5,ぬいぐるみの恩返し
好きな相手からのプロポーズからの流れはこれまたトントン拍子に話が進んでいき、時間が経つのがあっという間に感じていた。
だが裁判の時と違ってとても幸せな時間。アンは暗くなることなどなく、楽しい日々を過ごしていた。
何処でどう運命が変わって破滅フラグを回避し、こんなハッピーエンドを迎えたのかは分からない。だがどうであれ、もうアンが理不尽に殺されることはない。ダンテが闇落ちする歴史も変わったはずだ。
今日はそんな幸せいっぱいの二人による婚約パーティー。アンは煌びやかなドレスを着込み、周りの人達に祝福されながらダンテに会っていた。
「その、ドレスまで用意していただいて、本当にありがとうございます」
「そんなことにお礼に言わないでくれ。このパーティーは君が主役なんだから」
ダンテは彼女の前に跪くと、彼女に手を差し伸べて頼んできた。
「さ、お嬢様。この僕と一曲踊ってくださいませんか?」
「……はい、喜んで」
アンはダンテの手を取り、二人は祝福に包まれながら踊り始めた。
前世の記憶を取り戻したときは考えもしなかった幸せな時間。ダンスを終えて来客の方々と交流を深めていたアンは、笑顔を振りまきながらもさすがに少し疲れが見えていた。
(フゥ……少し休憩がしたいような……)
そんなときだった。ふと目線に入った会場の端っこに何故か引き寄せられる人物、いや物があった。
「あれは……ぬいぐるみさん!!」
目に入ったのは、彼女の元に偶然であったあのぬいぐるみだった。そして続けざまにアンに不思議なことが起こった。目線を変えないままに瞬きをすると、今の今までぬいぐるみがたっていた場所に一人の少女が立っていた。
宝石のようなエメラルドグリーンの髪を黒いリボンでツーサイドアップに纏め、髪と同じ輝きを持った瞳をしているとても可愛らしい美少女だ。服装もぬいぐるみが着ていたものと全く同じ。
アンはまさかと思って走ると、少女は口を開いて彼女に語りかけた。
「おめでとう、助けて貰った恩返しは出来たかな?」
少女はアンに可愛らしい笑顔を向けて彼女の今後の事を祈って口にした。
「お幸せに、アンさん」
直後、来客の一人が二人の間を通り過ぎると、少女の姿は消えていた。アンはまるで狐につままれたような感覚に陥っていると、近付いて来たダンテが彼女に声をかけてきた。
「どうかしたかい、アン」
「ほえっ!? あ、いや、その……」
言葉に悩んだアンだったが、次の瞬間には自分の愛する人に優しい笑顔を向けて返事をした。
「少し……お友達と話していただけです」
婚約パーティーが盛り上がる中、会場からでてすぐの廊下。白いローブを羽織った青年がしゃがみ込み少々機嫌が悪いようにしながら話しかけていた。話をしている相手は、アンの元にいたぬいぐるみだ。
「全く、急にいなくなって戻って来たと思ったら……あの人を助けたいから手伝えなんて勝手な事言いやがって。
言われたとおり裁判所の悪徳警備員共は邪魔しないよう軽く捻っておいたが、お前の頼みじゃなきゃとても聞いちゃいないぞ」
ぬいぐるみは申し訳なさそうにしていると、青年はぬいぐるみの頭を優しく撫でて励ましの声をかけた。
「まあいい。お前のおかげで救われた人がいるからな。だけど、単独の無茶は出来れば止めてくれよ。俺がお前を心配する」
ぬいぐるみは頷くと、青年の掌の上に乗り、運ばれる形で彼の右肩に移動してしがみついた。
「行くか。ここにはもう要は無いし」
青年は歩き出しながら、ぬいぐるみ相手にふと話しかける。
「にしても、死亡フラグ持ちの奴を救うねぇ……そのうち、ゲームの勇者なんかも助けることになったりしてな」
台詞の直後の足音を最後に、青年とぬいぐるみは一瞬で姿を消した。彼等が何処に行ったのかは誰も知らない。
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アンと遭遇したぬいぐるみ、そして最後に出てきた青年は一体何者だったのか。気になった方は是非こちらの作品も読んでもらえるととても嬉しいです!!
『FURAIBO《風来坊》 ~異世界転生者の俺より先に魔王を倒した奴についていったら別の異世界に来てしまった!!~』
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