『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品
コスモスの花のように
「綾香、俺、メキシコに行こうと思ってる。名門チームから誘われているんだ」
「そう……おめでとう修斗。でも高校はどうするの?」
「中退するつもり」
ワールドクラスと呼ばれる選手は十代の頃からプロとして活躍している。今年で十七歳になる俺は世界基準でみれば決して若くはない。
「そっか。良いんじゃない。アンタいずれ世界最高の舞台で活躍したいって英語もスペイン語も頑張ってたもんね。応援してる」
「ありがとう綾香、俺絶対に活躍してみせるよ」
『期待の十七歳、卒業を待たずにメキシコの名門へ』
「綾香、俺、スペインに行くことになった。憧れのリーガだぜ? 夢みたいだよ」
「おめでとう修斗。まあ、リーガMXで日本人初の得点王なんだから当然よ。しかもスペイン語ペラペラだから言葉の壁も無いし」
単身メキシコに渡って三年目でようやく結果を出した俺は、少年時代から憧れだったスペインの名門チームから巨額のオファーを受けた。
「それで……さ。俺と一緒にスペインに来てくれないか? メキシコよりも治安は良いし、チームから豪邸と日本人通訳まで付けてもらえるから言葉がわからなくても大丈夫だし……」
「ごめんなさい。大学での研究があるから無理。アンタに叶えたい夢があるように私にもあるの」
はは……一世一代のプロポーズだったんだけど駄目だったか。
『日本人初のリーガMX得点王が、スペインの名門へ電撃移籍』
「綾香、俺、イタリアへ行こうと思う。このままレンタルでたらい回しにされるのは耐えられない」
外国人枠の問題でもう二年以上レンタル移籍を繰り返している。いくら結果を出しても結局使われるのは地元の選手だ。
「ふふ、アンタってコスモスみたいね」
「はあ? どういう意味だよ」
「さあね、自分で調べてみたら」
『不遇の天才FW、出場機会を求めてイタリアセリエAへの移籍を決断。移籍金はセリエA史上最高額を更新』
「綾香、俺……日本へ戻ろうと思う」
「アンタ正気? バロンドール最有力候補でセリエAの得点王が何が悲しくて全盛期に日本へ戻ってくるのよ」
「俺さ、気付いたんだよ。一番欲しい物はバロンドールでも世界最高のサッカー選手という称号でもない。綾香、お前だっていうことに」
「あら、ずいぶん時間がかかったじゃない。私はずっと前からそうだったのにね」
『サッカー界の至宝が全盛期にJリーグへ』
コスモスはメキシコからスペインへ渡り、イタリアを経由して日本へ持ち込まれたといわれている。