第十四話:食堂にて。友情再確認?
食堂は大勢の人で賑わっている。バイキング方式の食事、それぞれ好みの料理を皿に盛って自分の席へと持っていく。人々の中には食事をしつつ親交を深める光景も多く見られた。そのなかで、エクステリオル入学者達は一つの大きなテーブルに集められていた。
みな若く最低13歳最高19歳と言ったところだろうか。貴族の推薦を受けた平民もいれば貴族も居て、それでいて互いの立場など関係ないとばかりに語り合う。
しかし殆どの者は内心穏やかではいられなかった。
実際、エクステリオルへ入学が決まったものは貴族だろうが賤民だろうが肩書きが同じ「エクステリオル校生」となる。それでも上級生だろうが下級生だろうが立場は変わらない。
一応「貴族専用」戦闘術学校とあるが、貴族の推薦を受ける平民――主に使用人や護衛。しかもその推薦は意外と簡単に貰える――もいるし、「戦闘術」学校なのだから上に立ちたければ闘い、勝て。それがエクステリオルの校訓第三条「闘いに勝利した者が勝ち」である。
エクステリオルへ着いたとき、誰が敵に回り誰が味方になってくれるか・・・それを探るために話し、相手の心の内を探り、味方になってくれるように誘導する。食事と共にそれをするのでエクステリオル入学者は必死だった。
しかし、その入れ替わりの激しい中でさっきから一定の人数でしか話していないグループがある。
そう。優二たち3人と佐古誠司ら4人である。
「ふぅん・・・誰が貴族なのかって思ってましたけど佐古さんだったんですね。自分としては鈴浜さんかと・・・落ち着きもありますし、気品があるので。」
「ちゃうちゃう。確かにはたから見とったら落ち着きあるように見えるけど単に無口なだけやねん。そのぶん行動で感情を表わすから怒らせたら怖いでぇ〜。」
「・・・・(ゴトン)」
「い、いや紹介してるだけやん・・・そこまで怒らんでも・・・・」
「フフフッ・・・でもその割には使用人って感じがしないな。みんな仲がよさそうだし・・・幼いころからの親友って感じがするぞ。」
「あ〜それは合ってるよ。僕たち3人は使用人の子供で、12歳までは誠司の遊び相手が仕事だったから。ねっ、シオ。」
「ああ。・・・オレが佐古家お抱えの大工の息子。理沙は警備隊のなかでも強い警備員の娘。結花は書庫管理人の養子だったな。毎度誠司の我儘に付き合わされてこっぴどく怒られたもんだ。」
「・・・・・(コクリ)」
「ちょ、シオそんなこと言うなや〜!?。小さい時って男の子はわんぱくが一番やねんで!?」
「だれがそんな突っ込みどころ満載の事を決めたのかは知らんがそれは間違った知識だ。」
「そんなこと言わんと〜・・・それにしても」
そこで言葉を切って誠司は優二を見た。
「ホントすごい食欲やな・・・あのほっそい体のどこにはいっとるんや?」
もぐもぐもぐもぐモグモグモグモグ・・・!!
優二は2つのテーブルの料理を食べつくし、3テーブル目を制覇しに行っていた。
「・・・それは人類の神秘なのだ。しかしそれにしてもホントよく食う・・・。」
「消化不良とかおこさないのかな?僕ちょっと心配だよ。」
「大丈夫ですシングウさん。そこまであの人は繊細じゃありません。」
がつがつがつがつガツガツガツガツ・・・!!
「・・・・くいしん・・・・ぼう・・・」
「・・・・俺もあそこまでは食えんぞ。大食い選手権とかに出たら優勝するんじゃないか?」
「・・・今度稼ぐためにやらせてみるか・・・」
ゴックゴックゴック・・・プハァーッ!!モグモグモ・・・ゴフッゴフッ!!
「むせたな。」
「むせましたね。」
「むせたなぁ。」
「むせたねぇ。」
「・・むせた・・・」
「むせてるな。」
「やっかましいぞお前ら!!」
クワッと振り向いて一喝する。
「ちょ、やめてください食べカスが飛びます・・・」
「うるさい!!俺が大食らいって言うより飯がうますぎるんだよ!!食わなきゃ損だ!!」
『・・・・・・・・・・』
「・・・な、なんだよその憐みのこもった眼は・・・」
かわいそうオーラを込めた視線が優二に突き刺さる。
「哀れな・・・・今までジャンクフードしか食わなかったんだろうか・・・」
「この程度の料理やったら毎日食ってたで・・・」
「・・・家に居る時にあいつが食べてた食事はどれぐらいの品質だったんだ?シュガ。」
「えーと、料理長たちの話では残飯だったらしいですよ。庶民向けの。」
「・・・しまった・・・目を離しすぎてたか・・・安心しきっていたが・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・かわいそう・・・・・・・・」
「ボク・・・エクステリオル目指す人にこんな人がいるなんて思わなかったよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
皆口々に勝手なことを言うと少しひきつった笑みを優二に向けた。
「・・・うん、もう邪魔せえへんから好きなだけ食べとき。あとで話せばええねん・・・」
「・・・そうだね。ボクもそう思うよ・・・」
「・・・わたしも邪魔はしないぞ。」
「・・・待ってますから・・・好きなだけ楽しんでください・・・」
「・・・・・・・・・・・・・食いつくせばいいよ・・・・・・・・・・・・」
そういうとまた顔を合わせて世間話をし始めた。しかし時折こちらをコッソリ窺っている。
皆がそう言うものだから食事に一旦は戻ったが・・・やっぱり視線が気になって集中できない。
「・・・、こんな状態で食えるかよ・・・もういいよ・・・・なんか話そう・・・」
そう呟き、テーブルに戻ることにする。
しかし手に取った特大サイズの フライドチキンらしきモノは手放さなかった。
食事を終えた優二たちは色々な事を話した。
何も知らない優二に(誠司達には記憶喪失だと嘘をついた)世界の常識・・・各地方の特色・・・それに『能力』の歴史・・・そこから一転し砕けた話題・・・何の食べ物が好きだとか・・・腕相撲で力を競ったり・・・言葉遊びをしたり。その中で全員、いつしかお互いを好きなように呼べるほどの仲となっていた。
時間をかけたわけでもないのにここまで仲良くなれるというのは優二にとって初めてだ。
違う時代、気に入らない奴もいるだろうと思っていた。しかし、そんなことはなかった。話してみれば気持ちいいほどいいやつらで・・・話の中で不快に感じた時など一瞬たりともなかったのだ。・・・あの事件以降優二は少しづつ記憶を取り戻す。夢を見てうなされたり、一人で用を足しに行った帰り眩暈のように訪れる記憶。それらはこの時代に来る以前何をしていたか。どうやってここへ来たのか。自身は何故メルテナの裏路地にて倒れていたのか―――。全てを説明することができるほどの明確な記憶。
シュガやエリィには一言も言っていない。ただでさえ自分が信じていないのに人に話して肯定されるのが怖いから。事実だと認めたくはないから。他にも可能性があるはずだと―――そう、思いたいから。
・・・楽しく談笑をしているとリン、リンと鐘の音が鳴った。料理人らしき人が小さなベルを振っている。
そろそろ食事もお開きである。
優二も流石に腹はふくれたようでコーヒー(この時代にもあった。意外と時代は違っても食事や基本的なマナーは変わらないものである。)を誠司達と啜っていた。
エリィはミルクティー、シュガは抹茶、結花はオレンジジュースを飲んでいたが誠司、理沙、シオはコーヒーである。
やはり好みは分かれるらしく、誠司はアイスでガムシロップ2つ、ミルクをひとつ。理沙はアイスでガムシロップ5つ(!!)ミルク3つ。シオはホットでブラック。
誠司やシオは理解できるが理沙はもはやコーヒー牛乳である。
『極度の甘党』という呼び名が浮かんだがそんなものでは言い表せるほど簡単ではないと頭を振った。
「・・・?どうしたのさ。傍から見たら楽器が無いのにヘッドバンキングする変人だよ?」
「・・・いや、お前の将来の健康について・・・・」
「???」
「いや・・・なんでもない。」
「変な人だねぇ優二は。」
「そうか?」
「いきなり将来の健康がどうのこうのって言う人は変だと思うよ。」
「あははっ、そうだな。確かに変だわ俺!」
楽しい時間は過ぎる。・・・いつのまにか結花が俺の腕にもたれかかって寝ていた。
まったく・・・あまり発言しないとおもったら眠かったのか。
「そういえば優二ってどこ出身やのん?」
「え?」
「いや、エリィん家で世話んなっとんのは聞いたけど・・・あ、そうか。記憶喪失やったな。悪い。」
「いいよ別に。気にすんなって!!」
「いやホンマ悪かったわぁ。」
「しょうがないって。よくあることじゃん、気にすんなよ。」
リン、リン、リン。
どうやら食事は終わりのようだ。周りのメンバーも次々と席を立つ。時計を見ると11時だった。
「・・・俺らも部屋に行くか。船旅は長いから、明日話せばいいことだし。」
「せやな、行こか。・・・おい結花。起きんかい。お前優二の腕に涎垂れてんで。」
え!?
「・・・ふぁ・・・・?・・・!!」
寝ぼけた眼から一転、結花が血相を変えて俺の服を拭きにかかる。
・・・おいおい、子供か・・・いや容姿は子供だけど・・・・
結花は恥ずかしそうに頬を赤らめ俯く。まあそりゃそうだ。俺なら恥ずかしさの余り暴れまわりそうな事態だからな。
「・・・ごめんなさい。」
ぼそりと、しかしはっきりと俺の耳に届く声で彼女は呟く。
「いやまぁ、なんだ・・・気にするな、うん。そう言うこともあるさ。・・・うん。」
俺は曖昧なことを言ってはぐらかすと行こうぜ、と言って一気に仲良くなった皆と船室に戻った。
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