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魔王軍物語 ~ ドタバタ会議室 ~  作者: じゆう七ON
第1章 元勇者の魔王タロウ誕生!

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11話 新魔王歓迎パーティ計画の会議、その波乱の幕開け 3日目

 新魔王歓迎パーティの計画は、三つの華々しい企画案が出揃い、いよいよその実現に向けた最大の壁──予算査定──の段階へと突入した。前日の会議でヴァパイアが指摘したその問題は、魔王軍の未来を占う新たな火種となり、幹部たちの間に緊張感をもたらしていた。守銭奴として名高い財務部門代表のミミックは、この計画にどのような裁定を下すのか。そして、この難題を、新魔王はどう乗り越えるのか。魔界の明日をかけた会議は、予算という新たな壁にぶつかり、さらなる波乱を予感させていた。


 会議室に重苦しい空気が満ちる。虚無ノ議場の巨大なステンドグラスから差し込む光が、幹部たちの顔に影を落とし、その緊張感をさらに際立たせていた。誰もが、これから始まる予算査定という名の舌戦に身構えている。その重苦しい静寂の中、壇上に立つスラポンは、冷静に、そして確固たる口調で議論を切り出した。手元の書類をミミックに差し出すその手には、一切の迷いが見られない。


「それでは、本日の議題を始めます」


 スラポンは、一言一言区切るように、ゆっくりと語り始めた。


「昨日提出された三つの企画案について、財政部門代表のミミック殿に、予算の査定をお願いします。……伝説で必殺のパーティを成功させるため、現実的な視点からのご意見を、お聞かせください」


 ミミックはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、渡された書類をパラパラとめくる。その指先が、まるで金貨を数えるように小刻みに動き、甲高い摩擦音が会議室に響き渡った。周囲の幹部たちは、その指の動きから目が離せない(離したかったが無理だった)。


「へっ、くだらねーな。伝説で必殺?」


 ミミックは、鼻で笑いながら、書類を扇子のように広げて見せた。


「そいつは、お前らの財布が、伝説で必殺の軽さになるってことだぜ? まあ、とりあえず見てやるけどよ。だが、覚悟しとけよ。俺の査定は、お前らの夢を、現実という名の底なし沼に叩き込むぜ! ふははは!」


 ミミックの挑発的な言葉に、ヴァパイアは優雅に扇子を広げ、冷ややかな視線を向ける。その視線は、まるで氷の刃のようにミミックに突き刺さり、一瞬にして彼の笑顔を凍りつかせた。


「あら、ミミック。そのような下品な言葉は、この神聖な場で慎みなさい」


 ヴァパイアは扇子の先で唇を隠し、静かに、しかし刺のある言葉を(つむ)ぐ。


「わたくしたちが提案したのは、魔界の威信をかけた芸術作品ですわ。財政部門が予算を渋るようでは、魔界の品位は地に落ち、わたくしという存在の誇りすら、保てませんわ」


 ジュエルが、ヴァパイアに同調し、誇らしげなポーズを取る。その身体からは、まるで星屑のような光の粒子が放たれ、会議室の空気にキラキラと輝きを添える。


「そうよ!」


 彼女は、胸のクリスタルに手を当て、声を張り上げた。


「わたくしたちの芸術は、次元を超えた美しさなのよ! その価値を、下世話(げせわ)な金銭で測るなんて、愚の骨頂だわ! あなたの貧相な精神では、わたくしの芸術を理解することは一生無理でしょうね!」


 ミミックは、ふんっと鼻を鳴らし、再び書類に目を落とす。そして、悪意に満ちた笑みを浮かべ、最初の査定結果を発表した。


「……まず、ヴァパイアたちの『美のイリュージョン』。この企画、クリスタルを大量に使うんだろ?」


 彼は、書類の端を指で弾き、ニヤニヤと笑った。


「……へっ、心配ご無用。こんなクリスタル、魔王軍の宝物庫に山ほど眠ってるぜ。あんなにあるんだから、タダみたいなもんだな。お前らの派手なだけの企画は、金がかからないってこった!」


 ミミックの意外な発言に、ジュエルは目を輝かせ、ヴァパイアは驚きに扇子を落としそうになる。周囲の幹部たちも、ざわめき始めた。


「ええ!? 宝物庫に!?」


 ジュエルは、興奮して飛び跳ねた。


「そんな美の結晶が、眠っていたなんて! ミミック、あなた、なんて芸術的なの! 眠れる美女を起こす王子様のようだわ!」


 ミミックは、ジュエルの賞賛に気分を良くしたのか、次にガーゴイルとコボルトの企画案に目を移す。


「次に、ガーゴイルの『安全第一計画』。警備用ゴーレムの増設だっけ?」


 彼は書類を放り投げるようにテーブルに置き、勝ち誇ったように笑った。


「こんなの、資源管理部門のゴレムが、頑張って石を掘ってくれれば、どうにでもなるだろ。あいつなら、文句も言わずにやるさ。これも、ほぼタダだな。お前らの地味な企画は、つまんねーけど安上がりってことだ!」


 ミミックの言葉に、ガーゴイルは腕を組み、不満げな表情を浮かべる。その目は、ミミックを射抜くように鋭い。


「何を言っているのだ!」


 ガーゴイルは怒りで両目を真っ赤に光らせ、低い声で唸った。


「警備用ゴーレムの増設は、規律を保つ上で最も重要なのだ! その神聖な任務を、貴様は『タダ』という下劣な言葉で汚すな! 貴様は、魔王軍の安全を軽んじているのではないか! 貴様ごときには、規律の尊さなど一生わかるまい!」


 コボルトは、ガーゴイルの隣で、不安そうに身をすくめる。その手は、震えで持っていた書類を落としそうになっている。


「あ、あの……!」


 コボルトは、震えながらも、小さな勇気を振り絞って口を開く。


「僕が、ドジをしないように、僕の分も、頑張ってもらわないと、いけないっす……! ご、ごめんなさいっす……!」


 ミミックは、ガーゴイルの言葉を無視し、最後の企画案に目を向ける。


「そして、グリモアとオニの『歴史を刻む儀式』。巨大な魔導書に、魔王様の歴史を刻むんだとさ」


 彼は、ニヤニヤと笑い、片目をウインクするように閉じた。


「……ああ、この企画も、合成素材は魔王軍の宝物庫にあるぜ。ついでに言うと、俺がこっそり裏ルートで仕入れた、幻の素材もな! ふははは! お前らの企画も、ちゃっかり俺のポケットが潤うってわけだ!」


 ミミックの笑い声が、会議室に響き渡る。グリモアは、ミミックの私利私欲が見え隠れする発言に眉をひそめ、静かに反論する。


「ミミック殿。歴史は、しばしば未来を映す鏡である」


 彼は、胸に抱いた分厚い魔導書をそっと開いて見せる。


「かつて、ある強大な王国は、軍備増強にのみ予算を割き、文化や歴史を軽んじた。その結果、民の士気は低下し、やがて内側から崩壊したのである。金銭的な利益のみを追求することは、長期的な視点で見れば、大きな損失を招く。我々の歴史を刻む魔導書は、魔王軍の精神的な支柱であり、その価値は、貴殿の貧相な金銭感覚では計り知れないものである」


 グリモアの重厚な言葉に、オニは、一言だけ鋭く付け加える。その言葉は、まるで氷の結晶のように、会議室の空気を研ぎ澄ます。


「……くだらん。……歴史など、ただの紙屑だ」


 オニは、静かに、しかし断定的に語った。


「……だが、その紙屑が、戦場では、我々を守る盾となる。……その価値は、ミミックの言う『金』では、測れぬ。……貴様のような俗物には、理解できまい」


 ミミックは、グリモアとオニの反論に、愉快そうに笑う。その笑い声は、会議室の空気をさらにかき乱す。


「へっ、お前ら、分かってねえな。タダってのは、最高の価値だぜ!」


 彼は、指を鳴らし、高らかに宣言する。


「つまり、この3つの企画は、伝説で必殺の低コストで、実行可能ってことだ! ふははは! 俺のポケットは潤うし、お前らは夢を見れるし、これ以上最高の価値なんてねえだろ!」


 ミミックは、勝利を確信したかのように高笑いを続ける。しかし、その言葉を聞いたセイレンが、静かに、そして悲しげに歌い始めた。その歌声は、会議室の空気に溶け込み、幹部たちの心を震わせる。


「……タダ、タダ……。私の歌声は、タダじゃないわ……」


 セイレンは、その透き通るような声で、悲しみを込めて歌う。


「心の奥底から湧き出る、唯一無二のメロディーなの……。そんな、無粋な言葉で、私の芸術を汚さないで……。私の歌声に、どれだけの情熱と魂が込められているか、あなたには分からないのね……」


 セイレンの歌声に、会議室の空気が再び重くなる。ミミックは、その歌声に苛立ち、声を荒らげる。


「うるせえ! 歌声なんて、金にならねえだろ! 無駄なもんに価値はねえんだよ! さっさと黙ってろ!」


 その時、会議室の扉が静かに開き、新魔王が姿を現した。彼の存在は、まるで月の光が差し込むように、会議室の喧騒を静寂へと変えていく。彼の足音が、会議室の床に吸い込まれるように、ゆっくりと響く。彼は、混乱する幹部たちを静かに見つめ、ゆっくりと口を開く。


「――静まれ」


 その一言が、まるで時の流れを止めるかのように、五感を麻痺させた。喧騒は、音のない世界へと消え去り、幹部たちの胸に去来していた感情は、冷たい水に溶けるように消えていく。新魔王は、ミミックに目を向け、静かに、しかし威厳のある声で語り始めた。


「ミミックよ。お前の査定は、現実的で素晴らしい。だが、お前は、最も大切な価値を見落としている。――伝説で必殺の宴とは、金銭的な価値で測れるものではない。それは、それぞれの魂が、互いに影響し合い、新たな価値を創造する過程なのだ。そこに、金額を付けることはできない」


 新魔王の言葉に、ミミックは言葉を失い、顔を赤らめる。その口は、パクパクと魚のように動くばかりで、何の言葉も出てこない。


「お前が言った『タダ』という言葉は、我々の持つ力を最大限に活かすという意味で、正しい。だが、その力は、お前が軽んじた『芸術』や『規律』、そして『歴史』があってこそ、真の価値を持つ。それを忘れてはならない」


 新魔王の言葉に、スラポンは深く感銘を受け、静かに頭を垂れる。


「……新魔王様のお言葉、誠にごもっともです。このスラポン、深く感銘を受けました。我々は、金銭的価値だけでなく、精神的な価値も追求すべきであると、改めて認識いたしました」


 その時、コボルトが、緊張で震えながら、新魔王に語りかける。その瞳は、純粋な希望に満ちていた。


「あ、あの……!」


 コボルトは、ガーゴイルの顔をちらりと見、決意を込めて新魔王に語りかける。


「僕、頑張って、宝物庫のクリスタルとか、運んできますっす! 落とさないように、頑張りますっす! 新魔王様の役に立ちたいっす……!」


 コボルトの純粋な言葉に、新魔王は優しく微笑む。


「ああ、コボルト。その気持ちこそが、何よりも尊い。お前が頑張って運んでくれたクリスタルは、この宴を、より輝かせるだろう。お前の努力が、この宴の光となるのだ」


 コボルトの言葉を耳にしたガーゴイルが、激しい怒りに顔を紅潮させ、両目を真っ赤に光らせて大喝する。その怒りの炎は、会議室の空気を熱く震わせた。


「何を言っているのだ、コボルト!」


 彼は、コボルトの小さな肩を掴んで揺さぶった。


「貴様のドジは、魔王軍の歴史に刻まれているではないか! 貴様が運べば、必ず落とす! 規律とは、己の能力を正確に把握し、無理な行動をしないこと! それが、安全を保つ上で最も重要なのだ! 感情に流され、規律を乱すような発言をするな!」


 コボルトは、ガーゴイルの迫力に、再び身をすくませる。しかし、新魔王は、そんなガーゴイルに、静かに語りかける。


「ガーゴイルよ。お前の言う規律は、完璧だ。だが、それは、不完全な存在であるコボルトの、純粋な『頑張りたい』という気持ちを、否定するものだ。真の規律とは、不完全さを許容し、その上で全員が輝ける場所を創造することではないのか?」


 新魔王の言葉に、ガーゴイルは言葉を失い、静かに目を閉じた。彼の心の中では、規律と感情が激しくぶつかり合っていた。


「――伝説で必殺の宴は、三日にしてならず……。次は、ミミックよ。お前の財力で、この三つの企画を、融合させてみろ」


 こうして、新魔王歓迎パーティ計画は、それぞれの企画を統合するという、新たな課題を残して、その第三歩を終えたのであった。


 この日の会議は、単なる予算会議ではなかった。ミミックは金銭的価値というレンズを通して、各企画の現実性を炙り出し、新魔王は、それを精神的価値という新たなレンズで再定義した。特に印象的だったのは、新魔王がコボルトの純粋な想いを肯定し、ガーゴイルの規律を「不完全な者を輝かせる場所」として再解釈したことだ。魔王軍が目指すのは、物質的な強さだけでなく、個々の魂が輝く場所なのかもしれない。


 会議室から出た幹部たちは、それぞれの胸に、新たな波乱の予感と、まだ見ぬ未来への期待を抱きながら、静かに自室へと戻っていく。魔界の宴の行方を、誰もが固唾(かたず)をのんで見守っている。



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