6
それから30分ほどで山に囲まれたド田舎にある『山鹿内駅』に着いた。
電車からぞろぞろと私の学校の生徒が降りていくので、私たちはおしゃべりをしながら無意識にこの集団のあとをついて行く。駅の改札口を抜け、弁当屋がある道路沿いをテクテク歩いて踏切を渡ると、もうそこは私の通う『私立アンテナ高校』だ。
良くんと一緒に下駄箱で上履きに履き替え、校舎と校舎をつなぐ長い渡り廊下を良くんと一緒におしゃべりしながら歩く。
渡り廊下を渡り終え、突き当たりのT字路で良くんが自分の方を向く。
「それじゃ京子ちゃん、またね」
「うん」
私が返事をすると、良くんは彼の教室がある廊下の奥へと消えていった。
そういえば、確かあの由美という子は良くんと同じ教室と言ってた気がする。ということは良くんはこれから1日中彼女と一緒に授業を受けるわけである。大丈夫なんだろうか、あんな子と一緒にいて・・・。
良くんのことを心配しつつ、私は彼とは別の方向にある自分の教室に入る。私の席は窓際の1番うしろ。寝るにはもってこいの席である。
朝のホームルームが終わり、午前中の授業が始まると各科目の教師が淡々と板書してゆく。窓の外を見ると外は春の陽気でポカポカしており、綺麗なチョウチョがヒラヒラ舞っている。それを見ていたら何だかウトウトしてきた。サラリーマン化した教師の講義ほど眠くなる音は無い。振り子の催眠術より催眠効果がある音波である・・・。
ええい、ちくしょう!いつまでもこんな茶番に付き合ってられるかってんだ!居眠りこいてやる!
私は教科書を立てて顔を見られないようにし、自分の腕を枕代わりにして眠りにつくことにした。ざまーみろってんだい!
そのあと「起立!礼!着席!」という声が何度か聞こえたものの、結局、1度も立ち上がらずに眠りにふけったまま時が過ぎていった。
だが私の悪行も限界が来たようである。眠っていることがついにバレたらしい。誰かが私の体を揺すっている。
「京子ちゃん起きて~」
「おーい起きろー」
目を開けると、そこには2人のクラスメートの姿があった。
2人の名前は青山貴志くんに、早苗遥ちゃん。私が親しくしている友達である。
「遥ちゃんに貴志くん・・・どうしたの?」
眠気まなこの私に、遥ちゃんは笑顔を見せる。
「もうお昼だよ~。お弁当一緒に食べよ~」
「おう。一緒に食おうぜぇ」
辺りを見渡すとみんな友達同士でお弁当を食べている。教室にいない残りの生徒は、食堂まで食べに行ってしまっていた。
「あ、もうそんな時間なんだ。うん食べよっか。ふわぁあぁ・・・」
遥ちゃんは私の大きなあくびを見入っている。
「京子ちゃん、もしかしてずっと寝てたの~?」
「ははは、いい根性してんなぁ」
貴志くんは豪快に笑い出す。
「えへへ、だって誰も起こしてくれないんだもん」
2人は誰も座っていない椅子を借りて私の机を囲み、それぞれ持ってきたお弁当を食べ出した。
私のお弁当は、お母さんが作ってくれた卵焼きとウィンナー。野菜は苦手なのでレタスぐらいしか入ってない。ご飯には朝と同じふりかけ。うーん・・・幸せなひと時である。
貴志くんは唐揚げを頬張りながら、得意げに話し出した。
「さっきの休み時間、モグモグ、良から聞いたぜ。今日、モグモグ、京子ちゃん、良と映画見に行くんだろ」
「え!なにそれ初耳~!」
遥ちゃんが顔にご飯つぶをつけながら、興味深げな表情をする。
「いいなぁ~、ゾンビ映画なんだろ、いま公開してんのって?あ~俺も行きてぇ~な~」
貴志くんは羨ましそうな顔でぼんやりと天井を見上げた後、遥ちゃんの方を見る。
「よし遥!俺たちも学校終わったら映画館に行こうぜ!な!」
え。お前も付いて来んのか。
「遥は怖いの苦手だから行きたくな~い!遥、クレーンゲームなら行ってもいいよ~!」
「何だよつれねぇなあ・・・。クレーンゲームか。確かデパートの屋上にあったなそんなの。おし!じゃ、学校が終わったらゲーセンに直行するか!遥の欲しいぬいぐるみ全部ゲットしてやるよ!」
「やった~!遥が欲しいの、ウサギのぬいぐるみだよ~。他のぬいぐるみは取ってもダメだからね~」
「あ、あぁ・・・。そういうとこはしっかりしてんだな・・・遥は・・・」
貴志くんはクレーンゲームの曲を口ずさみながら、遥ちゃんの弁当箱からウサギの形をしたリンゴを箸で抜き取った。
「あ!それ遥の~!」
遥ちゃんは箸を持っている貴志くんの腕を揺する。
「わかったわかった」
「ぶー!」
この2人のやり取りを見ていると、何か和むわい。
ガラッ!
気の緩んだそのとき教室のドアを思いっきり開ける音がした。驚いた私たち3人は箸を止め、一斉にそちらに注目する。
見ると、そこには鬼のような形相をした吉楽由美の姿があった。




