第五話:記憶、狂笑、精神崩壊?
「・・・うっでぃ!」
気がつくと優二は暗く、ジメジメとした場所に立っていた。足元をネズミが怯えたかのように駆けて行く。細長い路地に建物が落とす影は薄くなく、空は明るいのにまるで井戸の底へと突き落とされたかのような錯覚を覚えた。
「・・・ここは・・・」
「お前が倒れていた場所だ。見覚えはあるか?」
「・・・っ!」
誰に問いかけるでもなく呟いた言葉は、いつの間にか隣に居たエリィに質問として受け止められていた。
「・・・あぁ・・・つい数日前のことだから・・・!?」
暗い路地の横に設置されている側溝、建物にかかる手のひらほどの大きさがあるパイプ、
何より自身の記憶が一つ一つこの場所で何があったのかを優二に思い出させる。
映画のスクリーンを見ているかのような感覚。優二は目をそらせずにいた。
優二は裏路地に倒れていた。
そこへ酔っ払いらしき男が優二に躓いて悪態をついたのだ。
(・・・なんだぁ、こいつ?汚ねぇ野郎だな・・・・)
そこへ連れらしき男が寄ってきて言った。
(ヘッ、何言ってんだ?珍しくもねぇだろうが。裏路地に薄汚れた野郎っつったらよ?)
その言葉に躓いた男は汚物でも踏みつけてしまったかのような顔をして言った。
(ちっ・・・乞食か?働きもしねぇ癖に人に食い物ねだってよ・・・俺はこんな奴が大嫌いなんだ!!)
繰り返される罵倒。
「ちが・・・!俺は・・・!」
優二の口から声が漏れる。
「・・・優二?どうした?」
エリィが心配そうに言った瞬間バルドとイリアスが到着した。すぐに事態を察したイリアスがおかしな雰囲気の理由を確かめようとエリィに問いかける。
「エリィ様、どうされました?」
「わ・・・わからん。優二が変なのだ・・・」
「優二さんが・・・?」
エリィが言った言葉にバルドは優二に近づいて優二に問いかけた。
「おい、どうした?」
しかし、その言葉は優二に届かない。
バルドに声を掛けられても優二は自身の記憶を見ていた。いや、目をそらそうとしてもそらせない。網膜にそのまま映像が投影されているかのような・・・目を閉じても映像は優二を捕らえて放してくれない。逃げさせてくれない。
(いやだ・・・!!こんなもの見たくない!!)
全身から汗が噴き出し、背中に寒気が走る。
優二の記憶の映像・・・そのうちに二人組は倒れている優二に攻撃し始めた。
ドスッ。躓いた男は蹴りを優二の腹に入れる。靴の先が尖っていると感覚でわかった。
(社会の役にたちゃしないんだから死んじまえばいいのによ!!)
ガッ。連れの男が持っている剣の鞘で優二の頭を突いた。
(ホントによ、こーいう奴らの存在価値っていったいどうなってんだろうな?)
そのような事が十数分続く。下らない会話、下卑た笑い、容赦の無い攻撃。
優二の精神は既に限界に達しようとしていた。
「やめろよ・・・なんなんだ・・・」
ぶつぶつと優二は呟いている。その眼は暗く淀んで、まるで死刑を宣告された囚人のようだった。
「おい!!優二!!どうしたというんだ!?」
ただ事ではない優二の様子にエリィは更に焦る。しかし、イリアスがエリィを後ろに下がらせた。
「・・・エリィ様、下がっていてください。様子が変です。」
「・・・何だと?そんなものは見ればわかる!!」
「落ち着いてください、エリィ様。彼は何かを『視て』います。」
その言葉にエリィはハッとした。
「っ・・・!!まさかっ・・・優二!!正気になれ!!オイ!!」
エリィの叫び声が響く。優二を正気に戻そうと彼女が吐いた言葉は、裏路地といえども十分表通りに届いた。
エリィの声に気がついた通行人たちは、一人、また一人と野次馬と化し集まってゆく――。
優二は未だに幻影を見ている。果てなき罵倒、終わらない攻撃、それらは優二を蝕んでゆき・・・
(ヤメェ・・・・ヤメッロォォ・・・ヨ・・・・・・ヤメ・・・)
ブツン。
「あぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
精神的に耐えきれなくなった優二は悲しみと怒り、憎悪を乗せて叫ぶ。
その姿に危機感を覚えたエリィが血相を変え、バルドに助けを求めた。
「クソッ!!バルド!!」
「・・・わかりました!!」
バルドはそういうと優二に向って走る。
優二はもう叫んでいなくて、・・しかし酷薄な笑みをその顔に浮かべていた。
でも眼は虚ろで・・・何を見ているのかわからないような眼をしていて・・・・
「・・・狂ったか!?正気に戻れ!!」
バルドは優二を気絶させようと拳を繰り出した。
・・・さて、ここで読者のみなさんに説明しておこう。
バルドはヴァルフォート家きっての精鋭だ。優二が元居た時代――つまり現代ではK−1世界チャンプより少し強いくらいの腕を能力なしの状態で持っている。
つまり、現代日本から来たフヌケ高校生の優二がその拳や蹴りを受ければひとたまりもない。
・・・はずだった。
だがその拳が吸い込まれるように優二の腹に当たっても、優二は反応を示さない。
酷薄な笑みもいつの間にか消えていた。
バルドが怪訝に思った瞬間、優二が、笑った。
やはりあの笑みで、何を殺しても快楽しか得られないとでも言うようなあの笑みで、優二はケタケタと笑った。
ケタケタケタケタ
「なっ・・・・・」
ケタケタケタケタケタ
「っ・・・・・・!?」
ケタケタケタケタケタケタケタケタ・・・・
「くっ・・・・もう一度!!」
バルドは優二を蹴り飛ばそうとした。
ゴッ!!
これ以上ないほどの蹴りが優二に当たった。
しかし、その蹴りが当たってもビクともしない。
まるで大木を思い切り蹴ったときのように優二はピクリとも動かず、ただ笑っている。
ケタケタケタケタ・・・・・
「うっ・・・・」
ドッ!!
ケタケタケタケタ・・・・・
「クソッ!!」
ガッ!!
ケタケタケタケタ・・・・・
「うっ・・・・・」
恐怖に駆られたバルドはただ闇雲に、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
優二を殺すつもりで攻撃した。
ガガガガガガガガガガガガガ!!
連蹴り。無数のけりが優二に吸い込まれてゆく。
ケタケタケタケタケタ・・・それでも優二は黙らない。
むしろ声は徐々におおきくなってゆく。
あまりの恐怖にバルドは渾身の一撃を繰り出すことに決めた。
「これならぁ・・・・どうだぁっ!!」
「バルドッ!!駄目だ!!優二を傷つけるな!!」
「それはできませんエリィ様!!怒竜!!」
ズドン!!
「ケタケ・・・・・・・・・かはっ」
優二の狂笑が止んだ。
当り前だろう。腹に穴を開けて笑っていられる人間など居ない。いや、居てはならない。
バルドが怒竜と叫び拳を振った瞬間、周囲に炎が飛び散った。
その炎は一瞬で消えたが、その炎が消えてから優二を見てみると腹の真ん中に10センチほどの穴が開いていたのだ。
「許せ・・・・。」
バルドがそう言った瞬間、優二はゆっくりと倒れた。
「ゆ・・・・・優二・・・・・・・・。」
バタンッ。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
うん・・・なんかグダグダかな?
勉強しなくちゃな・・・・