夢想家の憂鬱
無限に湧き出る夢を完全に取り去ることは出来ない。取っても取っても湧いてくる思考。それが夢想家の悩みであった。
それはおかしな話だが、実際真逆であった。いつかこの夢が他の人を救うと信じて夢を見続ける。しかし思考はいつかの思想を望んでいた。それならばいっそ思考を停止してしまったほうが良い。そう何度も考えた、ということを思う。
果てない思考の先に何があるか。きっと何もありはしないのだろう。しかし思考することこそが生きる意味であった。それを放棄して廃人になる者も数多いる。しかし彼はそのような体たらくは許せなかったのだ。
絶対に終点に辿り着く、その思いだけが彼の脳に刺青のように染み付き、彼を動かしている。しかしその無限の時間は理解せずともどうにも苦しみを呈するようであった。
日に日につらい、苦しいという安直で愚かな考えが脳を支配するのを彼は感じた。それこそが彼の死を意味するのであった。思考を止めること、それこそが夢想家の死なのだ。
ならば死を迎えた仲間はどうなるのか。必死に考えを巡らせた。答えが出ることはなかった。簡単な話だ。出たと思った答えは直ぐに脳から吸い出されていく。それに気づかずに思考し続けることがどんなに苦しいことか、知らずに皆死んでいく。
それがわかった瞬間、彼は全てを悟った。
「そうか、愚かだったのは──」
その最後の思考を皮切りに、彼のその膨大な思考と共に彼の脳は液体のように彼の頭蓋から次々脱出していった。彼はそれを実感しながらも何も出来なかった。いや、何もしなかったのだ。
いつしか彼に残ったものは抜け殻となった肉体だけとなった。