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アルティメットフェアリー  作者: 天音 たかし
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第四章 騎士入団試験③

「シュザン、サラリ。両名は空いたフィールドに入ってください」

 ロスの声に、シュザンはニヤリと笑い、サラリはごくりと唾を飲み込んだ。

「シュザン、しっかりね。無理そうだったら降参するのよ」

「降参なんかしねえよ。見てろって」

「いや、私も戦うんだけど」

 緊張感のない会話の後、二人はそれぞれのフィールドに入り武器を構える。

 シュザンの相手をする騎士は、身の丈二メートルはある巨漢の男だ。手にはメイスが握られており、丸太のように太い腕が苦しそうに鎧に収まっている。

「女? いや、男か。我が名はグレゴリー・デーンズ。全力でかかってこい」

「へ、本当に全力で良いのかよ。おっちゃん死んだぜ」

「お、おっさんではない。まだ二十五歳だ。まったく、デカい口を叩くんだから、当然強いのだろうな」

「そいつあ」

 シュザンは剣を抜き放つと、開始の合図とともに駆け抜け、

「あんたが確かめろよ」

 騎士に切りかかった。

「ぬう、こ、これは」

 シュザンの一撃は、あっさり防がれた。

「弱すぎる!」

「なんだとテメエ!」

 シュザンは、全身がカッと燃え上がるように感じた。絶対、痛い目を見せてやる。そう意気込み果敢に切りかかるが、体に似合わぬ騎士の繊細な受けに翻弄される。

「ハハハ、このままで騎士にはなれんな」

「ゼエ、ゼエ。偉そうに」

 額の汗をぬぐったシュザンが、水平切りを放つ。しかし、唸りをあげて振るわれたメイスによって、剣が後方へと弾き飛ばされてしまう。

「あ!」

「よそ見をするな!」

 強烈な衝撃が、腹部に伝わる。シュザンは、吹き飛ばされ、地面の上を何度も転がっていった。

「ぐ、くふ」

 吐き気を催す強烈な痛みが、腹部を中心に全身へ駆け巡る。何が起こったのかシュザンは分からなかったが、騎士がメイスを突き出した姿勢で固まっているのを見て、攻撃をもらったことに気付いた。

「うわ、痛ったそ。おい、男女。そのまま寝とけよ。弱いくせに頑張るな」

 会場の誰かがそう発言すると、参加者たちは腹を抱えて笑い出した。

「……ちっきしょう」

 笑いさざめく声が、シュザンの心を容赦なく揺さぶる。恥辱と怒りがふつふつと沸き起こり、拳を地面へと叩きつけた。

「おーい、お前。情けないな」

 笑いに交じって聞こえた声は、シュザンの後方から聞こえた。のろりと立ち上がり、後ろを振り返ると、ウルフのつまらなそうな目がシュザンを見つめていた。

「情けないだと」

「ああ、情けない。隣を見てみろ。サラリちゃんが頑張ってるぜ」

 シュザンがそちらに視線を向けると、なるほど確かに、サラリが必死に攻撃を受け切っていた。銀の髪を揺らし、顔中に汗を滲ませながら凛々しく彼女は舞う。

「俺の股間を蹴り飛ばした勢いはどうした? お前さん、このままじゃ終わっちまうぜ」

 シュザンは、サラリから視線を逸らすと、剣を拾った。

 じんわりと口の中に、鉄の臭いと味が広がる。痛みから察するに、口の中を切ってしまったようだ。シュザンは赤い唾を吐き出すと、剣を鞘に納めた。

「はあー、だっせーこと。たった一発もらったくらいで降参ってか。ま、大人しく家に」

 ウルフは言葉を切った。シュザンの目に、深く熱い闘志が燃え滾っていたからだ。

「黙ってみてろよ、変態弓野郎。俺は、まだ負けてねえ」

 シュザンは、ふらつく身体を気力で支え、剣の柄を握りしめた。

「少年、もう降参したまえ」

「……うるせえ。降参するかどうかは、俺が決めることだぜ」

 騎士は、ハッとした様子で頷くと、メイスを頭上に掲げた。

「失礼した。君の言う通り、降参を決めるのは私ではない。……その闘志、見事である。騎士の誇りにかけて、改めてお相手いたす」

 鼻を鳴らしたシュザンは、腰を落とし、深く息を吸い込んだ。

 ――自身が放てる最高最強の技。訳もわからず、降ってわいたように突然できるようになったその技は、いつだってシュザンを助けてくれた。

(正直、俺は舐めてたぜ。サラリのいうとおり、これ以外全然だぜ。でも、でもよ。もし、勝てたとしたら、そん時は一からビシッと自分を鍛えなおす。だから、俺の技よ。俺に……)

「チャンスをくれ」

 シュザンは地を蹴り、低い体勢から騎士へと迫る。息も絶え絶え、ダメージが抜けきっていない身体は、鉛のように重たい。

 ――だが、この技のきらめきだけは微塵も疑いようはない。

 放つ。鞘から解き放たれた斬撃は、光の如く。騎士のメイスごと甲冑を水平に切り裂く。

「……見事」

 斬撃が駆け抜けた余波が、騎士を襲う。鎧は破片となりて吹き飛ばされ、騎士の山のような身体は遥か後方の壁に激突する。

 轟音、遅れて風が駆け抜け、さらに遅れる形で歓声が沸き起こる。

 シュザンは、振り切った姿勢のまま、前方を見据え弱々しくも、力強い笑みをこぼした。

「やったじゃねえか。ええ、シュザンよ」

 興奮した様子でシュザンに駆け寄ったウルフは、彼の肩を掴んで気付く。

「お前……もしかすっと立ったまま気絶してる? は、大した奴だ。しゃあねえ、運んでやるよ。おい、誰か手伝ってくれ」

 シュザンは、あっという間に参加者に囲まれ、会場の端に設置された休憩所に移される。

「ちょ、ちょっと通してください。シュザン、試合はどうなったの?」

 試験を終えたサラリが、人垣をかき分けシュザンのもとへ辿り着く。シュザンは、簡易ベッドの上に大の字になって眠っていた。軍医の手によって、丁寧にまかれた包帯からは血が滲んでいる。

 サラリは思わず口を手で覆ったが、すぐに彼女は声を上げて笑った。

「もうなんて顔しているのかしら」

 会場の雰囲気を何段階も熱くした張本人は、大好きな食べ物を食べた子供のように晴れやかな顔で夢の世界を満喫していた。


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