第25話 エピローグ・黒い檻の中で
「いやあ、失敗したなぁ。大失敗だ、はっはっは」
嘘が許されない場所で、「クロ」と名乗った男が、独り呟く。
魔王の討伐が早まったことで、運命は大きく変わる。
どう変わるのか⋯⋯彼にはある程度理解できた。
死ぬはずだった父から直接指導を受け、それまで以上の実力を手にし、自分の前に現れる男、「剣神」エリウス。
同じく、魔王軍の手によって死ぬはずだった両親の愛情を一身に受け、生来持つ優しさ、清らかさに濁りが混ざることなく、若年からそのスキルにふさわしい人物へと成長する、「聖女」レナ。
そんな二人の成長に引っ張られるように、それまで以上の成長を見せ、世の理から外れる男に目を掛けられることによって、己を高めることになる「槍王」ファラン。
失われるはずだった、竜信仰の村。
運命が変化し、古龍から与えられた課題を乗り越えることにより、さらなる力を獲得することになる「真竜眼」のニック。
そして──。
「うーん。完全に裏目にでちゃったね」
だが、そのことに、一切の後悔はない。
「シロ⋯⋯君はね、ボクのことを少しだけ、勘違いしてるんだ」
そう。少しだけ。
確かにクロは、人を欺き、陥れ、争わせるのが好きだ。
だが、それを乗り越える人の強さを見ること、それはもっと好きだ。
「だからシロ、ある意味で同じなんだよ、キミとボクは」
人が持つ可能性。
その限界はどこにあるのか?
それを見たい。
シロはその方法として、人に可能性の象徴である「スキル」を自覚させる。
クロはその方法として、人に乗り越えられる可能性がある「試練」を与える。
今のままだと、クロは間違いなく負ける。
そして、それはかつてないほどの、決定的な敗北。
このままいけば、レナはかつての聖女たちでは届かなかった領域まで、スキルを高める。
そんなレナから「封印」されてしまえば、その効力はこの世界の終りまで続くだろう。
「あーあ、だから考えないと。諦めちゃ駄目だからね、それを⋯⋯教えてもらったんだから」
そうだ。
クロにとってレナと並ぶ仇敵、エリウス。
彼が今回、教えてくれた。
最後までやり通すことの大事さを。
「さて、彼を見習って⋯⋯考えないとね、ここから逆転する方法を、さ」
このままだと、自分は負ける。
ただ、そんな絶望でさえ、クロにとっては愉悦。
遠い未来に聞こえる、足音。
それは彼に敗北を告げる、五人の足音。
その音を耳にしながら、嘘が許されないその場所で。
クロは今日もただひとり、次の一手を考え続ける。