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バスは10分ほどで『慈本乃駅』に着き、私と良くんは急行電車に乗った。
面倒なことに、私たちは途中の駅でさらに別の電車に乗り換えなければならない。今更ながらこの高校を選んでしまったことを少し後悔している。
30分ほどして急行電車がその途中にある『真中駅』に着くと、私たち2人はすぐに電車を降りて駅構内にある階段を上り、別のホームに向かった。
次の発車時刻までは多少時間があるので、のんびりテクテク歩いていくのがお決まりのパターンである。
「京子ちゃん、いいものあげようか?」
良くんは歩きながらズボンのポケットをゴソゴソとやりだし、小さい銀紙を取り出した。
「何それ?」
私が聞くと、彼は笑顔を見せる。
「アメ」
「ぷ。そんなの持ち歩いてるの?」
良くんは銀紙を広げて丸い黄色いアメ玉を手に取り、私の口に近づける。およそ食べ物と名の付くものに関しては私は目が無い。ありがたく頂戴するわい。
「ありがと、あーん」
私の口の中にアメ玉が入ったと同時に、うしろから声が聞こえてきた。
「何してるの?」
振り返ると、そこには同じ高校の女性徒が立っていた。髪は赤毛のショートカット。胸元には赤いリボンを付けている。その表情はこわばっており、彼女は私を強く睨みつけていた。
「何だ由美か・・・」
「良くん、知り合いなの?」
私の問いかけに彼は頷く。
「うん。由美、どうしてこの時間にいんだよ?いつも1本遅らせて行くんだろ?」
良くんに言われた由美という子は笑顔を見せて、少し顔を赤らめた。
「良と一緒に行こうと思って・・・」
「ああ、そういうことか。いいよ、じゃ、3人で行こうか」
良くんは彼女と親交があるらしいのでOKしたが、私はこの子のことを知らない。というか良くんは話にも出したことが無い。
学校に行くまでの長い時間をよく知らない子と行くのは嫌なので、良くんにこの女の子が何者なのか聞いてみる。
「良くん、この子は誰なの?」
「ああそうか、京子ちゃんは初めて会うんだよな。こいつは俺と同じ特別進学コースの吉楽由美だよ。こいつこう見えて頭が良くてさ、わからない問題はよく教えてもらってるんだよ。なあ由美」
「あなたが京子ちゃんなの」
由美と言う名前の女性徒は良くんの問いかけを無視して、再び私を睨み付けた。彼女の目は明らかに私を敵対視している目だ。
「う、うん。よろしくね・・・由美ちゃん」
今にも殴りかかってきそうな彼女の鋭い目つきに、思わず目をそらしてしまう。
彼女はパッと見で160センチちょっと身長があり、150センチに満たない私と彼女とでは体格に10センチ以上の開きがある。どう考えても暴力では負ける。・・・体重では勝つかもしれないが。
由美という名の、この無駄に背の高い女から危険な臭いを感じ取った私は、身を守るために良くんのそばから離れないようにした。
由美ちゃんは私を見つめ、妙なことを言い出す。
「京子ちゃん、悪いんだけど口の中のもの・・・ちょっと見せてもらえる?」
「え?」
彼女の予想もしなかった質問に、少し拍子抜けしてしまった。
口の中のものというと、まことに恐縮ながらアメ玉をコロコロさせているが、もしかしてその事だろうか。
それ以外に彼女が興味を持つものが口の中にあるとしたら・・・、歯くそ?
「ほんのちょっとの間でいいから、お願い見せて」
由美ちゃんがまた懇願してくる。いずれにせよ殴りかかってくるわけではないようだ。
「み、見たいものってアメのこと?」
「うん」
由美ちゃんは目を輝かせて私の口元を見ている。
「ど・・・どうして?」
「どんなのをもらったのか知りたいのよ」
もしかしておぬし・・・子供か。
「別にいいけど・・・、ただのアメよ?」
由美ちゃんに見えるようにアメ玉を舌に乗せて口を開けると、彼女は素早く私の口に手を入れアメ玉を掴み取った。
「これは本当は、私がもらうはずだったの」
彼女は腕を大きく振り上げて、奪い取ったアメ玉を思いっきり地面に目掛けて叩きつけた。その瞬間、構内に大きな反響音がする。
さっきまで私が大事に舐めていたアメ玉は割れ、無残に砕け散ってしまった。私と良くんは、突然のことにしばらく呆然としてしまう。
い、いったい何なの・・・この子・・・。
「あースッキリした。それじゃ良、行こっか」
彼女はそのまま良くんの腕を引っ張った。
「ちょ、ちょっと待てよ」
良くんは彼女の手を振り払い、表情を険しくする。
「由美、京子ちゃんに謝れ」
「謝るって何を?」
「何をって・・・。決まってるだろ、今したことをだよ」
「あたしは自分の感情に従っただけよ。それの何が悪いのよ。さ!行きましょ、良」
「謝れ、由美」
良くんは彼女をまだ許していないようである。由美という子は良くんの真剣な目つきに圧倒されたのか、困った顔をする。
「何よ怖い顔して・・・。そ!一緒に行ってくれないなら、もういいわ!」
由美ちゃんはしぶしぶ階段の方へと歩く。だが立ち止まり、もう1度良くんのほうに振り向いた。
「先に学校に行ってるから、また教室でゆっくり話しましょ。ふふ」
彼女はニコリと微笑むと軽い足取りで階段を駆け下り、下で停車している電車に乗り込んでしまった。




