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6ページ目

 ノートを見たあの日から俺は栞のことしか考えていなかった。それほどまでにあの記憶は俺の脳にこびりついていて離れない。夏休み、どこか行くわけでもなく家の中で過ごしていた日々は終わり、早くも二学期が始まった。


 始業式はあっという間に終わりいつも通り図書室にいた。しかし本を読むというわけではなく、少し栞のあのノートに対して考えていた。


 『死にたくない』という感情はおそらく死が見えている人に湧いてくるのが普通だ。もしくは日常的に生や死について強く考えて思考の闇に飲まれたヤツだろう。


 思春期で、将来を考えさせられるとは言えど、死ぬ直前や死んだ後のことまで考える輩はそういないはず。なら必然的に前者の可能性が挙げられる。


 上手くまとまりきらない思考に嫌気がさし、髪の毛をガシガシとかく。今まで人が死んだり生死に関する小説は数えきれないほど読んできた。それらでは生きることは素晴らしいだの死んだら何も残らないだの綺麗事や御託を並べてるように感じる。


 そんな生きる意味について他人が綴った書物なんて、俺からしたら痛いポエムにしかならない。そもそも死の実感さえ無い俺が『死にたくない』と心から思っている人の心を予想するなんて無理な話だ。


 高校生の死に関する意識なんて曖昧模糊(あいまいもこ)であり、身近な人が死んだ経験なんて小学生の頃のお爺ちゃんの葬式のみ。割り切ってしまった数年前の感覚なんてなんの当てにもならない。


 結局、何の結論も判決も出来ずに脳内議論は一つの声で閉幕となった。


「おはよ。久しぶり」


「あぁ、はい、これ。借りてた本」


「はーい」


 いつものように栞は俺の目の前に座る。そう言えば初めて会った頃はもう一つ隣に座ってたような気がする。


 栞は本をカバンにしまい、新しい本を取り出した。その本には白い本カバーがついていて青い栞もセットになっていた。


「使ってくれてるんだ。よかったよ」


「うん、めっちゃ丁寧に使わせてもらってる。この星の栞、綺麗だよね。いつか満天の星空見てみたくない?」


 和紙を眺めながら問いかける。星空か、ロマンチックではあるし見たら圧巻なのだろう。けどああ言うのは写真と何が違うのかいまいち分からない。


 今日配られた修学旅行のパンフレットでも綺麗だ、と感服できるのだからそれで良いだろうに。


「じゃあ修学旅行で、北海道とか選んだらどうだ?星を見るコースとかあった気がするぞ」


「修学旅行か……私、お金ないし修学旅行行かないんだ」


 急に声のトーンを落とし、諦めたような顔で笑う。


「え?そんなこと出来るのか?」


 率直な疑問だった。修学旅行も校外学習、遊び要素が強いとは言え学習は学習なのだ。行かないなんて選択肢が選べるのだろうか。


「うん、家の資金事情は先生にも言ってあるし、無理してこなくても良いって言われたから」


「そうか……」


 資金事情、それは高校生になって頼り身が無いことを指してるのだろう。


 1番安いコースでも十数万ほどかかったはずだ。高校生1人で簡単に貯められる金額じゃないし、仮に貯められたとして気軽に使って良い金額じゃない。


「バイトは頑張ってるんだけどね。他にも一応、社会保障とかでちょこっと入ってるから無理じゃないんだけど…私、友達少ないし」


 栞のたまに見える無理した笑顔だ。瞳の奥に見え隠れする涙が、また、俺の無力さに拍車をかける。一体俺は何度栞を悲しませたら気が済むのだろう。


 そんな悲しい笑顔を見るたびに胸が張り裂けそうになる。


「まぁ、無理して行くようなもんでもないしな。俺だって友達いないし。と言うかバイトって何やってんだ?」


 出来るだけ当たり障りのないような話にそらそうと問う。


「昔は孤児院に居たって話したでしょ?そこで働かせてもらってるんだ。あんまり良くは思われてないんだけどね」


「手伝いしてんのに?」


 また無意識に質問を繰り返す。栞の目は暗いままだ。それと共鳴するかのように太陽の光が雲に覆われる。レンズ越しに栞と視線を重ねあった。


 いつもより小さな声で栞は俺の質問に答えてくれる。そうやって栞は弱い自分を見せてくれて、俺も自分の弱さを自覚する。


「うん……孤児院側も税金だからね。あんまり余裕ないんだよ。それなのに一回出てった人が帰ってこられてもね」


「そう言うもんか……じゃあ2人で他のところでバイトするか?」


 いつもなら喉に詰まりそうな言葉がすんなりと声に出る。栞は少し驚いたようにこちらを見つめてきた。


「あ、いや、今のは別に他意とかはなくてさ、1人より2人の方が色々と始めやすかったりするじゃん?」


 見つめてくる栞とさっき言った自分の言葉が恥ずかしくなってはぐらかす。


「ふふ、ありがと、そうやって誘ってくれるの嬉しい。でもごめんね、私さ、体力無さすぎて大体のバイト出来ないんだよね」


 にこりと笑ってこちらを見つめる。さっきより明るくなった顔。やはりこっちの顔の方が似合ってる。


「そうか、なら良いんだ」


 本の匂いだけが俺たちを温かく包み込んでいる。踏み込みすぎたら一歩下がって、俺たちの距離感を確かめるように会話する。


 そんな、作り物の関係だったとしても、それが居心地が良かった。ふと雨の匂いを感じ窓の外に目をやる。


「うわ、雨降ってきたし」


「ほんとだ、私、傘持ってきてない……」


「俺もだ。天気予報では晴れだったから通雨(とおりあめ)だといいんだが」


 擬音語で表現するならパラパラと言った小雨が天から降り注ぐ。西の方は分厚い雲が空を覆っている。もうすぐ土砂降(どしゃぶ)りになってもおかしくないな。


「そう言えば、今川 夜叉(やしゃ)さんって冷さんより若いらしいよ」


 窓の方を見ながら栞が思い出したように呟く。さも俺が夜叉さんを知っているような口ぶりだ。まあ、知ってるんだけど。


 有名小説家と言われれば真っ先に名の挙がる2人だし。


「俺の父さんはもう長い間、執筆活動してるからな。時期的には夜叉さんも新人作家って言われてもおかしくないか」


「そっか、デビュー作からまだ一年経ってないんだっけ?」


「だな。それで、何歳なんだ?」


「えっとね、37歳だったかな?子供もいるし」


 しれっと新しい情報が付け加えられている。子供がいる執筆家は別に珍しくない。大体の作者さんはそこまで情報を開示してない方が多いけど。


「子供な……子供はあんまり好きじゃないな」


「そんな感じするね。ふっ、ガキが……って言ってそう」


「栞は俺を何だと思ってるんだよ」


 青い栞を食指でなぞりながら栞は似てないモノマネを続けていた。栞は目つきを悪くし足を組む。


「はいはい、そうですね」


「俺、そんなめんどくさそうにしてないだろ」


 『はいはい』が口癖なのは認めるが、栞はそれに加えて背もたれに体重を乗せながら明後日の方向を向いている。


「ちょっと誇張してるけどそんな感じだよ?大抵のことはぶっきらぼうにする感じ」


 俺そんななのか……と傷心しつつ、これなら友達ができないのも頷ける、と納得もする。


 (はた)から見たら敵対行為以外の何者でも無い。真似以前にイラっとくる。


「大抵なことには無関心なだけだ。でも話しかけられたら相手するだけ善良的だろ?」


「その言葉が善良じゃないよ」


「栞の言う通りだな」


 雨音が大きくなり、笑いながら窓の外に再び目をやる。その雨は滝と言っても過言ではないほどの雨粒が地面に叩きつけられていた。


「てか雨やばいな」


 栞は嫌な予感がしたのかどこからかスッとスマホを取り出し、いじりだす。


「うわ、電車止まってるじゃん!帰れないよ!」


 栞は電車運転見合わせの画面が映ったスマホを見せてくる。俺たちがいつも使っている地下鉄が水没気味らしい。


「とりあえず2時間は運休だって」


「マジかよ」


 傘のない俺たちは歩きで帰ることも出来ない。タクシーぐらいでしか本当に帰ることができ無さそうだ。


「タクシーって呼べるか?」


「無理だよ。アプリ入れてないし。お金も……あんまり使いたくないかな」


「だよな……」


 雨雲情報を調べるが夜までは晴れそうになかった。急な秋雨(あきさめ)は前線の影響だと習った記憶がある。置き傘ぐらいしとけばよかった。


 会話がなくなるとうるさい雨音だけが鼓膜にに音を伝える。窓ガラスには景色を埋め尽くすように水が流れている。


「どうしよっか……?」


「一回、職員室行ってみるか?」


「意味あるかな?先生に送ってもらうとか?」


 考えられる案はどれも現実味が無い。晴れていても薄暗くなり始める頃。動くなら出来るだけ早い方がいい。


 何か無いかと考えを巡らせるが、案は既に出て来ているもので手詰まり。


「うーん、やっぱり先生に頼るしかないか」


「冷さんは?!」


 栞がバッと立ち上がる。その手があったか。早速カバンからスマホを取り出し父さんに電話をかける。


 仕事中かもしれないが父さんは6割程は家にいる。最後の頼みの綱が賭けなのは心許ないがダメ元では済まされない。なんて考えていると4コール目で電話のコールが切れる。


「父さん、俺だけど、今どこ?」


『今は会社で新作の打ち合わせの途中だけどどうかしたか?』


「電車止まっててさ、仕事終わりに家まで送ってくれたりしない?」


『まあ大丈夫だけど、遅くなるぞ。夕立のための傘ぐらい用意しとけよ』


 打ち合わせ中に電話したのがよくなかったのか少し機嫌が悪そうだ。これ以上逆撫ですべきでは無いし長引かせるのも悪い。


「ごめん、頼むよ。あと栞も送ってやって欲しいんだけど」


『お願いが多いな。分かったよ。早くても7時ぐらいになるからな』


「ありがとう」


 電話を切るとすぐに栞が質問をしてくる。不安なのだろう。


「冷さんなんて?」


「大丈夫だって。ちょっと遠くにいるから7時回るし、それだけ先生に伝えに行こう」


 俺の言葉が合図かのように薄暗い図書室が白い光に照らされる。その数秒後、ゴロゴロと地面が揺れる。


「雷か」


 雨は予報通り止む(きざ)しは無く、雷雲が雷と共に雨を降らせる。運動部は雨が降り出した時点で解散したのか学校の中で声はしない。


「大丈夫だよね……?」


「雷ぐらいで死んだりしないだろ」


「そうなんだど」


 何か言いたそうにしながら不安を押し殺すように席を立ち、図書室の奥の方へ向かった。


「どうしたんだ?」


「雷ってあんまり得意じゃないの。逃げ出すほどじゃないんだけどね」


 なんて言いながら隅っこに座る。それは逃げ出すとは言わないのか。再びピカッと辺りが光る。それと同時に栞も体育座りで体を縮めた。さっきより遠いのかまだ音はしない。


 雷が苦手なんて可愛らしいところもあるらしい。俺は小刻みに震える栞を心の中でからかいながら隣に腰を下ろす。本棚を背もたれに座ると、服同士が密着する。すると栞がメガネの奥から見上げてきた。


「氷室くん……?」


「近かったか?すまん」


「いやっ、近くにいて、欲しい、かも……」


「かもって何だよ」


 笑いながら少し浮かした腰を下ろす。衣擦(きぬず)れの音が2人の距離を感じさせ、触れ合う肩に向けられた意識が鼓動を早くした。


「私、弱いよね」


 雨のようにポツリと言葉が漏れた。悲観的な彼女は、寂しそうで思い詰めた口調は重々しい。


「何が?雷怖い子なんていくらでもいるだろ。久遠もお化け屋敷入れないし」


「うんん、雷だけじゃなくて、いろいろ、心も、体も」


「気のせいだろ。俺だってメンタルはフニャフニャだし」


 俺と栞は目を合わせず、斜め上の天井を見ながら言葉を交わす。栞に落ち込んでいるような空気はしない。ただ少し、どこか思い詰めたような、そんな空気がした。


「氷室くんはすぐへこむよね」


「そこは否定して欲しかったかな」


「そう言うところ」


「はいはい」


 小さく笑う。もう雨音は耳に入らない。それぐらい、暖かな世界に入り込んでいた。早くなる心臓とは裏腹に心は落ち着いていて、弱っている栞がどうにも気になる。


「あのさ、栞、10月の3日さ、俺たちでどっか行かね?」


「10月3日って……」


「どうせ暇だろ?」


 10月3日から7日は修学旅行。俺の提案が意味することを栞は理解したらしい。少し間をあけ、栞は質問で返す。もちろんそれへの返事も決まっている。


「いいの?」


「言っただろ。俺も友達少ないんだ。できれば安いとこにさ、2人で遊びに行こう」


「でっ、デートってこと?」


 泣き出しそうな鼻声に俺は思わず栞の方を向く。栞は鼻と目尻を赤くして鼻を(すす)った。


「まぁ、そうなるかもな……」


 目を逸らすように再び天井を見上げる。返事は無かった。ただ、俺の左肩にそっと栞の頭が乗せられた。


「おい……」


「ふふっ、どこ行こっか、水族館、映画館、ウサギも見たいな……」


 頭を俺に預けたまま、栞は鼻声で続けた。


「星も見てみたいし、海も良いよね……」


「どこでも良いよ」


 泣くのを我慢するかのように栞は唇をグッと(つむ)んだ。栞にしか分からない、1人の寂しさがあったのだろう。


 親も、頼れる大人も居ない。生きていくにはお金も自分で稼がなきゃいけない。そんな俺より数段大人の世界で生きてる栞がカッコよく見えた。


「本当に……ありがとっ」


 栞はそう言って俺の肩に頭を乗せて目を閉じた。白い肌と高い鼻筋、黒光りするまつ毛に視線が吸い寄せられる。


 薄ピンクの可愛く膨らんだ唇はどこか子供らしく、赤くなった目の下は幼さを感じさせる。透明な澄んだ涙が、頬を滑り一滴床に落ちる。


 これ以上凝視したら自我を保てる自信がないので、俺も目を閉じる。目を閉じたら閉じたで甘いシャンプーの匂いとスーッ、スーッと言う寝息に意識を持っていかれる。


 (ほの)かな匂いや音に微睡(まどろ)む意識は、俺をゆっくりと眠りに(いざな)った。




−ブゥゥンー


 ポケットに入れていたスマホが震え、目が覚める。時間は6時50分。父さんからのメールだった。


 寝ている間に崩れたのか、栞も俺も床に寝転がっていた。栞の肩を優しく揺らす。窓の外は暗く雲が覆っていたが、雨はもう止んでいた。


「ん……あれ、寝ちゃってた?おはよ。氷室くん」


「何が寝ちゃってた?だ、寝る気満々だっただろ」


 目瞑ってたじゃん。父さんからのメールはもう少しかかりそうと言う伝言だが、下校時間はとうに過ぎている。


「晴れてるじゃん、どうする?電車はまだ止まってるみたいだけど…」


「俺は任せるぞ。もうこんな時間だし栞に合わせるよ」


 ガラガラ−


 栞が返事をする前にドアが開けられる。見回りのおじさんだろうか?先生では無さそうだ。


「君たち、いつまで学校に残っているんだ。もうとっくに下校時間過ぎてるぞ。雨だったから指導はしないけど早く帰りなさい」


「すいません。すぐ出ます」


 おじさんは不機嫌そうに窓の鍵が閉まっているかを確かめながら俺たちを注意した。俺たちはそそくさと学校を後にする。


 外に出ると秋特有の乾いた空気と、雨上がりの湿った空気が入り混じった生ぬるい空気が鼻についた。


 薄い雲が空を覆っているからか、もう暗い。幻想的に光る街灯とそれを水面に映す水たまりが道を照らす。


「とりあえず歩く?」


「だな」


 短く返事し、ゆっくりと歩き出した。左側にチラリと見える月明かりを反射した栞の髪が流れながら舞う。


「本当にいいの?修学旅行、行かなくて」


「良いんだよ。それに、栞といた方が楽しいしさ」


 栞に笑いかけると栞もまた、笑顔を返してくれた。にっこりと笑った栞が記憶に焼きつく。


「よくそんな歯の浮くこと恥ずかしげも無く言えるよね」


「元ポエマーだからな」


「なにそれ」


 くすりと笑いながら、隣り合って歩く。2人の時間が心地よくて、今はただ、もう少し一緒にいたかった。


「しりとりでもしないか?」


「急に?いいけど、じゃあ、雨!」


「め……メール」


 早速先手を取ってきたので俺も返す。2人で人気(ひとけ)のない道を歩きながらラリーを続ける。


「ルーマニア」


「秋」


 大して面白くないしりとりも、栞となら笑顔で出来た。そんな恥ずかしいことを考えながら大通りへとでる。さっきまで大雨だったからか人っこ1人居ない。静かな夜の街に2人。


「綺麗……」


 感嘆の声を漏らす栞に形容詞じゃねぇかと心の中でツッコミながら、栞の方に目をやると、空を見上げていた。俺もその視線を追う。その先には、(おぼろ)げな白い虹が薄暗い夜の海に架かっていた。


 確か夜に架かる虹のことを月虹と呼ぶらしい。俺たちは何も言わずに虹を眺めていた。


 歩道で立ち止まっていると車にクラクションを鳴らされる。振り返ると父さんが車の中から手招きしている姿があった。スマホの位置情報か何かで見つけたのだろう。


「腹減ってんだ。さっさと帰るぞ」


 俺は車に乗り込む。栞は何か言いたそうな栞と目が合う。流石にこの時間に女の子1人で帰らせるわけにはいかんよな。


「家まで送るからさ、早く乗れ」


「冷さん、お腹すいたって……」


 父さんのさっきの言葉に遠慮しているらしい。そんなの気にしなくて良いのに。


「栞ちゃん、気にしなくていいよ。どうせ通り道だし」


「てことだ。気にしなくて良いんだよ」


 栞を後部座席に乗らせ、俺は助手席に移動した。父さんは黙々と車を走らせる。大体の場所はこの前、栞の家に行ったときに伝えてあった。


「夜の虹って初めて見た!」


「確かに……俺も初めてだな」


 父さんがいるからかいつもよりテンションが高い栞に違和感を覚える。初めて遊園地に連れて行ってもらった子供のように目を輝かせていた。


「知ってるか?月虹を見た人は幸せになるって言われてるんだぞー」


 流石有名小説家と言うべきか。ロマンチックな補足説明にどこかセンチメンタルな気分になる。


「なんか良いよね、そう言うの。幸せか……」


 栞の顔は見えないが声色からして喜んでいるのがうかがえる。そうしてるうちに栞の家に到着した。ドアを開け、ぴょんと栞が飛び出る。


「カバン忘れてる。確認ぐらいしろよ」


「良かったーありがと。冷さんもありがとうございました。氷室くん!またいつか!」


 栞がブンブンと手を振る。俺も小さく手を振りかえす。角を曲がるとすぐに見えなくなったが今日1日の栞はすぐに思い出せた。1番印象に残ってるのはやはり肩にもたれかかってきた栞か。


「かわいかったな…」


 父さんにも聞こえない小さな声で自然に漏れた本音。車窓に映る自分の赤い顔を見て、なお一層顔を赤くなる。

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