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はじまりの朝-4

わたしは一体何をやっているのだろう?見ず知らずの美人と、全く見覚えのない部屋に二人きりで二人とも全裸で、手を出そうとしたら突然気持ち悪くなって床に吐きまくって。


で、今はそれのお片付け中ときたもんさ。ぞうきんとかバケツとかが洗面台の下に置いてあったのでそれを借りて、自分で出したものを自分で掃除しているわたし。

もうなんか、自分が情けなくなってくる。何やってんだろうって自暴自棄になってます。


ああ、あの美人なおねえさんに慰めてほしいけど、愛しの彼女は未だ夢の中。わたしがげぇげぇ吐きまくってた横でも全く気付くことなく眠っていた。まあもう少し起きるまで待ってみるか。どちらにしても、まずは片づけだ。


それにしても我ながら盛大にぶちまけたなぁ。めちゃくちゃ酒臭いし。でもよく考えたてみたら昨日のことを全く覚えていない。たぶん記憶がなくなるくらい酒を飲み過ぎてこうなったんだろうけど……どこで誰と飲んだのかな?やっぱりそこのおねえさんとかな?で、そのまま私がお持ち帰りしたかされたか……。でもわたしがお持ち帰りしたわけではなさそう。こんな知らないところには来ないし。ホテルでもないみたいだしなぁ、ここ。ということはおねえさんの家なのかな……?っていうか、そもそもあのおねえさんは誰?


あれこれと思案しながら黙々と手を動かした。

自分の吐しゃ物とはいえ、この見栄えも、臭いも、感触さえも、どれを取っても気持ち悪いとしか言いようがない。それでも掃除しないわけにはいかない。

休むことなく手を動かしながら、気を紛らわすためにいろいろな事を考えてみる。


わたしは…アリス。三条寺亜梨栖。齢二十歳になったばかり。東京の端っこの八王子の山ん中にあるいろんな意味で有名な女子短大をこの春卒業し、晴れて立派な一流フリーターの仲間入りを果たし、泥沼と化した不況経済を無意味に邁進する日本社会へと足を踏み入れてしまったうら若き乙女。

仕事はメイド喫茶。そう、かつてわたしはメイドさんだったのであります。


わたしはどちらかと言えばヲタな人。だからコスプレにも元々興味あったし、場所が秋葉原というのも全然悪くない。むしろ大歓迎。

というわけで軽い気持ちで応募し、軽い気持ちで面接を受け、軽い感じで採用となる。でも実際にやってみると、これが非常にストレスの溜まる仕事。

客からお尻を触られたり胸を揉まれたりなんて日常ちゃめしごと。

まるで風俗とかキャバクラなんかと勘違いしている御主人様共がわんさかいる。

昨今の、って言っても昔がどうかわたしにはわかりませんが、ヲタク共はマナーが悪い。3次元にも平気で手を出してる。2次元命!なんて人、最近は全く見ないなぁ…。あ、でもそれが普通と言えば普通か。


それにしても、やっぱりアニメやヲタク文化の中にも男尊女卑的な構造が大きく現れている。可愛いヒロイン、戦う女子高生、メイド、ナース、巫女さん、チャイナ娘にブルマに和装。これらは男性の主観的立場からの発想で……ん?


「ん…うん……」


わたしの思考がなんだかヲタク文化批評に走り出そうとしたとき、そして丁度床のゲロ拭きクリーンアップ作業が完了した、まさにその時。


おねえさんがゆっくりと起き上がった。


上半身をゆっくりと起き上がらせる。実に滑らかで美しい動作だ。


そして彼女はゆっくりと瞳を開く。綺麗な琥珀色の瞳が少しずつ現れてくる。少し潤んだ表面がきらきらと輝いて見え、ぼやけた瞳の輪郭が不思議と彼女に、柔らかく繊細で弱弱しいもののような印象を与えている。更に裸ってところが尚一層、萌的要素を惹き立てている。


その危うそうな瞳が、まだはっきりと意識されていない中でも、わたしの姿を捉えた。

彼女はわたしを見つめた。無機質な瞳、無感情な表情。一瞬、時間が止まっているのではないかと思ったくらいの、静止した時間が彼女との間にあった。でも、その一瞬の不安のようなものは彼女の笑顔によってかき消される。


「おはようアリス」

「…あ、お、おはよう……」


なんの気なしに返事してしまったわたしは、持っていた吐しゃ物まみれの雑巾の置き場所を定められず、ただ固まっていた。


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