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極上

「グフ、フフフ……! ねえ君達、もう終わりかなぁ……?」

「な……なかなか手強いですの……!」

「ときわお姉様、大丈夫ですか……そのお怪我……!」

「たかが左腕を折られただけですの……。心配ないですわ」


 とはいえ、戦況は芳しくない。

 相手は元横綱。ただの成人女性と女子高生が到底敵う相手ではない。


 ……けれど。

 どんなに絶望的でも、退くつもりはない。

 ここでわたくし達が負ければ、あの二人の店が……!


「お姉様!!」

「……え?」


 妹のせつなの声で我に返ると……頭上に巨大な影が迫っていた。


「……っっっ!!」

「すり潰してあげるよぉ!」


 全身に激痛が走り、自分の骨の悲鳴が聞こえる。ようやく、のしかかられたのだと気づいた。


 声が出ない。息ができない。身体が……崩れていく。


「ぐわぁぁぁあぁぁあっ!」


 ものすごい速度で、視界が晴れた。解放されたのだ。


「どうですか、これが神経毒を塗り込んだ矢のお味ですよ……!」


 せつなに抱き起こされ、空気をめいっぱい吸い込む。


「お姉様、ご無事ですか!?」

「ぐっ、うううぅふぅうぅ……! ……っはっ、はぁはぁ……。このチャンス、逃しませんわ……。……これが、最終便ですの!」

「はい!」


 胸が溶けそうな熱を抱え、手足が無くなったかのような痺れを覚え……それでもなお、この一撃に全てを込める。


 瓶を握りしめ、妹と二人で飛び上がる。狙うは、奴の頭部……その頂点……!


「ときわ式!  根嬢爆裂打 こんじょうばくれつだ!」

「たああああぁっ!」


 わたくし達姉妹が渾身の力で打ち込んだ二本の瓶は、見事狙い通りの箇所に命中した。


「かっ……ア……。は……はは……。夜来よるちゃん、こうちゃん……。僕が必ず、骨が折れるくらいに強く、強くっ! 抱きしめてあげるからねぇぇぇェェェっ!」


 酷い断末魔を上げて、奴は爆発四散した。


「これで……二人に危害が及ぶことはありませんの……」

「……はい」


 この身が砕けようと、大切な二人を守れたのだ。

 これでもう、未練は……。



 ◆



 ハローご機嫌いかがうるわっしゅー?


 私が今日やってきたのは、今巷で噂のパン屋。


「いい香りねぇ~」


 なんとこのお店、元双子ユニットの「長泉夜来ながいずみよる」と「長泉香ながいずみこう」の二人が芸能界引退後に開いたものなのだ。


 私がトングをカチカチと鳴らしながら品定めをしていると、二人組の女性が入店してきた……のだが、背が高い方の女性は頭に包帯を巻いており、顔や服もボロボロ。傷だらけの状態で背の低い方の……少女に支えられている。支えている少女も無傷とはいえない状態で、とてもパンを買いに来るような風貌ではなかった。


「い、いらっしゃいませ……」


 レジの横に立っている長泉香ながいずみこうも、少し戸惑っているようだ。

 私達がどうしたものかと考えているうちに、二人組はあんぱん二つを買って帰っていった。



 ◆



「随分買っちゃったわね……。食べきれるかしら」


 クリームパン、食パン、ごまのラスク、オムレツパン、焼きそばパン、メロンパン。今日の夕食と明日の朝食と……もしかしたら昼食にまで食い込むかもしれない程の量を買ってしまった。けど後悔はしていない。食べるのが楽しみだ。


「……?」


 前方の、ベンチ。川が見えるそこに、先ほどの二人組が座っていた。


「お姉様…………」


 少女が静かに呟いた。

 彼女の視線の先では、怪我だらけの女性があんぱんを掴んだままうつむいていた。


 食事中にうたた寝……。よっぽど眠たかったのかと思って彼女らの横を通り過ぎようとしたその時、嫌な考えが頭をよぎった。


「……」




 どういう理由かは分からない。けれど「彼女」は、どうしても最後にあのパン屋を訪れたかったのかもしれない。

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