表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

第2章:旧神の印

朝の光は、やけに冷たかった。


いつき しんは、いつものように目を覚ました……はずだった。


ベッドの上、額に汗が滲んでいる。喉はひどく乾いていた。

昨夜見た夢のことは、まだ頭に色濃く残っている。白い巫女服の少女、崩れる世界、空に浮かぶ“目”。


そして——胸に刻まれた、奇妙な印。


真はゆっくりとシャツをまくり、確認する。

そこには、まるで眼球を模したような模様が、皮膚の下に浮かび上がっていた。痣でも傷でもない。まるで、“そこにあるのが当然”かのような自然さ。


「……タトゥーでも入れた覚えはないんだけどな」


冗談めかして呟いたが、笑えなかった。


その印を見た瞬間、胸の奥にざわつく何かが目を覚ますような感覚があったのだ。


——おまえは、選ばれた。


言葉にならない囁きが、意識の底で微かに響いている。


思考を振り払うように、真はスマホを手に取った。画面には、前夜に見た兄の最後の映像が表示されていた。

再生ボタンを押すと、ノイズ交じりの映像が流れる。


『……聞こえるか? 真。もしこれを見てるなら、たぶん俺は、もう——』


そして、途切れる。


やはり途中で記録が切れている。


だが、その時、ふとあることに気づいた。映像の端、兄の背後。

屋上の柵の奥に、何かが立っていた。


……白い着物姿の、少女のような影。


「夢宮……蒼子……?」


昨日、夢の中で会ったはずの少女の名を、自然に呟いていた。

現実にそんな人物がいるわけがない。けれど、この不可解な現象を前にしては、もう「ありえない」と切り捨てる方が無理がある。


夢と現実が、少しずつ重なってきている——そんな予感があった。


部屋の時計が、朝の九時を指していた。大学は午後からだ。

だが、真はそのまま着替え、ある場所へ向かう準備を始めた。


向かう先は、都内某所にある**「神話災害記録館」**。

一般には公開されていないが、民俗学ゼミの教授の紹介で、一度だけ足を運んだことがある。


あそこなら、何かがわかるかもしれない。

自分に刻まれたこの“印”と、夢で出会った“彼女”の正体。

そして、兄が見た“神”の謎——。


部屋を出ようとした瞬間、スマホが震えた。


画面に、知らない番号からの着信。


だが、着信名の表示にはこう記されていた。


【ヨミ】


一度も登録した覚えのないその名を見た瞬間、真の手は勝手に応答ボタンを押していた。


「……斎 真、君だね?」


低く、囁くような女の声。


「“目”が、君に宿った。——ようこそ、“黄昏の門”へ」


通話はそれだけで、ぷつりと途切れた。


スマホの画面には、何も残っていなかった。


まるで最初から、そんな着信などなかったかのように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ