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はじまりの朝-3

嗚呼、なんて綺麗な肌なのでしょう?この透き通るように白く、キメ細かく整った赤ちゃんのような瑞々しい肌。腰の辺りまで伸びて全く弱みのない堂々として艶々とした銀髪。細く美しいライン、強調すべきところは出し惜しみなしの出血大サービスな身体。こんなに美しい女性を自分の好き放題に出来てしまうなんて、本当に夢のよう。いや、夢なのか。そうだ、夢だったら早く済ませてしまわないと。夢っていつもいいところで目が覚めてしまったりするよね。そんなことにはならないよう早々に頂いてしまいましょう。


はやる気持ちを抑えつつ、無防備なままの眠り姫へと手を伸ばす。

触れてみたい。あの綺麗な肌、髪の毛、それから、それから…。


しかし、あともう少しでわたしの手が彼女の髪に触れようという瞬間、突如にして異変が起きた。


ドクンっ……!


心臓が強く鼓動を打つ。全身を激しく揺らすほどの衝撃が走る。

な、何…?急に胸の辺りが熱くなる。苦しくて切なくて、押さえ切れないものがこみ上げてくる。


これってもしかして……こ、恋?そんな、わたしってばこの美人のおねえさんに恋をしてしまったと言うのかしらん?確かに綺麗な人だし、っていうかわたしの好みドストライクだし…。

一目惚れか…。別にそんな惚れっぽい女ではないんだけど……。

もしかしたら、これはきっとものすんごく運命的な出会いに違いないわ……って、夢なんだよね、これ。はぁ、残念。


でも、どうもおかしい。夢にしては妙にはっきりしすぎてるような…。

しかも、胸の苦しさがどんどん強くなってくる。というより気持ち悪い…な、なんだろうこれ…あ、やばい。やばいやばいやばいやばい…×endless。


「う”ぅっ!!」


こみ上げてくるこの感覚を一瞬で理解したわたしはまず口を押さえた。そして衝撃に備えるため身構える。次に周りを見回してみる。一斉発射による二次災害は最小限に抑えなければならない。一番安全にこれを処理できるところ…そうトイレ!トイレどこ?玄関のほうかな?玄関は…あの通路の方か。


「うぷっ!!」


やばい。こみ上げてきたものがもう喉付近まできて口内に少しずつじんわりと溢れてきている。焼けるような酸の感触を感じながら、わたしは慎重に、なおかつ素早く行動に出た。


右足がベッドから床へと降り立つ。ここで初めてベッドと床の距離が異様に高いことに気付く。

わたしの右足は、思い描いていた位置で床を捉える事が出来ず、体が大きくよろける。その予想外の振動がわたしに更なる衝動を煽り立てる。


楽になっちまえ。簡単なことさ。力を緩めてしまえばそれで終わりさ。


そんな声が頭の中を走っている。だめだ、負けちゃいけない。この口から解き放たれるグロい物体を、どこのどなたかも知らん美女の前で、どこのどなたのものかもわからん部屋でぶちまけるなんて人間としてダメだ。


っていうか待って。これ夢じゃない。この五感から得られる感覚、周りの空間の感触。現実だ。わたしは今紛れもなく現実と戦っているのだ。


傾いた体制をうまく立て直し、今度は左足をベッドから下ろそうとする。イケる。まだ余裕で間に合う。トイレまで楽勝。トイレで盛大にぶちまけてやる。昨日何食べたかなんて全く覚えていないけど、消化し切れなかった新鮮なアレやら珍味なコレやらを惜しみなく返品してやる。


左足を勢い良く動かしたときだった。その勢いは一瞬にして静止させられてしまった。何が起きたのかわからず振り返ると、わたしの左足は美女の左腕に掴まれて動けずにいた。


な、なんと!!?


しかも掴んだとうの本人はまだ眠ったまま。つまり不運にも夢見る美女が夢の中で何かを掴もうとして伸ばした手は、現実でわたしの左足を見事に掴んだのだ。


い、いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!


離して、離してください、わたしを、わたしをトイレに行かせて、いかせてくださぁい……。

どれだけ足を動かしても彼女の手は離れない。むしろ離そうとすると余計に握る力が強くなる。

両手は口を押さえてて使えない。えぇい!無理やり引き離しちゃるうぅぅ。

ムリに体の体制をひねったり激しく動いたりする。しかしびくともしない。


うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃあぁぁ(ジョジョ風に)


足をブンブン振ってやる。体も大きく揺れる。右足だけでバランスを保つのが難しい。と、いうより、既にバランスが保てていない……。


「あっ!!??」


とうとう右足を滑らせたわたし。体は、左足を掴まれたまま、わたしの体は床に大きく沈み込んだ。

左足だけが、ベッドで掴まれたまま優雅な格好をしている。


あっ……も、もう……限界…だ……。


「うおぉぅえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」


マーライオンに勝るとも劣らぬ綺麗な放物線を描きながら、どす黒い海が床へ広がっていく。

先ほどまで夢じゃなければという願いが一変し、夢であってほしいと、決して叶わぬ願いを何度も何度も乞い願った。


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