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48)迷える未来

  

  

「───────────────」


 テツが正面に立ち、無言の会話を始めた──ような気がする。

 赤く燃える双眸で俺を睥睨してくるが、その奥で何かを語りかけてきた──と思う。


 初めて出会った頃は、この眼で睨まれた瞬間、絶対に食われると思った。最近はその瞳の奥で揺らぐ一種の感情のようなものを読み取れるまでにはなったが、それでも睨まれると、未だにちょっと足が(すく)んでしまう。


 銀狼は何事もなかったように数歩下がると、尻を地面に落として大きな舌をハフハフと数回出して息をした後、ぷいとあらぬ方向を向いた。


「なんだぁ?」


 何を俺に伝えようとしたのか、さっぱり通じないのでクルミに尋ねる。

「テツは何んて言ったんだ?」

「ご褒美に、テルさまたちをお好きな時間域へご招待してもいいそうです」

「やったぁぁぁ~」

 黄色い声を上げてぴょんと跳ねたのはサクラだけだ。


「ちょっと待てよイチ」

 これでは俺の記憶と異なる歴史が流れる。

「本来なら恐竜のトオルを捕まえてイプシロンの博物館に引き渡すことになるんだろ?」

 忍者野郎の肩を寄せ、小声で訊いてみた。


「その時間流はすでに消滅した。この流れが今のトレンドだ」

「お前、古臭い言葉を吐くなぁ。21世紀ではもう使わんぜ。死語だ、死語」


 イチは不思議そうな顔をして言い直した。

「では、メインストリーム(本流)だ」


 アホだこいつ。


「お前、忍者捨てたのか? 藤吉が居なくなったからって、無理して英語を使うことないだろ」

 ヤツは俺の忠言など無視して、

「どこへ行きたい? どこでもいいそうだ」


 死語辞典を体全体で表現する忍者野郎がそう言うが、俺はどちらかというと、もううんざりだった。未来へ行って、せっかく安定した館長やサキたちの暮らしを変えたくないし、過去に行けば行ったで、それこそ俺たちが(じか)に影響を受ける。


「もうどこへも行きたくない。自分の時代に帰り……痛ででででで」

 俺の切なる懇願を無理やり捻り潰そうと、サクラのヘッドロックが頭蓋に入った。強烈な痛みと肩に圧し掛かる柔らかい感触。天国と地獄を同時に味わえるあいつならではの攻撃が炸裂した。


 痛みが薄れるまで体をくねらせていると、その間にサクラの希望で俺たちの時代よりほんの少し未来に行くことに決定していた。サバイバル部の部長、さらには未来を救った救世主をのけ者にしてだ。


「どれぐらい先へ行く気だよ? 突拍子もない未来に行っちまって未来人にとっ捕まったらマズイぜ。藤吉を21世紀に連れて行くようなもんだ。また何らかのトラブルに巻き込まれるのが落ちだ。もうやめて家に帰ろうぜ」


 拒絶感むき出しの俺の忠告なのに、サクラは聞きゃあしない。


「あたしたちがまだ生きてる未来がいい。そしてさ、未来のその姿をこっそり見るのよ。ロマンチックね~」

「何がロマンチックだ。平気でミミズなんか食うヤツに、そんな言葉を使う資格はねえ」


 サクラは信じられない、とでも言いたそうに頬を散々膨らましてから、

「意外とおいしいのよ。テルも今度食べたらいいよ」

「おっぇぇぇっだ」

 マジで吐き気を覚えた。


「それよりな。こっそり見るぐらいなら問題ないが、間違っても顔を会わせてしまったらやばいんだぞ。頭が割れそうに痛くなるからな」


「テルのいうことも間違っておらぬし、サクラどのの夢想的な気持ちもわかる。では40年ほど先にして、その時代のお前らと出会わない条件で実行しよう。場所はこの辺りでじゅうぶんだ」


 俺はきょろきょろ周囲を見渡す。

「この辺りって言ったって、熱帯のジャングルにぽっかり空いた広っぱみたいな場所だ。ここの400万2057年後って、」

 と言ってから、急いで訊き直す。

「だいたいここはどこなんだよ?」

 そう尋ねるのが当然だ。俺は昨日までオーストラリアの南東1400キロの砂漠にいたんだ。


「場所は知らなくていい」

 イチはあっさりとそう言い、草っ原をテツがトストスと歩み寄り、クルミを中心に円陣になった。


「ちぇぇ。やっぱ行くのか……」

 俺は自分のリュックを急いで拾い上げると、布製のバケツに入った水を焚火にぶっかけ、その上から砂を被せ、確実に消えたのを確認してからサクラの横に立った。


生真面目(きまじめ)なヤツだな」

 と言うイチの声に、

「火の後始末はキャンパーの義務だぜ」

 イチが鳴らした鼻の音を合図に霧が下りてきた。





 次に霧が晴れるとそこはどこかの公園だった。遠くに見慣れない遊具らしきものが並び。ツルピカのベンチが何列か並んでいた。


 人は誰もいないが、よく整備された住宅地に囲まれた公園だった。並んだ樹木の向こうに綺麗にそろった二階建ての家が列をなしているところなんかは、新興住宅地、あるいはベッドタウンみたいにも見える。


 家屋は21世紀のものとさほど変わらない。強いて言うと瓦屋根の家がほとんど見られないのは、耐震を考慮したせいかもしれない。そして電柱が取り去られ、張り巡ぐる電線が消えていて、とてもすっきりとした青空が広がっていた。


 400万年という時の流れは、山並みの隆起もすっかり変化しており、まるっきり別の土地に変貌していた。はっきり言って、南米のジャングルから日本の都市近郊へ瞬間移動したのと何も変わらない。


 視線を公園内に戻す。

 すぐそばにあった砂場を覗いた途端、首をかしげた。


「砂っぽくないな?」

「滅菌ポリマー製の化合物だ」


「何だそりゃ?」

「平たく言えば、抗菌された人工砂だ」

「抗菌、抗菌って。そんなことするから人間どんどん弱っちくなるんだ」


 サクラがしゃがんですくい上げる。それは手の隙間から水のように流れ落ちた。

「でもサラサラ感が気持ちいいよ」

 すぐに砂遊びを始めたクルミとサクラを放置して、俺は近くにあった動物をイメージした丸っこい遊具に尻を落とした。


「どうせこの遊具も抗菌性だろう?」

 イチは静かにうなずき、

「2057年。少子化はますます進み、子供は過保護に育てられている。通常、公園は無菌の屋内にあるのが普通だが、ここのように屋外にあるところを見ると、だいぶ昔の施設だ。この辺りはまだ田舎だからな」

 まるで自分の故郷に帰ったような口調だ。


 視線を感じて道路のほうへ向くと、公園の外を歩いていた人が俺たちを訝しげに見ながら足早に消え去るところだった。


「イチ。お前らちょっと目立ち過ぎないか?」

「どういう意味だ?」

「その忍者装束と刀。本物の日本刀だぞ。誰かに見つかったらぜってぇ通報される。それと、」

 俺はテツへ向かって、

「お前だって、そんな牙むき出して鋭い目つきをするな。リード無しで歩いていたら即行で保健所が……あっ」


 やはりこの狼。ただ者ではない。いや、ただの銀色の狼ではない。俺の言葉をちゃんと理解している。

 口元の筋肉をたおやかに緩め、立てていた耳をたらりと垂らし、研ぎ澄まされた眼光を柔和な光に戻して、はっはっ、と息をするところなんか、まるでよく飼いならされた穏和なゴールデンレトリバーかと見紛う変身ぶりだ。


「お前……。いつもそうしてろよ。そしたらもうちょっと、気が休まるんだがな」


「───────────」

 テツは黙って俺を見上げただけで、ワン、とも言わなかった。


「クルミちゃん。これを使うといいよ」

 サクラからテントに使うロープを貰い受け、それをテツの首元に回してリード代わりにし始めたが、おとなしいもんだ。されるがままに身を預けている。


 もし同じ作業を俺がやったら、たぶん瞬時に押し倒されて喉元に喰らいつかれたかもしれない。なにしろこいつは相手が何であれ、容赦しない性質(たち)だからな。


 続いて、イチに視線をやる。

「それがしの恰好はテツのようにはいかぬぞ」

「どうしたらいいんだよ?」

「スーパークラスの思いによってインスタンス化しているのだ。お前らの協力が必要だ」


 面倒くさいがそのとおりだ。イチはサクラの、クルミは俺の潜在意識の奥底から湧き出たイメージで実体化しているに過ぎない。


 だけど──。

「誰かに見られるとまずい。ここで変身するのはまずいだろう?」


「ではあそこのお(うち)をお借りしましよう」

 クルミが指差したのは、公園の隅っこにあるトイレ。

「あれは家じゃないけど……」

「しかしそれがしと姫様が一緒に入るというのは……」

 こいつ、ちゃんとトイレの意味も、わきまえ方も知っているじゃないか。


「クルミちゃん。一緒に行こう。連れションよ」

「こ、このバカ……」

 顎の外れた河馬(カバ)みたいに口をぱかりと開けさせ、俺を唖然とさせたサクラとクルミは、連れ立ってトイレに消えた。


 あいつは恥じらいという言葉を持ち合わせていないのか?

 無いんだろうな──平気で草の中に入ってコトを済ますオンナだもんな。


 イチもトイレに入る二人を眺めながら俺にひと言付け足した。

「姫様の服装はお前の思念のみに頼っているのだ。とんでもない物だけは控えるのだぞ」


 そんなことを言われたって……。

「お前らの場合もスキンっていうのか?」

「我々はアンドロイドではない。あくまでもスーパークラスのインスタンスだ」


 どちらにしてもよくわからない説明だ。でもそれがどう違うのかなど、今は知る必要は無い。それよりもこの時代で目立たない服装って言われても、そのほうが問題だ。イチの忍者装束よりはましだろうが、俺のジーンズ姿だって、40年後のこの時代だと浮いているのかもしれない。


「念じるのは可能だけど、どんな服装がいいんだろ?」

 俺の戸惑いにイチも納得する。

「ふむ。確かに資料も無しでいきなりというのは酷だ。ではテツ頼むぞ」


 おいおい。狼にファッションを問うって、どうよ?

 俺の疑問は瞬時に晴れた。


 あ……なるほど。


 テツはイチに命じられて、園内を風のように駆け巡り、ごみ箱に捨てられてあった雑誌を咥えて戻ってきた。


「ちょっと話が出来すぎじゃないか?」

 と言いたくなるのも当然だ。俺の足元にポトリと落とされたティーン雑誌。それも女子のいまどきファッション、と書かれたページがペラリと広がったからだ。


「なんだぁ? 40年も経つとこんな服装に変わるのか……」

 白いワンピースの裾がひざ上、超ミニの位置から足首に向かって大胆に斜めにカットされたスカート姿の少女が掲載されていた。

「右足は超ミニで左足のほうがロングスカートになってるんだ」

 これって風が吹いたらどうるんだ?


 好奇心のおもむくままページをめくってみた。

「ほう。未来はこうなんのか。すげぇな……。それより、これってスカートか?」

 と困惑した声を出すのは仕方がない。短冊風のカラフルな布地を腰にずらりと並べた少女が街を歩く写真だ。


「これだと歩くたびに中が丸見えになるんじゃね? もはやスカートとは言えんな……おぉぉ何だこれ!」

 ページをめくるごとに冒険的なセンスを見せつけられて、煩悩が肥大化する。21世紀のギャルファッションが上品に見えた。


 この雑誌を持って帰れば、俺はファッション界に一石を投じられるかもしれない。などという考えはイチが蹴散らした。

「若者文化はテレビが媒体なのだ。お前がファッション関係、あるいは人気タレントにでものし上がれるだけの素質を持っているのなら別だが、」

 ふんと鼻を鳴らし、

「その容姿では到底あり得ない。ただのバカが何か言っている程度にしか取られない」


「くそっ」

 悔しいがイチの言うとおりだろう。

 気落ちすると共に、クルミの容姿を頭に思い浮かべつつ、さっきの白ワンピースの写真を睨み続けた。



「う~ん」

 何とも言い難い気分だった。


 40年後のティーンズファッションに身を包んだクルミは、幼げではあるが雑誌のとおりに変身し、サクラと共に目を細めて見ることができた。少し足にまとわりつくロングスカート部分が邪魔そうだが、それはパレオとは少し趣が異なる。強いて言えば腰まで深いスリットが入ったチャイナドレスが、風に舞った瞬間のようなデザインだ。そこから覗く白い片脚は目を見張る美しさだった。


 問題はこいつだ──。


「お前……忍者衣装のほうが似合ってんな」


 イチはスーパースリムストレートのジーンズに襟の大きな白いシャツ。その上に茶系統のジャケットを羽織っている。シャツの襟が大きく開いて、筋肉隆々の胸元が覗いていた。その姿は繁華街を闊歩する怪しいスカウトマンのようだ。


「お前。忍者やめて遊び人になるか?」

「ふっ。つまらん冗談は言うな」

 まんざらでもなさそうな、爽やかハンサム顔をこっちに向けた。


「イチはいろんな時代を渡り歩いてますから」

 クルミちゃん。いまのは褒め言葉じゃないんだけどな……。


「ちょっといいかな?」


「なぁぐぁー!」

 叫びを上げる寸前に、その声を飲み込んだものだから、とってもおかしな声が出てしまった。だって肩を突っつかれて振り向いたら、そこにいたのは警察官なんぜ。


 40年という時間を経ても一目でわかる。ラフな服装になってはいるが、腰に拳銃をぶら下げる人物といえば、警察官以外にあり得ないだろ。

 さっきの通行人が通報したのだと思われる。俺たちを見るなり足早に消えて行った先は交番だったんだ。


 警官はリードを緩く握ったクルミへ優しげな視線を振り、

「おかしな恰好をした変質者が大きな犬を連れているという連絡があったんだが……この犬、キミたちの犬?」

 俺たちには懐疑の光で満たされた瞳を向けた。

『変質者』の部分は俺も賛同するが──警察官はテツを指差して職務質問というやつをぶっ放したのだ。


「あ、あ、あの……ですね」

 必死でごまかしの言葉を探しまくるが、こういうことに慣れていない俺には何も出てこない。


「お巡りさん。わたしたちは盲導犬の訓練をしていたのです」

 しゅっと自然に言葉を綴り出したのはクルミだった。テツはテツで、これまでに見たこともない従順で優しそうな表情を浮かべると、警察官の足元で腹を地面にくっつけて静かにした。


「おとなしそうな犬だね。通報では狼みたいに強暴そうだといっていたけど……変な恰好の人物もいないし……」

 俺とサクラが伏せ気味に、イチの顔を窺う。


 イケメン野郎はこれまでにないハンサム風を吹き荒らし、

「ああぁ。その人ならさっき向こうのほうへ逃げていきましたよ。この犬が吠えたからです。きっと犬嫌いだったのですね。盲導犬はご主人を守るために、時には勇敢に戦うものですから」


 ぬぁんだぁぁ、その口調。エリートサラリーマンみたいな物の言いをするな!

 いつもの二階から命じるような時代劇調はどこ行ったんだ。背筋に鳥肌が走るぜ。


 警官はころりと騙されたようで、

「そうか。もし見つけたら、すぐ向こうに交番があるから通報してくれ……、ん?」

 向こうへ去ろうとした、その視線が再びこちらに跳ね返った。

「きみ、手に持っているもの……何?」

 イチが片手に握りしめていた物体──。


「ぬぉぉ~~っ!」


 もうだめ。言い訳のしようがない。だってそれはいつも背中にぶら下げていた日本刀だった。


 まだ持ってたのかよ~~~~~~。

 俺の心の雄叫びだ。


「何それ? まさか日本刀じゃないよね? 模造刀でも持ち歩いちゃ罪になるからね。ちょっと見せて」


「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

 もっとも簡単な一文字しか頭に浮かばなかった。人間慌てるとこのザマだ。脳みそ真っ白けさ。


 胸中で思いっきり叫ぶ、

(みろー! 言っただろ。近未来なんかに来るのは嫌だって!)


「そ、それはですね。劇で使うおもちゃでして……」

 俺のいいワケなんぞに聞く耳を持たないのが警察官で。当然、40年後の未来だからと言って日本刀の所持が許されるハズもない。


 警察官はイチから刀を取り上げると、俺の前でしゅら~んと抜いた。


「きゅ──────」


 間抜けな音を上げ、中から花束が飛び出して……咲いた。

 柄から先が作り物の花になっていて、手品でよくみるヤツだ。それと入れ替わっていた。


 笑いながら去っていく警察官を見送り、気の抜けた声を出す。

「ちょ、ちょっと休ませてくれ。腰に力が入らん」

 気力だけではなく魂まで抜け落ちて、遊具にもたれかかる俺だった。



「おじさんどこからきたの?」


「うぉぉ~い」

 間髪入れずに後ろから声をかけられたら、ぴょんと飛び上がるというもので。


 勢いよく反転して振り返ると、そこにはどんな染料を使えばそこまで純白になるのだろうかと思われるほどに、何の色にも染まっていない無垢で純朴な幼女の瞳がこちらを見つめていた。


「おじさんではない」

 天使のような子を上から睨みつける忍者野郎。我慢できず二人のあいだに割り入る。

「イチ! 怖い顔を向けてやるな。警官への態度と真逆じゃないか。忍者は弱者を助けるもんだぞ」


 と言ってからその子の様子を覗いた。こんな忍者装束できつい言葉をかけられたら、相手は子供だ、泣き出しでもされたらまずいだろ。


「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 もうさっきから俺はどうしちまったんだ。叫びどうしだ。喉がひりひりするぜ。


「お前! 忍者に戻っちまってるじゃないか!」

 イチは黙って、サクラを見つめる。


「だってぇ。イチさんはこうでなくちゃ、イチさんじゃないもの」


「ば、ば、ば、バカ野郎。西暦2057年だぞ。忍者は絶滅してんだ。もういない。解るか? おバカなサクラちゃんよぉ~」


「だってぇぇ」


「だっても、あさってもねえ。元に戻せ!」

 サクラには怒鳴りつけ、イチには苦言を申す。

「お前も時間族なんだから、ちゃんと時間規則を守れよ。さっきのハンサムボーイに戻るんだ。いいな今すぐに!」


 イチは黙って、ティーン雑誌の後のページを開いて見せた。

「おーのぉ~~~」

 来年の最新ファッションはこれだ! とかいう欄に、忍者装束でポーズを決めた数人の男性モデルの写真が……。


 こんな恰好が流行(はや)るなんて───、

 2058年は世紀末だ……また宇宙が終わるのか?


 勘弁してくれよ……。


「じゃぁ。さっきの通報者は年寄だったということか……」

 若者のファッションが理解不能なのは、どこの時代でも年寄特有のことなのだな。


 幼女もイチの姿を見ても、けろりとしており、

「ニンジャのおじさんはどこからきたの?」

 などと(いと)けない質問をするし、

「我々は紀元前400年から来た」

 イチはくそ真面目に答えているし。バカだこいつ。


「あ。あいつら~。真面目にやれよ」

 真面目に何をやるべきなのか、俺もよく理解できないが──、

 サクラとクルミは砂遊びに戻っており、テツがそれを横からじっと見つめていた。


 俺の苦労は誰も解っちゃくれねぇんだ。

 独り黄昏(だそがれ)ていると、

「あぁ。おすなあそびしてるのぉ? アタシもまぜてよぉ」

 人懐っこい幼女はサクラとクルミの仲に飛び込み、三人でトンネルを掘りだした。


 警戒心の薄いサクラとクルミは、すぐに仲良くなり。

「ねぇ? あなたこの辺の子?」

「うん。すぐそこ」

 小さな指で示すが、同じような家が並んだ住宅街だ。どこだかはよくわからない。

 それよりこの子。いやにイチに懐いていないだろうか。どういうわけだ。

 知らないまに駆け寄って、忍者装束にまとわりついていた。


 とても知らない人に接する態度ではない。親戚のお兄さんと遊んでもらっている、そんな感じがぴったりだった。


 イチはいろんな時代を渡り歩いてますから、というクルミの声がやけに生ナマしい───それは色々な女性と知り合えるチャンスがあるということ……か?


 マジかよ……。イチの野郎。

 人間と時間族ってありか?

  

  

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