おまけ⑩1日限定デート-シルク編-
「どこ行くんですか?」
ルナちゃんが不思議そうに尋ねてきた。
「僕たちの思い出を巡ろうと思ってね。たしか、この辺りだったはず。」
僕は2年棟と講堂の間で止まる。
「この辺に何かあるんですか?」
「僕たちが初めて会った場所だよ。」
入学式のとき、ルナちゃんは迷子になっていた。
そのときの反応がおもしろくて、気になったんだっけ…
「本当にこんなところで迷子になったんですか?恥ずかしすぎる…」
ルナちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
かわいいな。
「入学初日だったら、仕方がないんじゃない?」
ルナちゃんは顔を上げてキョロキョロしている。
本当にこんなところで迷子になったことが、信じられないようだった。
「もう迷子にならないで教室に行けそう?」
僕はルナちゃんの顔をのぞき込む。
「だ、大丈夫です!目を瞑っても行けますよ。」
ルナちゃんは焦っている。
少しは意識してくれてるのかな?
そうだったら、嬉しいな。
「ほんとかな?」
僕はルナちゃんから少し離れる。
「シルク先輩。私、ここで怒られたことあるんですけど、覚えていますか?」
ルナちゃんは懐かしそうに話している。
「え、僕に?」
ルナちゃんに対して怒るなんて…
そんなことするわけないのに。
「私、最初からシルク先輩にタメ口で話してて、そうしたら『僕、先輩なんだけど?』って注意されました。」
「あぁ、あったね…」
過去の僕を思いっきり殴りたい気分…
「今はタメ口でもいいんだよ?」
むしろ、タメ口にしてほしいな。
「え、本当ですか?でも、シルク先輩のことは尊敬しているんで、敬いの気持ちを込めて敬語のままでいきたいです。」
ルナちゃんはニコッと笑った。
その笑顔がかわいく、言葉が嬉しい…
本当にこの子は、僕を喜ばせるのが上手すぎる。
「そう…」
顔が熱い…
「そろそろ次行こっか。」
今のだらしない顔をルナちゃんに見せたくなくて、僕は背を向けて歩き出す。
「今度はどこですか?」
ルナちゃんは後ろからついてきている。
「僕との思い出を巡るんだよ?思い出せばわかるはず。」
少し風にあたって歩いていると、顔の熱さもなくなっていった。
「この辺りだったかな。」
僕たちは男子寮の裏手側にやってきた。
「こんなところで会いましたっけ?」
ルナちゃんは不思議そうにしている。
「2回目の迷子。」
僕が一言で教えると、すぐに思い出したようだった。
「あれもこんな近くだったんですね…」
ルナちゃんは少しシュンとしている。
「そうだよ。意外と惜しいところで迷子になってるんだよね。」
「その節はお世話になりました…」
ルナちゃんは複雑そうな顔をした。
「いーえ。普通は1日で2回も迷子になるなんて思わないよ。まぁでも、それでルナちゃんのこと好きになったんだけどね。」
ルナちゃんのおもしろさとかわいさに気づいた日。
この日のことは、一生忘れないと思う。
「迷子になってくれてありがとう。」
こんなこと言うの、ちょっと変かな?
たしか、あのとき…
「そういえば、地図の見方を教えてないね。」
2回目の迷子のときは、地図を持っていた。
だけど、見方がわからなくて迷子になっていた。
それで、教える約束をしたんだけど、ルナちゃんが忙しそうにしていて、結局教えていなかった。
「今からでも教えようか?」
「多分、もう使わないので大丈夫です!」
ルナちゃんははっきりと断ってくる。
「ほんと?」
でも、また迷子になったら…
「今はツバサがいるので、何かあったらいつでも助けてもらえます。」
ルナちゃんはニコッと笑った。
「そうだよね…」
今はツバサがいるもんね…
僕はもう必要ないのか…
「さて、そろそろ次行こうか。」
僕は無理やり笑って、歩き出す。
僕たちは寮から校舎に行くまでの道についた。
「こんなところで会いましたっけ?てか、一緒に登校したときのですか?」
本当にあんまり覚えてないんだな…
「違うよ。クララくんって言えば、思い出す?」
先程同様に一言教えてあげると、ルナちゃんは思い出したようだった。
「あれが3回目でしたっけ?」
「一応、女子寮の騒動とか廊下とかでは会っているけど、思い出的にはここかな。」
僕が音を聞いて気になったところに行くと、いつもルナちゃんがいて、びっくりしたな。
「ねぇ、本当に偶然だったと思う?」
ルナちゃんは不思議そうにしている。
「ルナちゃんに言ってないことっていうか…まぁ、気づいてるとは思うんだけど。」
一応ちゃんと伝えておかないとね…
「僕のこれね、半径3kmくらいの音が全部聞こえるんだ。」
「もしかして、ツバサと初めて会った時の会話って聞いてましたか?」
クララくんじゃなくて、ツバサ?
「まさか。聞いてないよ。」
ルナちゃんは疑いの目を向けてくる。
「意識的に聞こうとしなければ、何言ってるかわからないんだ。プライベートなこととかあるからね。」
ルナちゃんはほっとした顔をする。
そんなに聞かれたらいけないことを話してたのか…
「さて、そろそろ次行こうか。」
僕はルナちゃんの手をとって、歩き出す。
今だけは、僕のルナちゃんでいてね。
「生徒会棟ですか?」
ルナちゃんが自信満々に尋ねてきた。
「さすがにわかった?」
「あのときもこうやって、連れて行かれましたから。」
あのときのルナちゃん、すごい戸惑ってたな。
懐かしい…
僕たちは生徒会棟の自室にやってきた。
ルナちゃんの好きな紅茶あるかな?
4月下旬くらいにみんなで来たときは、これを選んでたかな?
「はい。ダージリンティーだけど、好きかな?」
「ありがとうございます。紅茶はなんでも好きです!」
ルナちゃんはニコッと笑う。
「良かった。」
僕はルナちゃんの横に座る。
紅茶を1口飲んで、自分を落ち着かせる。
そろそろ言わないといけないよね…
「ルナちゃん、好きだよ。」
僕はあのときみたいにルナちゃんの肩に頭をのせる。
「ルナちゃんが僕の初めて好きになった女の子。」
まさか、僕が女の子を好きになる日が来るとは思わなかったよ。
「たくさんの思い出をありがとう。」
まだ離れたくないな…
「最後にお願いしてもいいかな?」
「なんですか?」
ルナちゃんの声は落ち着いていた。
もっとドキドキしてほしいのに…
「ギュッとしてほしい…」
僕は離れて、両手を前に出す。
「ルール的にアウトなのでは?」
そうだけど…
「ダメ?」
ルナちゃんは葛藤しているようだった。
もう一押しかな?
「ほら、こっちおいで。」
ルナちゃんは少しずつ近づいてきてくれた。
僕はあまり密着しないように抱きしめる。
「ツバサには内緒ね。」
ツバサ、約束破ってごめんね。
「ありがとう。そろそろ戻ろうか。」
僕はルナちゃんから離れ、立ち上がる。
素敵な思い出をありがとう。
ルナちゃんの中でもそうなったら、嬉しいな。




