#1-8 流サイド
それから、しばらく。身支度を終えたノギと暁の三人でリビングにて待機していた頃。僕のスマホが唐突に鳴り始める。相手はやはり冬山羊先生だった。
「もしもしっ!」
慌てて電話を受け取ると、冬山羊先生は冷静な声で応答してくれた。
「準備万端のようですね。…さて、被疑者達ですが、どうやらE.C.の人達で間違い無さそうです。人手の無い、細道ばかりを選びながら車を走らせている。」
冬山羊先生はそう言うと、一呼吸置いて、僕達にこう伝令した。
「成川さん達には、車を襲撃して頂きたい。現在、その車に行政の方々がカーチェイスを行いつつ、とある行き止まりに追い詰めています。三人には、そこに行って貰い、手際よく犯人を倒して貰います。…まあ、先に藍沢さんが倒しているかもしれませんが。」
細かな作戦内容の説明の後、大丈夫でしょうか?と冬山羊先生が確認すると、僕の隣で聞いていたノギが、勿論です!と元気な声で返事をした。
「紺田さん、ありがとう。くれぐれも気を付けて下さいね。あと、できる限り複数人で協力して戦闘を行うように。皆さんの命が最優先ですから。くれぐれも、単独で多数の敵に挑むような危険な真似はしないようにお願いします。」
それではご健闘を祈ります、そう言った後、冬山羊先生は電話を切った。僕達は、先生の指示によると、車などの乗り物には乗らずに、近くの行き止まり地点に走って向かうらしい。ちなみに、別行動の良と夏居は、既に外に出ているため、先に目的地に向かい、戦闘を始めるとのことだ。
「さぁ、僕達も行きますか。」
ふぅ…と溜息を吐いた後、僕達はマンションの一室を静かに出るのだった。
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やがて、目的地に辿り着くと、そこには数人のE.C.と思われる遺体と行政機関から派遣された方々。そして、車を物色している夏居が居た。
「遅い!」
そう言いながら、僕らの後ろに、いつの間にか回ってきていた良は、暁の頭に軽めのデコピンを入れる。
「もう来てたんだね。」
どうやら、事は終わっていたらしい。さすがは良だ。夏居と共に先回りした後、お得意の体術とE.Powerで敵を殲滅したのだろう。行政機関の大人達は、子供が実際に“人殺し”を行っているのを見て、ショックでも受けたのか絶句したまま立ち尽くしていた。
_まあ、普通は人殺しは正当化出来ないよな。僕はそう考えながら、周りに這いつくばっているE.C.の死体に手を合わせた。
「全員やっちゃったの?」
僕がそう尋ねると、車の中を物色していた夏居は、車内で物を探しながら、違うよーと答えた。
「一人だけ良が生かしたの。なんでそんなに水を欲したのか…それについて取り調べをするために。」
そう、と良は夏居の言葉に相槌を打った。
「どうせ、聴取は生徒会とか上の連中がやるんだろうけれどね。」
良はそう言いながら、その辺に転がっている一人の男を暁と共に担ぐ。
「コイツをE.P.H.に連れて行こう。…ねえ、何突っ立ってんの?早く遺体処理と車の回収やってくれない?」
良はぶっきら棒に行政機関の大人達にそう呟いた。すると、彼等は慌てて、はいぃ…!と呟いた後、せっせと後処理を始めた。
「本当にありがとう、良。今回のMVPは君だよ。」
心からの感謝を込めてそう言うと、良は先程のぶっきら棒さから打って変わって、照れたのか少し目線を下にしたあと、
「別に、今回は弱かったし。」
と呟いた。その光景をいつの間にか車内から出ていた夏居が、微笑ましく眺めていた。
「いやぁ~、今回はまっちゃんが最優秀賞だよね!ありがとう…!」
「だから、あんま褒めないでって…」
女性陣の平和なやり取りを片目に、僕は現場をもう一度眺めた。
(良かった、今回はすぐに事が収まって…)
ふぅと安堵の溜息を吐いた後、僕は冬山羊先生に終わりました、と連絡を入れるのだった。




