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コンピュータによる自動生成された小説

作者: 矢田馬場

人間はコンピューターと同じだ。


妻が死んだとき、私はそう思った。

妻の名は香澄。大学時代から付き合っていた。

仕事を終え帰宅した際に、倒れている妻を見た。

「香澄、香澄!」すぐに駆け寄り体を揺さぶった。

だが、冷たくなっていた彼女の体が、もう息がないことを私に突きつけた。


その後、駆け付けた救急隊が、

私の泣く姿を見て、不憫そうな顔をしていたことを覚えている。

ただ、私の中に強烈に、鮮明に感じたことは、

“私は哀しむ演技をした。”ということである。


セオリー通り、妻を失った夫を演じたのだ。

このとき、感情というものは、単なるプログラムなのだと知った。怒りも、喜びも、全て人間に組み込まれている機能なのだ。


親族の葬式でも私はプログラム通り、哀しむ夫を演じきった。


妻の死因は睡眠薬の過剰摂取による、服毒自殺と断定された。

遺書は見つからず、私もなぜ妻が死んだのか、理由はわからなかった。


妻が死んでから3日後、ソファーに座り、

電源をつけていないテレビの黒い画面をぼーっと眺めていた時、

妻が帰ってきた。


私は驚いた。見た目も声も妻そのものの人間が、玄関から入ってきたのだ。最初は戸惑ったが、2日もすれば、妻が死ぬ前のいままで通りの生活に戻ったのである。

妻は、死んだ当日のことを覚えていないようだった。

過去の思い出も少し忘れているようだったが、あまり気にはしなかった。


会社に出社しだして数日後、

小学校からの学友である松波と食事に行った。

彼は私の唯一と言っていい親友で、小学校から高校まで共にサッカーをしてきた。今は地元で市の公務員をしている。

今回の件で私が落ち込んでいると思い、

食事に誘ってきたのであった。


「何か俺にできることなら力になるから、言ってくれ。」

と彼は言った。

「ああ、大丈夫、気づいたんだよ、俺たちの感情ってやつは、コンピュータのプログラムと同じなんだ。妻が死んだら哀しむ、それだけのことなんだよ。本当は何も傷ついてやしないのさ。」

私がそういうと、彼はさらに心配した顔になり、

「今、ショックで動揺しているんじゃないか?心を保つためにそういう風に言ってるのかもしれないが、お前はそんなこと言うやつじゃない。」彼は言った。

「たしかに、動揺してるのかもな。お前だから言うけど、妻は帰ってきたんたんだ。」と私が言うと、急に彼の顔が強張り、しきりに気にしてきたので、

「一度家に会いに来たらどうだ?」と提案した。

彼はそれを了承したが、信じてはいないようだった。まあ当日見れば理解するだろうと思い、その日は別れた。


「あいつ、幻覚を見るようになったのか…」別れた後、松波はちいさく呟いて、


さらに小さく、嗤った。


松波が家に来る日、仕事終わりに帰ると、家に妻がいなかった。

困ったことになった。

松波が来るまであと30分ほど、

もし妻が帰ってこないと私が嘘つき扱いされてしまう。

妻に電話を掛けるがでない。どうしたものかと思案しているうちに、インターホンが鳴った。松波だった。


「ごめん、妻は外出してるみたいで…」と私は言った。

「そっか、いや大丈夫。わかったよ」と松波は返した。

松波の反応はやはりな、という感じで、私のことを嘘つきだと思っているようだ。

そのとき、妻が帰って来た。

妻の顔をみるなり、松波は非常に驚いていた。

妻は買い物に行っていたようで、

その後手際よく晩御飯をつくり、三人で食べた。

松波は終止落ち着かない様子でいたが、

私が「嘘じゃなかっただろ」というと

「あ、ああ、そうだな」と認めたようだ。



とあるカフェの隅の席で、男女が話をしていた。

「佐渡子、お前どういうつもりだ。」松波は語気を強めた。

「いいじゃない。彼もそれを望んでいるのよ、お互い幸せなのに何か問題でもある?」黒髪のロングヘアーをたなびかせた女が、気の強そうな声で答えた。


彼女の名前は上原佐渡子、小学校からの同級生である。

「あいつの家に行った時、お前が香澄さんのフリして出てきた時は驚いたよ。あいつの心が弱っているのにつけこんで、死人のフリして夫婦ごっこか。」俺は怒った。

「あなたに関係ないでしょ。彼も信じてるし、私がずっと彼が好きだったの知ってるでしょ。ほうっておいて。」佐渡子は答えた。

「見た目は近づけても、きっといつかバレるぞ」

「今が幸せだからいいのよ、もし彼に言うつもりなら殺すわよ」

話は平行線のまま、決着はつかなかった。


しばらくして私が家で香澄とくつろいでいると、

テレビのニュースで松波が死んだことを知った。

死因は青酸カリによる中毒死と報じられていた。

彼が自殺するなど信じられなかった。

葬式の際に小耳に挟んだが、遺書もないらしく、

私にも理由はわからなかった。

ただ、妻の時と同じように私の中のプログラムが機能し

哀しい顔をして終止うつむいたままでいた。


彼の葬儀の翌日、警察が家に来た。

松波の件で、私が何か知っていないか調査しにきたのであった。

私は彼との思い出話をし、彼が自殺するなど信じられないと、哀しむ友人を演じた。

警察は最後に私の指紋をとり、

「松波さんが亡くなった日、どこで何をしていましたか?」と聞いてきた。

「特に、家にいただけです。」と答えると帰っていった。


その後、私は松波殺害の容疑者として、嫌疑をかけられた。

彼が死ぬまえに飲んでいたペットボトルに私の指紋があり、

そのペットボトルから青酸カリの反応が出たとのことだった。

私にはアリバイはなかったが、ただ彼を殺す動機もなかった。

「勘弁してください。私が彼を殺すわけないじゃないですか。」

そういうと警察は動機ならある。と言い

白い手紙を差し出した。


そこには

「あなた、ごめんなさい。私は不貞を働きました。あなたの優しい顔を見るたびに辛くなります。私はこの罪を背負ってあなたと向き合うだけの強さがありません。ごめんなさい。私のことは忘れて生きて。」と

香澄の字で書いてあった。


何のことかわからなかった。

頭が痛くなって、コンピュータが発熱しているのを感じた。


警察は「お前の奥さんが不貞を働いた相手が、被害者であることは調べがついている。復讐したんだろ。」と淡々と私に突きつけたのである。


人は信じられない。

だが、よく考えれば私は、彼女は人なのか?

わからない。なにも、よくわからない。

ただのコンピュータだ。


「なにも覚えていません。」

私は淡々と答えた。


しつこい取り調べは進んだが、

決定的な証拠がないことや、私は妻が死んでからの精神科への通院履歴があったことことや、別の女を妻と思い込んでいるという証言が近隣住民から寄せられたことから、

責任能力なしと警察も判断したのか、不起訴処分となった。



取り調べ室から出て、警察署を出たとき

私は笑った。

面白くて仕方がなかった。


「馬鹿ばっかりだ」


「どいつもこいつも、私がなにも知らない妻をなくして壊れた異常者だと思ってやがる。」


妻を自殺に見せかけて殺したのは私だ。

あの女が不貞を働いたことを逆手にとり、自殺に見せかけた。


松波のやつも、私がなにも知らないと思いこみ、

食事に誘うなど、死を希望しているようなものだ。

あいつの家には何度も行ったことがある。

毒を仕込むなど造作もないことだ。


一番の傑作は佐渡子の奴だ。

あいつが香澄の真似をして家に入ってきたときは

笑いを堪えるのに必死だった。

うまく話に乗ってやって、頭がおかしくなった男だと近隣に見せびらかし、だめ押しで精神科に通っていたおかげで、

無事釈放されたわけだから、感謝しておこう。


町を歩いていると電気屋のショーケースで報道があった。

「本日未明、大阪府高槻市にすむ上原佐渡子さんが刃物で刺され死亡しているのが見つかりました。犯人はまだ見つかっていません。」


コンピュータはプログラムにより、嗤った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「教授、この小説どう思いますか?」

僕は、藤岡教授に聞いた。


「展開が早いね、細かい描写が足りないと感じる。社会問題に切り込んでいるのかも曖昧だ。この作者には人生経験が足りないのかもしれないね。」教授は答えた。


この小説を書いたのは僕だ。

図書館で見つけた本の書評を聞くという体で、

毎回教授に意見を頂いている。

もちろん教授も僕が書いたことを知っている。


教授はかなり辛辣な意見を言うので、

今回の書評はわりと優しい方であった。




翌日、教授が死んだ。

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