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その放課後。
1日の授業がすべて終わると、私は桜が咲き乱れる学校のグラウンドへと足を運んだ。
帰宅部の私はいつもすぐに家に帰ってしまうのだが、今日は映画を見に行く約束をしているので良くんの部活が終わるまでここで待つことにしたのである。
グラウンドは斜面のある芝生に囲まれており、この芝生からはテニス部やら陸上部やらいろんな部活の様子がよく見渡すことができる。部活動に励んでいる人たちの活気のある声を聞きながら、芝生の適当な場所に腰を下ろす。どっこらしょ。
良くんは・・・お、やっとるやっとる。
サッカー部を見てみると今やってるのは練習試合のようで、大勢の部員がワイワイと玉っころに夢中になってるのが見える。
どうやらこの高校には活きのいい選手がいるらしく、シュートをことごとく決めている。まず球のコントロールがいい。それにまるでボールが生きてるかのように操っている。あの能力があれば彼はプロ入りできるんじゃないかと思ってしまう。よし、今からサインもらっとくか。そんで有名になったらフリマで売ろう。高値で売れるかもしれん。
攻守が切り替わったため見るのを一時中断し、鞄から大好物のポテトチップの袋を取り出してボリボリやることにした。
お菓子の袋を開けるため、真ん中のつまむ箇所とその反対側をつかみ、チカラいっぱい両手を左右に広げる。
・・・しかし袋は開かない。
も1度やってみる。それでも開かない。
何度もトライするが、ビクともしない。どうしても中身を見せたくないらしい。もはや、ここまでか・・・?いや、私には最後の手段がまだ残されている。思えば、この奥義を使うために私は生まれたようなもの。
「・・・これに・・・賭けてみよう・・・」
私は目をゆっくりと閉じ、フーッと深い息を吐いて精神を集中させた。
次の瞬間、カッと目を見開き―――――――――。
「うぉりゃぁあぁああぁあぁあああぁああああああ!」
「こんなとこで何してんの~?」
開こうとしていた手を止めうしろを振り向くと、私の背後に遥ちゃんが立っていて笑顔で私を見下ろしていた。
「は、遥ちゃん・・・!」
私は急に恥ずかしくなり、お菓子の袋を見えないように芝生に置く。
「あ、もしかして良くん見てたの~?」
遥ちゃんはグラウンドの方に目をやって微笑む。
どうやら奥義のことは見られていないようである。・・・ニヤリ。
「うん。あたし放課後いつもすること無いから。なんせ帰宅部なもので」
「ダメだよ部活しなきゃ~。遥も隣りで見ていい~?」
「うん、一緒に見よ」
彼女は私の隣りの芝生にちょこんと座った。
「遥ちゃんは部活行かなくて大丈夫なの?確か写真部じゃなかったっけ?」
「遥はいま部活中~」
グラウンドを見つめていた遥ちゃんは何かを発見したらしく、突然パシャッ!とデジカメをフラッシュさせる。遥ちゃんが撮ったデジカメの表示画面を覗き見すると、ベンチで部員の肩を揉んでご機嫌取りをしている貴志くんの姿があった。か、悲しすぎるっ・・・!
その後も遥ちゃんは彼の写真を撮り続けるが、どれもお茶汲みをしたり部員の靴を磨いていたり、口と鼻に割り箸を入れて腹芸を見せながら踊って部員を楽しませたりという世知辛いものばかりであった。
しばらく貴志くんのアホな行動を観察して2人で笑い続けていると、グラウンドにいたサッカー部の顧問の教師が貴志くんの行動に気付いたらしく、般若のような顔でベンチに近づいていく。そんで貴志くんは顧問に首根っこを掴まれて部室棟の奥へズルズルと引きずられて消えて行った。
「あははは~、バカな貴志く~ん!」
遥ちゃんの大笑いにつられて私はその一部始終を見ながらゲラゲラ笑って2人で芝生を転げまわる。
「あはは、・・・あ、ところで京子ちゃ~ん」
笑っていた遥ちゃんが何かに気づいたらしく唐突に質問してくる。
「ん、なーに遥ちゃん?」
「さっきから気になってたんだけど、その傷っていつ付けたの~?」
「え、傷?」
「うん。膝にあるやつだよ~」
遥ちゃんに指摘されたとこを見ると、私は自分の膝に傷痕があることに気がつく。
「本当だ。この傷・・・いつ付けたものだろ・・・」
・・・あ。
そうだ、これはあの森の中で付けたものだ。夢の中で必死に逃げ回っているとき、転んだときにできた傷だ。どうして夢の中で付けた傷があるんだろ・・・?
あの森の中で起きた出来事は、夢の中の事である。ベッドから落ちた時にできたんだろうか?答えがはっきり出ず、私は自分の膝をただ見つめるしかなかった。
「その傷、ムシャムシャ、大丈夫なの~?」
「うん、大丈夫・・・、って・・・え、ムシャムシャ?」
遥ちゃんの顔を見ると、口を何やらモグモグとさせている。
「ちょっと・・・なに食べてんのよ」
「ポテトチップ~。ここの芝生に落ちてたんだよ~」
「ちょっと!それあたしが置いといたの!こんなとこにポテトチップが中身丸ごと落ちてあるわけないでしょ!しかも未開封のやつが!なに人のもの勝手に食べてんのよ!」
私は遥ちゃんの両肩を掴んで揺する。
「ぼ、暴力はよくないよ京子ちゃ~ん!」
そのときグラウンドでボールを蹴る音がする。
「あ、良くんがシュートしたよ~。撮ってあげるね~」
遥ちゃんはそそくさとデジカメを手に取る。
「話をそらすな!」
遥ちゃんが調子よくデジカメをグラウンドに向けるのでその先に目をやると、良くんがゴールを決めたらしく、ボールがネットを揺らしていた。私たちの存在に気づき、彼はこっちに手を振っている。私もお返しに手を振る。
それを見て、遥ちゃんはまたカメラをフラッシュさせた。




