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第三話 二人の想い

 結局、その日の夜はぐっすり寝てしまった。

 逃げ回って疲れていたのに加え、暖かい人肌に抱かれていたから。

 逃げるチャンスを失った上に、目が覚めたときには既に日が昇っていた。

 雪が降っていた昨日とは真逆の快晴だった。これでは外に出ることはできない。

 それよりも、この家はボロボロ(失礼)で隙間から日が差し込んでくるのだ。気を抜けば大やけどしてしまう。

「あ、おはよう。ちゃんと眠れた?」

 扉を開ける音と共にソフィアがわたしに話しかけてくる。

「うん。大丈夫。」

「朝ごはんできてるよー」

 日に当たらないように布で全身を覆いながら返答する。

 朝食を食べるには部屋を移動しなければならない。

 そっと顔を出して日がない場所を確認する。

 日が当たらないルートを確認して、できるだけ身を小さくしながら、ゆっくりと前進する。

 地を這う虫のようにのそのそ進み、寝室からの脱出に成功する。

 目的地のリビングに目をやる。

「……な、なにしてるの?」

 キッチンで後片付けをしていたソフィアと目が合ってしまった。

 咄嗟に顔を伏せる。

 まずい。

 今のわたしは不審すぎる。

 というか、日光を避けていると思われたら吸血鬼だとバレてしまう。

 なにか言い訳をしておかないと……。

「え、えっと…これは…なんというか…」

「寒いの?」

「え?うん!今日とっても寒いの!」

「そ、そう?じゃあ、お外で食べる?今日はあったかいよ」

 話がより悪い方向へ向かっている気がする。

「や、やだ!お外やだ!」

 ぶんぶんと首を振りながら、子供みたいな嫌がり方をする。見た目は8歳なので…。

 ともかく、必死に拒絶したおかげで日光消毒は免れたが、「そ、そっかー」と若干引き顔になっていたのは心苦しい。わがままでごめんなさい…。


 変な子だと思われただろうな…と思いながら朝食を済ませた。

 日中は何もできないのでぼーっとしている。

 ソフィアに「おうち帰らないの?」と聞かれたが、帰りたくないと言って布団に潜った。

 これからについて考えておく必要がある。

 まず、ここを出た後。

 ……

 あれ?

 そういえば、わたしに行先なんてなかったんだ。

 ……

 じゃあどうでもいいか。

「はぁぁ」という大きなあくびが漏れる。

「寝よ」

 さっきまで寝ていたのに。

「まあ、吸血鬼は昼間に寝るものだからね。」

 わたしは誰か言い訳してから二度寝を始めた。


 *** ***


 目が覚めると、外は大分暗くなっていた。

 とりあえず、ふらふらっと立ち上がってリビングへ向かう。

 誰もいない。

 ソフィアはどこへ行ったのだろうか。

 ……いや、これはチャンスだ。

 ソフィアは良くしてくれたが、これ以上迷惑かけるわけもいかない。

 わたしは決意を固めて玄関の扉を開ける。

「さよなら」

 わたしは名残惜しい気持ちを抑えて走り出した。


 ソフィアの家を出てから少し経ち、辺りは完全に真っ暗になっていた。

 吸血鬼の目は、暗闇でもしっかりと視界が確保できるが、シャツ1枚で夜の雪原を駆けるのは厳しい。

 とにかく、寒さをしのげる場所が必要だった。

 だが、そう都合よく空き家や空洞があるわけでもない。

 あのときは、偶然たまたまソフィアに助けられただけ。本来、こんな雪原で生きていける動物はいないのだろう。

 ……ソフィアのことを考えてしまった。

 素敵な笑顔の銀髪の天使を思い出す。

 ソフィアの家に帰りたい。ソフィアともっと一緒にいたい。ソフィアと……。

 わたしがそう願ってしまったとき。

 なにかにつまづいて顔面から雪に突っ込んだ。

「つめたい…」

 雪を顔から落としながら、わたしがつまづいたものを見る。

 それは―――


「……ソフィア?」


「うぅ……」

 ベッドに寝かせたソフィアがうなされている。

 具合が悪いようなので、濡らした布を頭に置いた。

 とりあえず処置はしたので、わたしはリビングへ戻った。

「結局、戻ってきちゃったなぁ……」

 だが、後悔は全然感じていなかった。

 1日くらいしかいなかったのに、この家にいるだけで安心しているような気がする。

 何故だろうか?

 ……まあいいか。

 昨日助けられた分、恩返ししなくては。


「……なにすればいいんだっけ?」

 わたしは看病の経験がない。

 子供のころの記憶を辿り、病気になったときにしたことを思い出す。

 頭を冷やすこと。食べること。寝ること。

 わたしにできることは、食べやすい大きさに切った野菜を用意して、ソフィアの隣でじっと様子を見ているだけ。

「起きるまで待つしかないか」


「エリスティアちゃん……?」

 うたた寝をしていたわたしは、すぐに声のした方へ向くと、ソフィアが目を覚ましていた。

「お、起こしちゃった?ご、ごめんなさい」

「ううん、大丈夫。それより、助けてくれてありがとう。」

「わ、わたしのこと助けてくれたんだから、当然だよ!気にしないで!」

 ソフィアは一瞬、驚いた顔をしていた。

「でも、よく見つけたね。もう助からないと思ってた。」

 わたしが見つけられた理由は説明しにくい。ここから逃げようとしたなんて言えない。

「か、帰ってくるの遅いからどうしたのかなーって思ってさ」

「心配してくれたんだ」

 ソフィアが笑顔でわたしの手を握ってくる。

「あのね、私ね、ずっとひとりぼっちだったんだ」

「家族全員殺されちゃって……ずっと気にしないで生きてきたんだけど、多分限界だったみたいで」

「だから、エリスティアちゃんがうちに来た時、すっごいうれしかった」

「今日はね、張り切りすぎちゃったんだと思うの。だって、エリスティアちゃんに作ってあげたくて」

「わたしに?作るって?」

 ソフィアは「うん」と言ってズボンのポケットから何かを取り出した。

「これはね、宝石なんだ。ちょっと遠いけど、洞窟があって。そこには綺麗な宝石がいっぱいあるの」

「この宝石でね、エリスティアちゃんにアクセサリーを作ろうとしてたの」

「でも、心配かけちゃったよね、ごめんね。エリスティアちゃんに喜んでもらおうとしてたのに、迷惑かけちゃって」

 ソフィアから涙が零れる。

「そ、そんなことないよ!」

 ソフィアに握られた手を両手で握り返す。

「とっても嬉しいよ!むしろ、わたしの方が迷惑かけてるし、心配は…したけど、でも、助けられた恩返しもできたもん!」

「だからもうおあいこだよ、これからも助け合っていこ!」

「えっ……?」

 ソフィアは困惑していた。

 このときのわたしは気持ちが高ぶってしまっていたのだ。

「エリスティアちゃん、帰らなくていいの?」

「どうせ居場所ないもん、帰りたくない!」

 きっと高ぶっていただけじゃない。


 ここで、二人でいるのが好きなんだ。

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