はじまりの昼-4
「アリスさん…な、何泣いてるんスか?」
「ばかっ!俺達が無理やり引っ張ったから痛かったんだ。すみませんアリスさん…」
二人は慌てて繋いでいた手を離した。
「あ、いや、大丈夫。痛くないよ。それよりも…」
ちょっと勿体無かったなぁなんて思ったけれどまあいいや。
わたしは二人の前でほころんでいた顔を、真面目な表情へと一変させる。
二人も、わたしの真剣な眼差しにただならぬ気配を感じて、顔を見合わせて頷いて、わたしに真剣な表情を向けてみせた。
「二人とも…」
いや、実際そんな改まって聞くことでもないのだ。
「どうしてわたしの名前知ってるの?」って聞きたかっただけだ。なんのひねりもない。
ただ、一呼吸置いたわたしの口からは、わたしの意志とは全く別の言葉が生まれた。
「二人とも…なんでウサミミ付けてんの……?」
触れていいのかどうかを真剣に悩む前に、口は動いた。考えるよりも喋る方が早い。そうだ、そういう性格の人間というのは結構多くて、そしてわたしこそがそういう性格なのだ。
しばしの沈黙。三人の間に流れ始めるこの空気は何だ!?や、やっぱり触れてはならぬところだったの?でも気になるに決まってるじゃないか。あんなに堂々とウサミミなんて付けてたら、誰だって聞きたくなるに決まっている。
二人は何だか不思議そうにお互いの顔を見合わせていた。そしてわたしの方に再び向き直る。
「ウサミミって…これ、何かおかしいですか?」
「え、アリスさん、今のもしかしてギャグっスか?」
いやいやいやいやいや…。おかしいですかじゃないから。おかしいから。ギャグじゃないし。あんた達のほうがギャグですか?って聞きたくなるわ。
「いや…ウサミミって、だって…普通はつけないと思うのですが…」
「つけるっていうか…」
「これ、生えてますし」
よく見れば、二人のウサミミは勝手にぴょこぴょこ動いていた。
ちょ、ちょ、えぇっ!?
わたしは声も出ないまま、大口を開けて驚いた表情のまま固まってしまっていた。
「別に変じゃないっスよね」
「うさ子さんだって生えてますし。ぼく等ウサギはこれが普通なんですよ」
た、確かにうさ子さんも生えていた。あれは絶対反則だ。しかし、う、ウサギって…。
「に、人間じゃん…」