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第六話:感謝、無知、旅立ち。

「・・様!・・・・・・れるのですか!?」

「・って!!それ・・・・・・・・・・そうだろう!!」

なんだろう・・・ここは・・・・エリィの・・・部屋・・・・?

「ですが!!」

「くどいぞバルド!!・・・・・・・・・だということがなぜわからない!!」

言い争ってる・・・?・・・なんで・・・・。

「越権だろうがなんだろうがいいのです!そんなことは重々承知しています!!それよりもエリィ様は先日の出来事によって命の危険を感じられたのではないのですか!?感じられなかったんですか!?」

「それはあるがだからと言って優二を見捨てていけるものか!!」


ああ・・・・そうか――――――

俺のせいなんだ――。


「・・・私たちの諫言よりも・・・優二の存在を取るというのですか・・・!!」

「・・・・・」

エリィはバルドのその言葉に顔をそむけ黙ってしまう。

エリィの気持ちが優二には痛いほど分かった。

バルドの言葉に耳を貸さないわけではない。優二をかばうため、自分の納得できる事をしようとするにはバルドの言うことを聞くわけにはいかないのだ。

バルドの事を信用していないわけじゃあない。優二のことが恐ろしくないわけではない。


ただただ彼女は、傷ついた人を放っておけないがために。


「・・・いいでしょう、エリィ様。あなたがそういう気なら――。」

「・・・・まて。」


優二がそう言葉を発した瞬間、室内の空気が変わった。

「・・・優二・・・気が付いていたのか・・・?」

バルドが全身を緊張に震わせながら言葉を発する。

その声には先ほどの憤怒はなく・・・ただ、「恐怖」のみが全身を支配していた。

気が狂うほどの痛みをこらえながらそんなバルドに優二は視線を向ける。

「・・・あれだけ声が大きければ植物状態にでもならない限り目を覚ますだろうな・・・。」

俺はなんとかして元気そうに見せようと体を起こす。

・・・最悪だ。気分は最悪。何故かなんてわかりきっている。と、優二は思う。

自分が作り出した状況のせいだ。自分が記憶を取り戻したいなどと言わなければ―――。


「ふん・・・貴様俺の怒竜ドゥラゴを喰らってそれだけ元気があるとはな。」

「バルド!!」エリィが声を荒げる。

「エリィ様は黙っていてください!!・・・お前、自分の特異性に気づいてないのか!!」

「・・・聞こうか。」・・・貴様かお前かどっちかにしろよ。

「えらく冷静だな!!・・・いいさ言ってやろう!!お前はな!!腹に穴が開いたんだ!!

背中まで貫通していた!!それなのに夜には完治だと!?ふざけるな!!貴様のようなバ――。」

「バルド。それ以上を言うのはこの俺が許さん。」

今までここに居なかったはずなのにいつの間にかあいつがいた。

「・・・兄上?」

「エリィ。」

「は、はい!?」

シグルス。奴は昼間の疲労を感じさせない口ぶりで言った。

「ヴァルフォード家当主として命ずる。桐谷優二を連れゼネル大陸に渡ったのち、貴族専用戦闘術学校エクステリオルへ入学、生活せよ。」

「シグルス様!?」

「・・・おい、シグルス。それはどういうこった?」

たぶんシグルスは俺のことを思っての行動をとったんだろう。

「俺はそんなのに納得はできないな。なぜそんな事をする必要が?」

「そうですシグルス様!!なにを考えておられるのですか!!」

そうだ。俺自身が危惧していること、それは昼間のような事が再び起こること。

またあんなことになって、エリィに危険が及んだら―――。それを考えるととても納得できるものではない。

「・・・兄上、まさか・・・・」

「それ以上は言うな。・・・優二の質問にはこう答えよう。エクステリオルには戦闘術のエキスパートが各大陸から勢揃いしている。戦闘術の学校だから当然序列もあるが、その上位に組み込まれている奴らはそろいもそろって化け物ばかり。殺したくても無傷で捕らえられるのが関の山だろうよ。」

・・・なるほど。つまりまたあのような状況に陥ったとしても双方が無事に済む場を作ろうとシグルスは言っているのだ。

「それだけではない。戦闘術のエキスパートなんてものは野放しにしておくとすぐに喧嘩を始める。それを止めるという名目で各国上位の錬金術師アルケミスト魔術師マジシャン達が常駐している。彼らに記憶を何とかしてもらえ。」

・・・つまり、シグルスはあの状況を避けつつ、記憶を取り戻し、こっちの世界に馴染むために学校生活を送らせようというわけである。

何故ここまでしてくれるのか分からなかったが、取りあえず今は話を聞いておくことにした。

「バルドの質問にはこうだ。昼の騒ぎによって近隣の住民が平安ギルドに通報したらしくてな。明日、家全体が取り調べを受ける。・・・なるべく早く厄介払いさせてもらおうと思っているんだ。」

言葉は悪くても、伝えたいことはよくわかった。

シグルスは、優二のことを心配している―――。

「しかし、そこまでしてやる必要はないはずです!!」

「そこは貴様らの失態にも責がある。」

シグルスは冷たく言った。

「何故ヴァルフォード家の優秀な部下たちがたった一人の少年の暴走を止められなかったのか?そんな話が広まってみろ。ヴァルフォード家は王族の右腕から一気に引きずり落とされるわ。」

「・・・・!!」

「納得できるかできないかじゃない。納得『する』んだバルド。・・・さてエリィ、優二、お前たちだけでエクステリオルへ向かうというのは何かと問題があるだろうから一人護衛をつける。・・・シュガ!!」

「ここに。」

シグルスが叫ぶ。次の瞬間シグルスの隣に一人の少年が跪いていた。

年は14、5といったところだろうか。髪は吸い込まれそうな青でポニーテールにしている。瞳は髪の色と対照的で禍々しいほどの赤色・・・真紅だった。

背中には物凄く大きなものを背負っていたが護衛のイメージ的に大剣だとおもわれる。

シュガと呼ばれた少年はまだあどけなさの残る顔をシグルスに向け、次の指示を待った。

「ヴァルフォード家当主として命ずる。エリィ・ヴァルフォード及びユウジ・キリタニがエクステリオルへ行き、必要学科を終え、卒業し、この地へいつか帰って来るまで・・・両名と共に学び、生活。及び全面的なバックアップを命ずる。」

「ハイ。」

「二人を頼んだ。」

「!!・・・ハイ。」

シュガはなにやら顔を強張らせたがすぐに元の表情に戻ると俺たちに顔を向けて、言った。

「・・・二人とも、これからよろしくお願いします。」

「・・・ああ。」

「よろしく。」

俺とエリィはシュガに返答すると、再びシグルスに顔を向けた。

シグルスは、優しい顔をしていた。これまでに見たことがないぐらい・・・大人の風格を備えてなお、見たものを安心させる笑顔を。

「・・・さて、優二。そうと決まったらこれを渡しておこう。」

そういってシグルスは三つの革袋を俺に渡して来た。革袋はパンパンで、それぞれ寝袋を広げた程もある。ずた袋とでもいうのだろうか。

「この中には旅の途中ではもちろんエクステリオル入学後でも役に立つモノが入っている。まぁ、無駄遣いしない程度に役立ててくれよ。」

「ああ。・・・なんだか悪いな、ここまでしてもらって。」

「フッ、そんな犬の餌にもならない罪悪感はいらない。・・・ただ、お前たちの安全を願う。」

「・・・ありがとな。」

「ああ。」

そんなやりとりを終えると、シュガがこちらへ寄って来た。

なんだろうと思っているとシグルスが言った。

「さて、朝には事の真偽を確かめるために腐敗貴族どもが押し寄せてくるだろうな。その為にはお前に早く出て行ってもらわないと困るんだ。今すぐ旅立て。」

「!?」

「わかりました兄上、お元気で。・・・さあ行くぞ優二。」

「優二さん、革袋一つ持ちます。・・・よっ、と。行きますよ優二さん。」

二人は平然と旅支度をしていた。いや、旅支度というより着の身着のまま行こうとしているかのように。

「えっ・・いますぐったって・・・。」

「今ならまだ深夜。平安ギルドはもちろん町の人々は寝ていますし、活動しているのなんて暗殺キルギルドくらいですよ。早く行かないと追手がかかってからでは遅いんです。ホラッ、行きますよ!!」

シュガはそういうと強引に俺の手を引っ張って部屋から出ようとした。

ちなみにエリィは既に出てた。

「えっ、ちょ、おま、わ、わかったから離せ・・・イテッ・・・シ、シグルス!!ありがとな!!元気でな!!」

あまりの勢いのよさに尻餅をついてしまった。引きずられながら、俺は礼を叫ぶ。

「バルドも、イリアスも、短い間だったけど感謝してる!!ありがとう!!・・・ぐェッ!!」

シュガが角を曲がったとき、壁に頭をぶつけてしまった。

・・・こうして、俺達は慌ただしく夜空に星が瞬く中出発した。

聞いたところエクステリオルへは二週間ぐらいだという。・・・俺はこれから起こる不思議な出来事や、自分たちの身に降りかかる事になる災厄など知らずにこれからの生活への期待に胸を膨らませていた。


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