルが反響して、会場どころか半径1キロの全域に音楽が響き渡る。どこにいようと、パーティに参加できるって寸法だぜ!」


 ミミックは、さらに身を乗り出して、声を潜める。


「さらに、魔力で映像を記録して、目に埋め込んだクリスタルからヴァパイアの舞の巨大な映像を空に映し出す! これなら、遠くのヤツらにも見せつけてやれるだろ! 最高の宣伝効果だぜ!」


 ヴァパイアは、自分の舞が魔界中に披露されるという事実に、口元は隠したまま、その瞳だけをキラリと輝かせた。軽蔑の色は消え去り、代わりに高貴な誇りと、かすかな興奮に満ちていた。


「……ふふ。私の優雅な舞が、この無骨な要塞によって、魔界全土に披露されるというのね……」


 彼女は、扇子で隠した口元をわずかに歪ませ、静かに、しかし喜びを隠せない声で囁いた。


「品位を損なうどころか、逆に、この要塞に品位を与えてしまうかもしれませんわ……。まさに、芸術と実利の完璧な融合、これこそが、魔界の貴族にふさわしいわ」


 ジュエルが、あまりの美しさに感極まり、両手を広げてクルクルと回った。彼女の周りには、金色の粉が舞い散る。その粉は、まるで彼女の喜びを具現化したかのように、きらきらと光を放っていた。


「ああ! なんて芸術的なの! 美と美が融合し、次元を超越するなんて!」


 彼女は、胸のクリスタルに手を当て、歓喜に震える声で叫んだ。


「わたくしの魂が震えるわ! わたくしの美しきクリスタルが、魔界全土を美しく彩るなんて、まさに伝説で必殺の芸術よ! 私の魂は、この計画のために、この世に生まれたのかもしれないわ!」


 セイレンが、歌うように優雅に微笑んだ。その声は、まるでクリスタルが奏でる音色のように、会議室に響き渡る。彼女は、目を閉じ、遠い空に自分の歌声が響くのを想像している。


「私の歌声が、クリスタルの光に乗って、遠くまで響き渡る……。なんて、なんて美しいの……まるで、天界に届く歌のよう……」


 彼女は、うっとりとした表情で、言葉を紡いだ。


「この要塞で歌えるなんて、光栄だわぁ……。きっと、私の歌声は、魔界のすべての魂を癒してくれるわ……」


 ミミックは、満足げに頷き、次に警備部門代表のガーゴイルと、庶務部門のコボルトに視線を向けた。彼の顔には、自信が満ち溢れている。


「へっ、次に、このゴーレムを警備部門の指揮下に置いて、完璧な警備体制を敷くぜ!」


 ミミックは、コボルトに視線を向け、ニヤリと笑った。


「で、コボルトみてえなドジっ子からヒントを得た、最高のアイデアがあるんだよ」


 彼は、両手を広げ、得意げに語った。


「巨大ゴーレムの肩から手に滑り台をつけて、フワフワな安全素材で遊び場を作るんだ! これならどんな動きをするか分かんねえチビどもを一か所に集めつつ、夢を与え、安全に警護できるだろ? 親も安心してパーティを楽しめるってわけだ! これで、誰でも安全にパーティに参加できるって寸法だぜ!」


 ガーゴイルは、その子供向けの遊び場に目を丸くした。規律と無縁なボケ要素であるにも関わらず、彼の表情は感動に変わっていく。


「……遊び場とは、奇策だ」


 彼は、ゆっくりと、しかし確信に満ちた声で呟いた。


「子供たちを護り、親の不安を取り除くとは……。これこそ真の規律ではないか! 不測の事態を防ぐだけでなく、心まで護る。ミミック、貴様の強欲な発想が、このような慈悲深い計画を生み出すとは……! 我が規律の概念を、根底から覆すほどの衝撃だ!」


 コボルトは、自分のドジが役に立ったことに感激し、目を潤ませて訴えかけた。彼の体は喜びで震え、その手には、いつものように何かを落としそうになっている。


「あ、あの……! 僕、頑張って、遊び場の安全、チェックしますっす……!」


 コボルトは、震える声で、しかし強い決意を込めて言った。


「転ばないように、頑張りますっす! 僕のドジが、みんなの笑顔に繋がるなんて、夢みたいっす!」


 しかし、ガーゴイルはすぐに冷静な表情に戻り、ミミックを鋭い眼光で見据えた。彼の目には、規律を守る者としての厳しい光が宿り、顔が赤く光り始めている。彼は、座ったまま椅子の肘掛けを強く握りしめ、ミミックを鋭い眼光で見据える。


「だが、待て。ミミック」


 ガーゴイルは、唸るような低い声でミミックに問い詰めた。


「その巨大なゴーレムを、一体どうやって動かすつもりだ? 我々の技術で、その巨体を動かす動力など、想像もつかん! もし動かせなければ、この計画はただの戯言(ざれごと)に過ぎん! お前は、この計画の最も重要な部分を、まだ語っていないのではないか?」


 ミミックは、してやったりとばかりに、不敵な笑みを浮かべる。彼の口元が歪み、勝利を確信したかのように見える。


「へっ、当然考えてるぜ」


 ミミックは、高らかに宣言した。


「このゴーレムのコアを、歴史部門代表のグリモアと、魔界特殊警備部門隊長のオニが提案した巨大な魔導書にする。動力は、その魔導書に刻まれた新魔王様の魔力だぜ!」


 彼は、自慢げに胸を叩いた。


「これで永遠機関の完成ってわけだ! 動くゴーレムは、歴史を刻む魔導書と、今を生きる力を持つ新魔王様の、まさに融合だ! そしてそれは、新たな歴史になるんだよ! どうだ、俺様の発想は、金儲けだけじゃねえだろ? 俺の天才的な発想力にひれ伏せよ!」


 グリモアは、感銘を受けた表情で頷いた。彼の古びた魔導書は、静かに光を放っている。その光は、過去の知恵が今に活かされることを示しているかのようだ。


「……歴史は、過去の記録だけではない。今を生きる力と融合することで、新たな歴史を創造するものである。……ミミック殿、貴殿の考察、見事である」


 彼は、目を閉じ、深い思索にふけるように語った。


「まさか、歴史書が、動力源になるとは……。これは、魔界の歴史に、新たな概念を刻む偉業である。貴殿の功績は、未来永劫、我らの歴史に刻まれるであろう」


 オニは、一言も発しなかったが、その鋭い眼光は、巨大ゴーレムの姿を想像しているかのように、遠くを見つめていた。彼の表情からは、新たな戦術を模索しているかのような、静かな闘志が感じられる。彼は、未来の戦場を、その要塞の影に見ているようだった。


「さらに、このゴーレムで魔界中を練り歩き、新魔王就任を魔界中に知らせてやる!」


 ミミックは、最後にこれまでの議論をすべて集約させたかのような完璧な提案を終え、高笑いした。会議室に集まった幹部たちは、その壮大で現実味のある計画に、ただただ言葉を失い、放心状態に陥っていた。


 その時、会議室の分厚い扉が、音もなく、しかし、まるで自らの意志を持つかのようにゆっくりと開いた。部屋に差し込む光の筋が、一瞬、虹色に屈折し、そして、扉の向こうに立つ男の姿を、まるでスポットライトのように照らし出した。その男、新魔王が、静かに、しかし絶対的な存在感をもってそこに立っていた。会議室に満ちていた喧噪と興奮が、真空に吸い込まれるように音もなく消え去る。


「――静まれ」


 その一言が、まるで時の流れを止めるかのように、五感を麻痺させた。喧騒は、音のない世界へと消え去り、幹部たちの胸に去来していた感情は、冷たい水に溶けるように消えていく。新魔王は、ミミックの企画書を手に取り、ゆっくりと歩みを進めた。


「……伝説で必殺のパーティとは、それぞれの個性がぶつかり合い、そして調和することから生まれる。品位、芸術、安全、そして歴史。すべてが揃って、初めて真の宴となるのだ」


 新魔王は、静かに、しかし威厳のある声で語り始めた。


「ミミックよ。お前は、この難題を見事に解決してくれた。この計画を、実行に移せ。全力で、だ」


 新魔王の言葉に、スラポンは深く頭を垂れ、その場でひれ伏す。彼の顔には、安堵と尊敬の念が浮かんでいる。


「……新魔王様のお言葉、誠にごもっともでございます。それぞれのアイデアを統合し、最高のパーティを作り上げてみせます。全力を尽くし、必ずや成功させてみせます!」


 ミミックは、新魔王に一歩近づき、企みを含んだ笑みを浮かべて尋ねた。彼の目は、既に次の金儲けのプランを計算している。


「へっ、新魔王様。この伝説で必殺のゴーレムに、ぜひお名前をつけていただけませんでしょうか? その方が、商用利用しやすくなるんで!」


 新魔王は、ミミックの言葉に満足げに頷き、高々と右手を挙げた。その手は、まるで未来を掴むかのように、力強く空を指している。


「――伝説で必殺の宴は、四日にして成った! 巨大ゴーレムの名称を『移動戦士グリスタ』とせよ!」


 ミミックは、その名に大いに満足した。自身の計画に新魔王の名が加わることで、さらに儲けが増えることを確信したのだ。彼の嫌らしい笑みが、さらに深く刻まれる。


「ふははは!『移動戦士グリスタ』! 最高のネーミングだぜ! これなら、もう金がっぽがぽだぜ! この名前だけでも、魔界中の商人が殺到するぜ!」


 コボルトは、目をキラキラと輝かせ、無邪気に喜びを表現した。彼の表情は、希望と憧れに満ちている。


「あ、あの!移動戦士グリスタ、僕、なんだか、かっこいいっす!」


 コボルトは、震える声で、純粋な感動を伝えた。


「僕も、お掃除とか、お手伝い、頑張りますっす! 僕のドジが、このゴーレムの役に立つなんて、光栄っす!」


 ガーゴイルは、感極まったコボルトと、金儲けのことしか考えていないミミックを交互に見て、顔を赤くして大喝した。彼の額には、怒りの血管が浮き上がり、目が赤く光っている。


「何を言っているのだ、お前たちは!」


 ガーゴイルは、テーブルを強く叩きつけ、雷鳴のような声で二人を叱咤した。


「コボルト、貴様は、単なる移動要塞の清掃員ではない!貴様は、その不注意な行動から規律の重要性を教える、生きた教科書なのだ! ミミック、貴様は、その強欲な頭脳で、魔王軍の未来を切り拓くという重責を担っている! その名を軽々しく商用利用などと口にするな! 新魔王様のお言葉は、金銭では測れぬ価値があるのだ!」


 ガーゴイルの激しいツッコミに、ミミックは少しだけ顔を引きつらせ、コボルトはまたしても身をすくめた。新魔王は、そんな彼らの様子を見て、静かに、そして満足げに微笑んだ。


「――伝説で必殺の宴は、この不器用な情熱から生まれる。お前たちのその想いが、このゴーレムを動かす、真の力となるだろう」


 新魔王は、そう言って、ゆっくりと会議室の出口に向かって歩き始めた。


「そして、この『移動戦士グリスタ』は、永遠に魔界の歴史に名を刻むことになるのだ」


 こうして、新魔王歓迎パーティ計画は、壮大な計画の実現に向けて、その第四歩を終えたのであった。会議室の窓からは、夕日が差し込み、幹部たちの影を長く引き伸ばしていた。


 会議室から出た幹部たちは、それぞれの胸に、新たな波乱の予感と、まだ見ぬ未来への期待を抱きながら、静かに自室へと戻っていく。ミミックは、財布の紐を締めながら、その頭脳で新たな商機を計算していた。ガーゴイルは、コボルトの純粋な心と、規律の持つ本来の意味について、静かに考えを巡らせていた。コボルトは、目を輝かせながら、いつか『移動戦士グリスタ』をピカピカに磨き上げる日を夢見ていた。そして、魔界の宴の行方を、誰もが固唾(かたず)をのんで見守っている。



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