01
彼女の心にはけして消えない光景がある。
燃え上がる屋敷の中、その男は佇んでいる。黒い影となって最初は誰だかわからなかった。ただ、男の片手にはたいまつが握られていて、この炎は彼が撒き散らしたものだとわかる。そしてもう片手には、鈍く光る大きな狩猟用ナイフ。
足元には弾を撃ち終えてしまったらしいライフルが落ちていた。
撃ち終えた?
彼女は自分がどうしてそれをわかっているのか不思議に思う。そのまま回りを見回して彼女は息を飲んだ。
あたりには倒れている者が大勢いた。ソファの上で横たわるもの、その下に伏しているもの、ドアの近くで崩れ落ちているもの。
ああ、あれは一番上の兄様、それにお母様お父様、お嫁に行ったお姉様、今も可愛がってくれる兄姉達。彼らは皆、見知った愛しい顔ぶれだった。彼らの体の下にある黒っぽい染みは、光に当たっても揺らめかない。あれは光の影ではなく流れ落ちた血の染みだ。壁にはライフルの弾が当たった痕が幾つも残っていた。
それだけでも男が彼女の家族を害したということは明白だった。
駆け寄って揺り起こしたいと思ったが体が動かない。大事な家族が命の危機だというのに彼女は何も出来ず、ただ一人室内に立つその男の背を見つめていることしか出来ない。男の背中には見覚えがあった。
でも、まさか。
あの人が。
男は自分の背後に立つ彼女の気配を察したようだった。ゆっくりと彼は振り返る。炎の朱、床に流れる血の紅色、赤く眩しい景色の中で、男の持つ刃物だけがギラリと白く光った。
振り返ったその男は、彼女をまっすぐに見る。
そして彼女は、男の名を恐怖に満ちた声で叫んだ。