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第5章:封印区域・未成線跡

「東練馬四丁目遺跡」。

地図にはそう書かれていたが、実際にはそんな場所など存在しない。

検索にも出ない。地名の由来も不明。

だが、記録館の職員が渡してくれた地図には、確かにそこが示されていた。


真は、その“場所”に立っていた。


都内のはずれ、廃線となった地下鉄の出入口。

雑草が伸び放題で、立ち入り禁止のフェンスには、もはや効力はない。


辺りに人影はない。

だが空気が変だった。音が吸い込まれるように消えていく。

まるでここだけ、現実の座標からずれているような感覚。


「……こんなところに、地下鉄あったか?」


真は自問する。


駅名標すらない。だが、明らかに地下へ続く階段がある。


そして階段の奥から——


何かが、こちらを“覗いていた”。


目じゃない。けれど、目のような存在感。

形のない何かの意識が、じっと見ている。


真は息をのむ。


脳裏に、夢宮蒼子の声が蘇った。


「見てはいけないものほど、見えてしまうのが夢と神様なのよ」


階段を、降りる。

一歩、また一歩。


気圧が変わる。耳鳴りが始まる。


やがて、鉄製の扉が現れた。

【封印処理済区域・関係者以外立入禁止】と掠れた文字が残っている。


「関係者って、今の俺のことか?」


真は苦笑しながら、扉を押した。錆びた音が軋む。


その先には、存在しないはずの駅構内が広がっていた。


プラットホーム、ポスター、改札機。

だが、どこにも電気は通っていない。色彩が抜け落ちている。

まるで写真のネガのような世界。


足音だけが響く。


真はホームのベンチに目をやった。


——そこに、誰かがいた。


白い制服の少年。

……いや、違う。

その姿は、夢で見た自分自身によく似ていた。


そして、ベンチに座るその人物は、こちらを向いて口を開いた。


「やっと来たんだね、斎 真」


「お前は……誰だ?」


「俺は“君”。

 けれど、“君じゃない”。

 そして……“君になるもの”だ」


意味がわからない。

だが、わからないままに“確信”してしまった。


これは、夢の続きだ。

そして、ここは現実の底にある“神域”——

いわば、“封印の裏側”。


「……真影録は、書かれていたんだ」


「うん。君がここで“目”と向き合うこと。

 そして、選ぶこと。目を開くか、閉じるかを」


周囲の空気が揺らぐ。

構内の空間が微かに歪み、遠くで“何か”が這いずる音がした。


「君は、選ばれる。

 でも同時に、選ぶこともできる」


真は、口を開きかけて——

そのとき、背後で“音”がした。


階段の方から、誰かが降りてきた。


細い足音。乾いた革靴の音。


その気配は、人間のものではなかった。


(→第6章:影法師と巫女)

ご覧いただきありがとうございます。

今回の第5章では、ついに現実世界に存在しないはずの“神域”へ、斎 真が足を踏み入れました。


夢と現実の境界線が曖昧になりつつある中で、

彼が出会った“もう一人の自分”は、一体何者なのか。

そして、最後に階段から降りてきた“影”の正体とは——


この先、神と人の境界がさらに崩れ、

真は“選ばれる者”としての運命と向き合っていきます。


次回、第6章では新たな視点人物の登場も予定しています。

投稿はこれまで通り、午前2時(丑三つ時)。

夢の扉が開く時間に、またお会いしましょう。

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