はじまりの昼-5
二人はまた顔を見合わせてわたしの発言の真意をお互いにどう解釈するべきかを相談し合っているようだった。
イケメン顔の上で愛くるしくぴょこぴょこと動くウサミミ。
こ、これで良いのか…良いのかもしれない。案外似合っているし…。
ここまでくるとほんとうにわたしのほうがおかしいんじゃないかと思えてしまう。
だめだ、冷静になるんだ。
ほらあの有名な孔子さんが言ってたわ。巧言令色、鮮なし仁って。つまり言葉巧みで着飾ってて誠実そうな人間に限ってろくなやつはいないって、たしかそんな感じの言葉だった気がする。
つまり彼等はウソをついているのだ。あんなウサミミ生やしたケメンホストなんて普通いるわけないじゃん!!騙されてはだめだ!あれはきっと、幼気で純真無垢(?)なわたしを騙そうと企む、コワいおにいさん達なんだわ。きっとこのまま二人に付いて行ったらわたしの純潔が汚されてしまう…。いや、ごめん、純潔はウソだけどさ…。
「アリスさん、もしかして俺らのこと忘れてるんですか?」
「昨日散々説明したじゃないっスか」
「…え?昨日?」
昨日か…またこのパターン…。一体昨日のわたしは何をしたというのだろう?
わたしだけが昨日の事をまったく覚えてないという蚊帳の外状態にも関らず、しかし自分が中心人物的立場に居るという矛盾状態に陥ってしまったわたしに、誰か手を差し伸べてはくれないだろうか…。
「ごめん…わたし酔っ払っちゃって昨日の事全然覚えてないんだ…昨日って、なにがあったの?」
昨日の事さえわかればわたしが何故、こんな知らない場所でこんな知らない人達に囲まれているのか、その理由も見えてくるはずだ。二人なら何か知っているみたいだし、そう思いわたしは二人から事情を聞きだすことにした。
「昨日はアリスさんの歓迎パーティーをしたんスよ」
金髪クンが楽しそうに答えた。
歓迎パーティー…とな?
「誰の?」
「アリスさんのに決まってるじゃないですか」
と、黒髪クンが冷静な口調で答える。でも口元が笑みを浮かべている。二人とも、なんだか嬉しそうだな…。
「ようやくアリスさんがここに来てくれたから、俺達も安心しましたよ。あ、何か俺達に出来ることがあれば何でも言ってください」
「全力でアリスさんをお助けするっスよ!!」
だめだ、全然話が見えてこない。
「ここに、って…ここってどこなの?」
「ここは歌舞伎町ですよ」
………はい?
「歌舞伎…町?って、あの新宿の…?」
「そうッス!!夜の繁華街、眠らない街、様々な人種がひしめき合い、有数の首領が集う、東洋一の歓楽街。それが歌舞伎町っス!!」
興奮気味に歌舞伎町を語りだした金髪クン。このあとも延々と一人で勝手に話し始めたので(何かスイッチでも入っちゃったかな?)わたしは彼を無視して黒髪クンの方に「で、なんでわたしは歌舞伎町に居るんだっけ?」と話を続ける事にした。
「それについてはワシの方から話そうかのぅ」
黒髪クンが口を開く前に、彼らの後方から話に乗っかるようにして声が割り込んできた。
わたしの真正面から届く声。その声の正体を、わたしは何となく悟った。だって、さっき聞いた声に似ていたから。
だから二人の後ろで透明な液体をダラダラと垂らしながらこちらに近づいてくる得体の知れない卵形の物体を再び目にしても、特に驚きはしなかった。
「でも…キモイ…」
「キモイって言うでないわっ!!」