03
アレックスの元を家族以外の人間が訪れたのは久しぶりだった。
ロックハート財閥は先代が自分の息子に総帥の座を譲り渡し、順調な世代交代が軌道に乗り始めている。アレックスの祖父である先代総帥は、肩の荷が下りたとばかり、元気に第二の人生を楽しみ始めていた。父は父でいよいよ来た自分の時代に精力的に取り組んでいる。それを支えるのは自身の子供達や兄弟達である。今のところ不穏な気配は無い。
民主制であるセレベラには王家は無いが、ロックハート財閥は経済や金融を中心にこの世の全てを配下に置く巨大王国を作り上げている途中だ。アレックスもその王族の一員ではある。
彼女は家族とは別に住んでいる。皆、セレベラの首都の中心一等地に構えた屋敷に住んでいるのだが、彼女だけは首都の外れに立つ屋敷にいる。
セレベラはまだ若い国だ。二百年ほど前に別の大陸にある旧本国から渡ってきた人間が開拓しやがて独立した。ロックハート家も初期に新大陸に渡り、開拓者を率いてその地位を伸ばしてきた。十年前に五年間続き、世界中が関わった大きな戦争が終わりその痛手も癒えてきたセレベラの勢いはいまや旧本国を追い抜かすほどだ。もちろんロックハート家の勢いも同様。
それならそれで資産にまつわる骨肉の争いでもありそうだが、ロックハート一族の仲は人が羨むほどにいい。
この屋敷はアレックスがもともと祖母ケイトと暮らしていたものである。ケイトが亡くなった後は彼女だけがこの屋敷の主人だ。アレックスが他の家族と離れて暮らしているのにはもちろん事情があるのだが、それでも別に家族の仲が悪いわけではないのである。
「お父様が何か横槍入れてくるかと思った」
他の兄姉達とは遅れて一人だけ年を取ってから生まれたアレックスを両親は溺愛している。多分勘違いではない。アレックスと共に暮らさなくても彼女の身を案じているのは間違いない。だからこそ、今回のアレックスの動きに対しては一応の了解をしたものの納得はしていないので何かしてくるかと思ったが杞憂に終わったようだ。
「どうしよう、予想以上に難易度が高いわ。初対面の人と話すのって」
美貌を曇らせてアレックスは嘆いた。ロボが特に表情も変えずに淡々と答える。
「なんでもいいですよ。好きな悪夢の話でもしていてください」
「他人の夢の話くらいつまらない話は無いって、どこかに書いてあったわ」
連邦政府の中央捜査官ジャック・ドネリーは、アレックスが呼びつけた相手だ。祖母ケイト亡き後、彼女はこの屋敷の女主人である。全力挙げてジャックを御接待したいところだが、アレックスはそういう社交術を学んでこなかった。ケイトから教わることは他にも多すぎてそこまで手が回らないうちに祖母は一昨年、悪性腫瘍によって亡くなってしまった。
アレックスはとある事件以降、十年以上この屋敷から出たことが無い。引きこもりとしては年季が入っており、対人技術は無に等しい。屋敷を整える使用人たちはアレックスのことを多少理解しているので遠巻きだ。動物すら飼っていないので、祖母の死去以降、まともに生き物と相対していないのである。
当然気詰まりで、ロボが彼を客間に案内してからお茶を入れようと部屋を出た時にいっしょにひょろひょろと客間を出てきてしまった。ロボが眉をひそめるが嫌なものは嫌なのだ。特に何を手伝うわけでもないが、キッチンで彼が紅茶を入れている様を見守っている。アレックスは片足立ちになると、持ち上げた右足で左足を掻いた。
「靴下を履きましょうね、アレックス様」
アレックスの奇行にも慣れっこのロボは淡々と告げた。もちろんアレックスは聞こえないふりだ。気候も温かくなってきたこともあって裸足だと落ち着く。このジーンズというものは丈夫だし、汚れても目立たないしで大変なお気に入りだ。お気に入りすぎてかれこれ半月はこれを着ている。ちなみに洗ってない。アレックスとしては、今日の姿は自分の一番素敵な姿である。どうしてジャックが目を点にしていたのか謎だ。
「彼の持っていた写真を御覧になりましたか?」
「ええ。わたしと写真を五回は見比べていたわ」
アレックス自身も写真をちらりと眺めて、これは誰だ?と思わず考え込んでしまったほど、普段の彼女とは違っていた。中央捜査局がいったいどこからあれを手に入れたのかと思う。
三十年ほど前に設立した中央捜査局は、セレベラ連邦共和国内の広域犯罪の捜査に当たることが可能な組織である。初期は各地の優秀な警察官が抜擢されることが多かったらしいが、いよいよジャックのような大学出たてで配置される者も出てきたという事はそれなりに局内が成熟してきたということだろう。
「あれはちょうど一年前にお撮りになったものですね。アレックス様が髪を梳くことと着替えと入浴に猛反発したので、奥様とお姉様方総出の大仕事となりましたことを思い出します」
「無理やりお風呂につっこまれるんだもん……」
「夏でしたら、面倒だということで表のプールに放り込まれていたかと」
「そっちのほうがまだまし」
「おい」
突然声をかけられて、それから開けっ放しだったキッチンの扉が礼儀正しくノックされた。二人がそちらを向いてみれば、ジャックが眉をひそめてこちらをみていた。どうやら放置されて少し苛立っているようだ。それも当然かとアレックスは思う。自分だったらとっとと帰っている。仕事というのは本当に大変だ。気の毒に。
「話はまだ終わっていないのですが?」
「そうね」
アレックスは悪びれもせず、肩をすくめた。
「ここで話しましょう。お湯が沸くまで時間がもったいないし。はい椅子」
アレックスはキッチンの作業用の椅子を差し出した。アレックスとしてはここに椅子はこれ一つしかないのでお客様に差し出しただけだ。自分は立っている。それなりに最上級の歓待をしたつもりだが、ロボは眼をそらすし、ジャックはため息をついた。
「まあいいでしょう。話の続きです。もちろん私を呼びつけたという事は、今我々が困っていることもご存知かと思いますが」
彼は座らずただカウンターに寄りかかった。
「あなたのナイトウォッチの力をお借りしたい」
いきなり核心をついてきたジャックにアレックスは好感を抱く。回りくどいのは苦手だ。
「承知したわ」
アレックスの二つ返事にジャックのほうが驚いたようだった。
「そんな簡単に。本当に事件のことをわかっていますか?」
うん、とアレックスは答える。
「中央捜査局の力あるナイトウォッチが敗北したことも知っている」
アレックスの言葉は中央捜査局がアレックス・ロックハートの招待を断ることの出来なかった最大の理由だった。
人は夢魔によって夢に囚われる。
そこから救い解き放つのがナイトウォッチの役割だ。非常に才能が必要とされ、まず魔眼を持たないものには出来ない仕事である。しかし持っていたからといって全て解決できるわけではない。ナイトウォッチは夢魔に囚われた人間の夢に潜行しなければならない。そこで夢魔と対峙し、その人間の人格を救わなければならないのだ。
だが救うどころか他人の夢から帰ってこられなくなる場合だってある。
「中央捜査局のナイトウォッチは二人やられました。患者の夢から帰ってこられなくなっている」
その言葉にアレックスはわずかに眉を上げた。中央捜査局といえば、優秀な捜査官でなりたっている国家の一部門だ。それでもだめだったというのならばよほど強靭な夢魔。
「我が国は歴史の浅い国です。ナイトウォッチの数は旧本国に比べて圧倒的に少ない。旧本国ですらナイトウォッチの数は減っているくらいです。まあ旧本国のナイトウォッチギルドに頼めば手は貸してくれるでしょう。でも二百年前旧本国から独立する際にいろいろ揉めましたし、あまりあちらの国に頭は下げたくない」
セレベラが独立してからまだ二百年ちょっとしかたっていない。セレベラ大陸に渡ってきたのもの中にナイトウォッチを生む家系が少なかったことと、新大陸にはそのころ夢魔がいなかったことが原因としては挙げられる。しかしここ最近になって夢魔の数は増えてきた。人間が集まる場所ではどうしようもないことなのかもしれない。そして逆にナイトウォッチの数は伸び悩んでいる。旧本国のある大陸では世界大戦時戦場となり、その影響で多数のナイトウォッチがただの兵士として死んだ。また現代では国力が落ちていることもあって、ナイトウォッチの技能と血脈は先細りしていた。そこに来ての再活性化で旧大陸も危機感を覚えているところだ。
「それに旧本国に連絡し、誰かを派遣してもらう算段を整え、向こうのギルドが人を出してこちらに来れば軽く半月以上は過ぎてしまう。それでは間に合わない」
「半月なら、夢魔に罹患しても生きていられるはず。どうして時間がないの?」
「裁判が」
言いかけたジャックに、ロボが紅茶を差し出した。旧本国と揉めていたころの話を先ほどしていたが紅茶は旧本国が取り扱っているものが一番である。ふわりと香気が立ち上がった。友人の家のキッチン、というにはとてつもなく広く立派だが、妙に親密で気さくな雰囲気の中での話だった。
「ミランダ・エイムズの裁判ですね?」
ミルクをお使いになられますか?という気軽さで、ロボがふいに口をだした。ああ裁判ね、とアレックスは頷き、ジャックは不愉快そうに乱暴な手でカップを取った。
アレックスはこのジャック・ドネリーという青年をなんとなく上から下まで眺めた。
三つ揃えの無個性な背広姿。顔は……多分ハンサムなのだろうが。まとう空気が精悍すぎているため甘い雰囲気がない。ロックハート財閥関係者の周りによくいる護衛達と似た、でもまた違った緊張感。広い肩幅と厚い胸板は背広の下の鍛えた体を確信させるものだ。それなのに、癖のある濃い茶色の髪の毛と同系色の瞳はなぜか物語のかわいい小熊を思わせた。
アレックスは人の好き嫌いが激しいが、彼の第一印象は悪くなかった。
だからちゃんと話を聞こうという気になる。この屋敷に家族以外の人間が訪れるなんてそもそも始めてだ。でもこれに馴染まなければきっと外には出られない。慣れないことばかりですでにいろいろ放り出したくなるが、それでもアレックスは一歩踏み出そうと決めたのだから。
この屋敷にばかりいてはだめだと。
だから自分が手を貸すことができる案件を探していた。どうせ止めるであろうから、財閥となんとかぎりぎり遣り合えそうな相手で、なおかつアレックスの手がどうしても必要な事件を。
中央捜査局の事件で、一流ナイトウォッチが手こずっているこの事件は条件にぴったりだ。この時のために高名なナイトウォッチであった祖母ケイトの紹介状はあったのだと考えてロボ経由で中央捜査局に送った。アレクサンドラ・ロックハートはナイトウォッチとして一流だとのお墨付きの紹介状。
「そう、麻薬王サイモン・エイムズの妻、ミランダ」
ジャックが来訪の理由を告げてアレックスは頷いた。
「先日新聞で読んだわ。ミランダが病気で倒れたと書いてあった。夢魔のせいじゃないかって思ったの」
「まったくマスコミって奴は……」
情報統制がとれていなかったことをジャックはぼやく。
セレベラではもちろん麻薬は禁止されている。もちろん犯罪者というものはそんなもの気に留めないわけで、麻薬売買に関しては叩いても叩いてもきりがない。そして最大販路を抱えていたのが故サイモン・エイムズである。
彼は半年前に亡くなった。銃殺である。一体誰が彼を殺したのかはしばらくわからないままだった。そして一ヶ月前にその妻ミランダが司法取引に応じた。組織の内情を明かす代わりに自分を罪に問わないようにと。
サイモンを殺害したのは、部下のクーパーだった。腹心といってもいい彼だったが、長年つもり積もった何かが爆発したのだろう。彼を暗殺して自分が組織の頂点に上り詰めた。だがクーパーはいくつか間違いを犯していた。サイモンは七十三歳、ミランダも七十歳だ。もう少し待てばどうせ寿命だったのに。そしてもうひとつ彼の誤算はミランダという老女を甘く見ていたということだろう。彼女は夫を殺した人間を突き止めた。自身の怒りと組織の価値を天秤にかけて、組織ごとクーパーを政府に売り払うことに決めたのだ。
サイモンとミランダが作った巨大組織。滅ぼすのも自分という彼女の気概はまるで執念だった。さすが中央捜査局の人間が妖婦と罵った相手である。
「好きだったのかしらね」
ジャックからそこまで聞いて、アレックスは無意識に呟いた。
サイモンもミランダも、自分の麻薬組織で汚いお金を手に入れて、間接的に様々な人間を不幸にして、心と想像力が全くないような人間に思える。それでも人は人を愛するのか。夫の死の原因に気がつかないふりをしていれば、組織内でのミランダの立場はそれほど悪いものでもなかったのだろう。司法取引するよりもずっと裕福な生活が出来たはずだ。
でもサイモンの復讐のために全てを投げ打ったのかと思いつきはするが、その夫婦の愛情はアレックスには想像もつかないものだ。
「好き?」
アレックスの呟きにジャックは首を傾げた。別になんでもないわとアレックスは話の先を促す。
「ミランダは政府内で秘密裏に匿われることになりました。半月後にクーパーの裁判が開かれ彼女はそこで証言する予定です。いや予定でした」
「夢魔に侵されたのですね」
この使用人はなぜアレックスにしかする予定のない話をしゃあしゃあと聞いているのかという顔でジャックはロボを睨んだ。しかしそんな責めるような目つきにひるむ彼ではない。
「いいのよ、ロボは」
アレックスはジャックの視線の意味を感じ取って彼に言った。
友達はいない。家族は愛情深く末の娘を甘やかしてくれるけど、結局アレックスの気持ちの本質というのは理解できない。理解できないなりに大切にしてくれる家族には感謝しかないが、それでも孤独だ。
ロボだけがおぼろげだがアレックスの気持ちを理解している。
でも彼は、…………だからなあ。
アレックスとロボを隔てる大きな壁のことを思って、少し悲しい気持ちになったが、とりあえず今はそんな考え飽きたことよりもジャックの話に興味が湧いた。
「半月前、ミランダは倒れました。夢魔に侵されると眠りから覚めなくなる。自分の夢の中に閉じ込められて、そのまま体は衰弱していく。もちろん点滴で延命もできますが、それでも人間は水分だけで生きられるわけでもない。いつか彼女は死にます。正直なところ、ミランダが死んでも別になんとも思わない。犯罪組織の頂点の片割れであり、彼女のせいで起きた悲劇はいくらでもあるでしょう。でも今は困る。彼女は裁判でクーパーと自身の組織がやってきたことを証言しなければならないんです」
もちろん物証もあるだろうが、今まで組織の頂点にいた女の証言には価値がある。
「半月後に起きて元気に喋ってくれなければ困るのね」
「彼女の証言以外にも、組織を告発するために中央捜査官の多くが携わっています。何人か、俺の同僚が捜査の途中でクーパーの仲間に殺されました。人員に税金に時間、全て膨大に投入されている。どうしても組織を叩き潰したい」
ジャックは同僚の死を告げるときにも口調を変えなかった。
……ジャックはその事については考えて嘆いて泣きつかれたのだろう。だから今は重要でないとしている。でも、とても悔しいはず。
アレックスは手にした紅茶を飲んだ。
この屋敷はもう亡くなった祖母の持ち物だった。彼女が大事に集めた趣味のよい美しいカップ。金塗りはケイトが消えた今も美しく輝いている。アレックスにはそういった趣味のよさは受け継がれなかったが、祖母から学んだことは多い。
ロックハート家は遡れば夢魔の退治屋だった。それで稼いだ金で金貸しをドネリーめ、何百年かかけてのし上がってきた。今は夢魔の退治なんてしなくても食べていく事はできるし、魔眼を持つ血族も少なくなってきているが、原点はそこだ。祖母ケイトはナイトウォッチであり、アレックスを鍛えてくれたが、実地を積む前に祖母はいなくなってしまった。
だがロックハート家のナイトウォッチが他の追随を許さないほどの才能を持つというのは、ナイトウォッチの間では旧本国ギルドで言い伝えられているほど有名である。ナイトウォッチの名家ともなれば、夢魔を退治するための武器を持つが、それもきちんと使いこなすだろうとケイトは太鼓判を押した。
六人も兄姉がいても、魔眼を持つアレックスは特別扱いだ。アレックスはロックハート家の象徴であり、多少の奇行は許される。だが一方で純粋に家族に対する愛情から、おそらく家族の誰もアレックスに夢魔退治などさせないだろう、危険だから。
象徴なのに、その成すべきことをしないなんて変。
アレックスには自分の立場がよくわからない。
長兄のように次期のロックハート家を支える準備をするでもなく、双子の次兄達の様に兄の補佐となるでもなく、長姉のように財閥のために有力者に嫁いだわけでもなく、次姉のようにそのずば抜けた頭脳で政府の中に入り込んでいくわけでもない。成すべきことを成したもの、したいことを成したもの。そんな人々に囲まれているのに、アレックスだけが何をすべきか迷い続けている。
そんな時に、ミランダの情報を手にいれた。さっそくロボをつかって中央捜査局に探りをいれ、仕事だったら引き受けるから自分のところに来るように伝えたのだった。大事になると家族にばれるからなるべく目立たないように来いと添えて。
「ミランダの夢に入って、彼女の心に巣食う夢魔を追い出して欲しいのです」
ジャックの言葉は、アレックスに与えられた始めての成すべきことだ。
「もちろん」
アレックスは答えた。
なるべく堂々と威厳があるように言ったつもりだが、何といっても着ているものに威厳が無いので、どうにも格好つかない。その現実にはアレックスはもちろん気がついていない。
「それでは上に報告いたします。明日、ナイトウォッチ課の担当者が改めて詳細な打ち合わせに来ると思いますが……」
ジャックが言いかけたのをアレックスは軽く手を上げて遮った。
「一つ条件」
「え?」
「わたし、とっても人見知りなので、これ以上新しい人と話をしたくないわ。全ての窓口はあなたがやってください、ドネリー捜査官」
「なんて?」
はっとしたようにジャックは口を噤んだ。今まで丁寧に話していたがやっぱりそれはよそゆきなのねと確認できてアレックスは気の毒に思った。こんな小娘相手でもロックハート一族でナイトウォッチだとそれなりに尊重しないといけないのだろう。実際は本当にただの小娘なのに、とアレックスは自覚を強くする。
ロックハートも魔眼も自分でもぎとったものじゃない。
でもナイトウォッチのとしての評判はこれから自分で高めていくことができるかもしれない。そしたらこの屋敷以外でも生きていかれるかも。
……あの人に謝ることができるかも。
「あ、失礼しました。しかし私はナイトウォッチではありません。あなたの力になれることはありませよ?ナイトウォッチ同士協力したほうが」
「言葉遣いならそのままで結構よ。そもそもわたしが丁寧に話していないんだもの。でね、他の人間と協力はしないの。全部自分でやるから」
「言葉遣いに関しては変えません。公務ですから。で、単独で夢に潜るんですか?ナイトウォッチはバディ制を取るとききますよ?単独なんてそんなの門外漢の私でも聞いたことはありませんが……」
「わたしがそうしたいから。ということで申し訳ないんだけど、さっそく明日資料を搬入してください」
「いや、だから俺は門外か……」
「大丈夫です。ジャック・ドネリー捜査官」
またロボが口をはさんだ。アレックスもおやと思う。彼も基本的にはほとんど話さない。これほど初対面の相手に語りかけるところなど祖母が生きていた時からアレックスも見たことが無かった。
「中央捜査局もあなたの上司もアレックス様のやりように文句は言いませんよ。さっさとそのつもりでいたほうがよろしいかと思います」
ロボの言い方にジャックは鼻白んだ。
つまりは、ロックハートの言う事は絶対ですよ、と脅している体裁なのだが、実際そのつもりなのでアレックスは訂正もせずただ半笑いで肩をすくめた。