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意識が戻ったとき、私はいつものように自分の部屋のベッドで寝ていた。
頭にある目覚まし時計を見ると、時間はAM6時。・・・学校へ行く時間である。これで何度目の朝だろうか。
私はベッドから起き上がり、パジャマ姿のままカーテンの前に立つ。・・・何だか開けるのが怖い。窓の外がまた同じように闇に覆われていたら、かなりショックである。
だが意を決し、カーテンを思い切りめくる。
窓の外は太陽が昇っており、朝の眩しい日差しが暗い部屋の中に差し込む。下を見るとお隣りさんがゴミ出しをしている。あの暗黒の空間が元に戻っている。・・・よかった。
だがまだ解決してる訳ではない。また同じような毎日を送らないか確認する必要がある。
制服を手に取り、早めに着替える。部屋の中はいつもの如くゴッチャゴチャ。これだけは復元とやらで直してくれないらしい。・・・たまには掃除でもせんとな。誰も遊びに連れて来れんわい。
制服に着替え終わり、朝食を取るため鞄を持って1階のリビングへ向かう。
さっきみたく由美ちゃんがいる事も十分に有り得るので、リビングの扉をソロリソロリと開けて中を慎重に覗き込む。
リビングにはお母さんがいつものようにテレビのニュースに釘付けになっていた。
そんな朝の変わらない風景に、私は「またか」と溜め息をつきつつも、少しホッとする。安心した私は中に入り朝食の置かれているテーブルの椅子に座る。
でもその日はいつもと違うことが起きた。
「ただいまー」
そう、お父さんが帰ってきたのだ。
私とお母さんは目を合わせたあと、玄関で靴を脱いでいるお父さんのところへ走っていく。お母さんは久々の夫の帰りに歓喜して飛びつく。
「ちょっとあなた!どうして2年もあたしと京子の事ほったらかしにしたの?」
と、お母さんは涙を浮かべながら問い詰めた。だがお父さんの答えは意外なものであった。
「いやあ、何度も家に帰ろうとしたんだけど、どういう訳かなかなか帰れなかったんだよ。でもほんのついさっき、やっと帰れるようになったんだ。どうしてかはわからんけど」
言いながら、お父さんは首を傾げて頭をボリボリとかいた。それを聞いて、私はすぐにピンと来た。この世界の『故障』が直ったのだ。
今まで故障によって繰り返されていた世界が、元の正常なプログラムで動き出したのだ。それは、故障の原因であった『異物』を除去したからだろうと思った。
そう、それはこの世界を狂わせていたすべての元凶であるDr.ボマーが、完全に消滅した事を意味しているのである。
2人が感動の再会をしてあーだこーだと議論している間に、私はこっそり抜け出し鞄を持って家を後にした。
朝の太陽の光が住宅地に降り注ぐ。実に清々しい気分である。
お父さんが元に戻ったという事は、他にもいろいろとこの世界に変化が起きているのかもしれない。
貴志くんと遥ちゃんがまた仲良く話しかけてくれるかもしれないし、それに何よりも、もしかすると朝のバスにまた良くんが乗ってるのかもしれない。
「よし、確かめに行ってみよう!」
私は近所の犬に吠えられながら笑顔でバス停に向かった。
道路に出るとバスはすでに停車しており、最後尾にはイヤホンで音楽を聴く学生が乗り込んでいた。
ここまですべて今までとは違う現象である。私の世界は、ようやく動き出したようだ。
私も続いて通勤通学の利用者でごった返す混雑したバスに乗り込む。
込み合う車内でギュウギュウと押し潰されそうになりながらも、何とか近くの吊り革に捕まる。私は期待に胸を膨らませながら、1歩1歩ゆっくりと前の方の席へ進んでいく。
良くんは果たして戻っているのだろうか。もし戻っているなら、きっと私に席を譲ってくれるはずである。
彼には本当にたくさん助けられた。もし会えるならお礼をしなければならない。何をしてあげようか。そうだ、ポテトチップをあげよう。美味しいから良くんにも食べてもらいたいな。
良くんが座っているかも、でももしかしたら乗ってないかも、という期待と不安を抱きながら私はバスに揺られながらあの特等席へと歩いていく。
だがそこには私の期待しないものが座っていた。
目の前の席には、赤い髪の女の子がバスに揺られながら窓の外を眺めて座っている。見覚えのある後ろ姿である。
「私はこの世界の人間じゃなかったって言ったわよね。じつは無理やりこの世界に入り込んだの。あなたを殺すために」
女の子はスッと席から立ちあがり、近づいてきた私の方に振り向く。
彼女は私のお母さんのエプロン姿で、手にはキッチンナイフを持っていた。
「ゆ、由美ちゃん・・・?あ、あなたどうして・・・」
由美ちゃんは満面の笑みを浮かべる。
「京子ちゃん、あなたってホントに学習能力が無いわね。言ったでしょ?どんなに逃げようとしても絶対に私からは逃げられないって。うふふふ!」
どうやら私はこの世界のことを、そして由美という子のことを甘く見ていたらしい。
彼女の手にしたものが私の腹部に突き刺さる。
一瞬のできごとだった。哀しむ暇もなかった。私の制服が真っ赤に染まる。声も出ないまま、私は苦悶しながらバスの床に静かに崩れ落ちた。
出血がひどい。床に血だまりが広がっていく。全身から力が抜けていく。
それでも私は最後の力を振り絞って、手すりにつかまり、よろめきながら再び立ち上がる。顔の血を拭いながら、私は涙を流して必死に良くんを探した。
良くんはいつでも私のそばにいる。きっとまた私を助けに来てくれるのだと信じて。
だが最後の最後で、私の想いは届かなかったようだ。
諦めた私は手すりから手を放し、再び血だまりの中に沈んだ。
薄れゆく意識の中で、いろいろな疑問がふと浮かんでくる。
吉楽由美とはいったい何者だったのだろうか。
中村亜規とはいったい何者だったのだろうか。
蘇生装置とは、転生装置とは何だったのか。
そして終末の世界とは・・・。
死にゆく私にとっては、もはやどうでもいいことではあるが・・・。
それよりも良くんは元気にしているのだろうか。
こんな結果になって初めて、じつは私は死を怖れていない事に気づく。
むしろ、私は死を楽しみにしているのかもしれない。
なぜなら・・・。
これでようやく、大好きだった良くんにもう1度会えるのだから。
「バックファイア~愛のダウンロード~」完
最後まで読んでくれた方、お疲れさまでした!
ここまで個人の妄想にお付き合い頂き、ありがとうございました。楽しんで頂けたでしょうか。
自分の書きたかった事を出し切ったので、自分としてはスッキリしてます。
小説の掲載は「こつこつ出す」というより「まとめて一気に出す」というスタイルになると思います。気長にお待ちください。
ちなみに、この物語は毎回の主人公を変更していこうと思っています。
別の人物の視点から事件の真相に1歩ずつ迫っていきます。そこにはその人物でしか見れない新しい発見があるのかもしれません。
新しい登場人物も増やそうと思ってます。お楽しみに。
それでは「バックファイア2」でまたお会いしましょう。




