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屋上はゲームコーナーですべて占められていた。
空を見上げるともう真っ暗。デパートの周辺にあるビルのネオンがここからよく見える。
あっちこっちに取り付けられてる照明が、パンチングマシーンやらモグラ叩きやら、いろんなゲーム機をぼんやりと照らしている。
『京子ちゃんが欲しいのってどれ?』
『あたし、あの犬の人形がいいな』
良くんと私の声だ。2人は奥まったとこにあるクレーンゲームで遊んでいる。
『犬の人形?えっと、どれだ・・・お、あれか。京子ちゃんて犬が好きなの?』
『それもあるけど、あの手に持ってるヒマワリが好きなの』
『へぇ、そうなんだ。よーし、まかせて京子ちゃん』
私は遊んでる2人に歩いて近づく。
良くんの顔を見ると、彼は真剣な表情でクレーンを操作している。この距離でも良くんたちはまったく私の存在に気づく様子が無い。私はしばらく2人のすぐ真後ろに立って、一緒にクレーンのバケットの動きを目で追う。
クレーンゲーム機のガラスケースの中はいろんな種類の動物の人形がひしめいており、動物たちはそれぞれ別々の種類の花束を手に持っている。
『よーし、取れた!』
『やったー!』
どうやら例の人形をポケットに落っことすことができたらしい。嬉しかったのか、私が良くんの腕に喜んで抱きついている。
「ねぇ、ちょっと二人とも・・・」
私が声をかけると、良くんと私の2人はフッと目の前からいなくなってしまった。
・・・消えた。てことはあの2人もただの幻だったのか・・・。
ゲーム機の下を見ると、取り出し口に茶色のかわいい犬の人形が置かれていた。
「この人形・・・さっき良くんが取ったやつかな」
腰をかがめ、その人形を手に取ってみる。
ふむ・・・この人形は消えはしないようだ。犬の人形は、手にヒマワリの造花を大事そうに持っている。
「ヒマワリ・・・か」
ひょっとしたらいまの良くんの幻影もこのヒマワリも、誰かのメッセージ・・・だったのかな。この犬の人形は私に何かを伝えようとしているんじゃないだろうか?もしそうなら、一体何を・・・?
私、この場所に来たことがあるんだろうか?でもこんなとこでクレーンゲームをした記憶なんて、私にはまったく覚えが無い。一体今のは、いつ頃の私なんだろうか・・・?
「あら京子ちゃん。あなた高校生にもなってぬいぐるみが好きなの?お子ちゃまね~」
由美ちゃんの声・・・!
「ど、どこ!?」
私は必死に屋上の至る所に目をやる。由美ちゃんは・・・いない。
「じゃあ今度は、あたしが京子ちゃんのために取ってあげるわね。大きなお人形を」
ドゴッ!ドゴッ!
突然、どこかから叩く音がして地響きが起きる。その衝撃で各ゲーム機の窓ガラスにヒビが入り、デパート全体がグラグラする。
な、なんじゃコレは!?くっ!立ってられん・・・!
私は近くにあったレーシング系のゲーム機の椅子につかまり、周囲を警戒する。ゲームコーナーの中にも、いま入ってきた出入り口にも、由美ちゃんの姿はどこにもない。
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
乱暴な音だけが絶えず聞こえてくる。この音・・・後ろ!?
私がサッと後ろを振り向くと、柵で囲まれた機関車の乗り物の地面がどんどんどんどん盛り上がっていく。下にいる!
どうやら由美ちゃんは下の階から突き上げて、床のコンクリートを突き破ろうとしてるらしい。マズイ!ここから逃げなきゃ!
そう思った矢先、ボゴッ!という音と共に子供が遊ぶ機関車のレールをひん曲げて床を破壊し、コンクリの下から巨大な木のようなものが生えてくる。
ニョキニョキ。ニョキニョキ。
それは空の闇に向かって一直線にグングン伸びていく。隣りのビルが隠れてしまうほど伸びたあと、頂上部分が下に垂れてブランブランさせる。見た目は巨大なムカデ。顔の部分だけ由美ちゃんのままである。そのあまりの大きさに私は腰を抜かしそうになる。
な・・・なんちゅうでかさだ・・・!た、たぶん20メートルぐらいはあるかもしれん。
ブラブラと頭を垂らしていたモンスターは頭をググッと持ち上げ、こっちを見る。
「ほぉ~ら京子ちゃん、あなたのだぁ~い好きなクレーンゲームよ~。ふふふ!」
由美ちゃんは体を伸ばし、私の方へ猛スピードで接近する。
「わわっ!来る!」
逃げようとしたがまったく間に合わない!由美ちゃんは6本の足を使って私の体を素早く掴み取る。
「取れたお人形さんはいま上手に屋上から落とすからね。大きいのが取れてよかったわねぇ。うふふふふふふふ!」
由美ちゃんは笑いながら、メチャクチャ速いスピードで空高く上がっていく。
「のわあぁああぁああああああ!」
下を見ると屋上のゲームコーナーがどんどん小さくなっていく。どこまで上昇する気なんだ一体・・・!
ある程度の高さになると由美ちゃんはピタッと動きを止める。6本の足がモゾモゾと私の体中を這い回る。何だこの感触!気持ちワル!
「ぐぬぬっ・・・!」
チカラを入れて脱出しようと試みるが、由美ちゃんの足はビクともしない。それどころか逃がすまいとしてグイグイ締め付けてくる。
イタタタタタタ!全身の骨がきしむ!胸ぐらをつかまれるよりたちが悪い!
「京子ちゃん、助かりたかったら彼を呼び出してもいいのよ?できるんだったら」
由美ちゃんは私をつかんだままニュウっと体を伸ばし、屋上からはみ出る。
地上が見える・・・。路上に駐車している車がアリのように小さい。私がさっき歩いていた陸橋も小さく見える。あまりの高さに、見てるだけでクラクラしてくる。
「アメ玉を叩きつけられたあと、今度はあなたが地面に叩きつけられる事になるなんてねぇ。何てかわいそうな子なんでしょ、あたしに出会ったばっかりに」
由美ちゃんがニタニタ笑う。この気味の悪い笑みは、由美ちゃんのものなんだろうか・・・。それとも・・・。
「ふふふ、バイバイ京子ちゃん」
由美ちゃんは足を開こうとする。
「ねぇ由美ちゃん!あなた本当は、亜規ちゃんなんでしょ!あなたの仕業なんでしょこれは!Dr.ボマーとかいうバケモノの正体って、亜規ちゃん、あなたなんでしょ!」
「亜規?あたしは由美よ。亜規なんて子、ここにはいないわ・・・」
否定したあと、由美ちゃんはちょっと憂えるような表情を浮かべる。
「・・・いえ、いたかもしれないわね・・・ずっと過去に」
「過去・・・?」
由美ちゃんは6本の足を開き、まるで人形を落とすかのようにして私を屋上から捨てた。私は真っ逆さまになって急降下していく。
はわわわ!地上がどんどん迫ってくる!このままでは・・・死ぬ!
「だあれかあああああああ!たあああすけえてくれえええええええええええい!」
叫びながら私が落ちていくと、腕に抱えていた犬のぬいぐるみが青く光り出す。
その光に驚いてる暇もなく、地面はどんどん迫っている。いくら抵抗しても落下速度に逆らうことはできない。
「ふおおおおおおおおお!これが世に言う万有引力ってやつかあぁああぁああ!引きが強いなり!引きが強いなりいぃいいぃいい!」
死を覚悟して目を閉じながら絶叫し、私は歩道のコンクリートにおもクソ直撃する!
が、どういう訳かコンクリがグニャッと大きく沈み込み、トランポリンのように私はビヨ~~ン!と上へと弾かれる。
「ほわあぁあああぁあああああ!どうなっとるんじゃこりゃああぁあぁああぁああ!」
弾かれた勢いで私はガンガン上昇し、屋上でクネクネ動いてる由美ちゃんの目の前まで飛んでいく。そんでもってデパートの屋上にある例のクレーンゲーム機の前に私はドサッと落ちてゴロゴロと転がる。
私が死んでないことを知ると、彼女は怒りを露にする。
「まだ生きてるの京子ちゃん!?どうしてそんなにしつこいの!」
それはこっちのセリフである。こんだけしつこく訪問して来るのはお前か営業マンぐらいである。
「ええい!もういい加減に死ね!燃えて灰になれ!」
由美ちゃんは蛇が噛み付くように大きく口を開けて火炎攻撃をしてくる。炎に焼かれる直前、私が抱えていた犬のぬいぐるみが目の前に立ち塞がり、両手をバッと広げて炎に対して防御姿勢を取る。
「え!何?あなた動けるのっ?」
まさか景品のぬいぐるみが動くとは思わない。犬のぬいぐるみは不思議な力でバリアを張り、火炎攻撃を防いでいる。
「ちっ!ぬいぐるみのクセに火に強いなんてっ!ふんっ!おもしろいじゃない!やってごらんなさい!意地でも燃やしてやるんだからっ!」
由美ちゃんは火炎攻撃の火力を強める。犬のぬいぐるみは勢いに負けそうになり両手がチリチリとわずかに燃え始める。が、攻撃を抑えつつチラリとクレーンゲーム機に目を向ける。
ゲーム機のガラスケースの中には他の動物系のぬいぐるみ達が大量にある。犬のぬいぐるみは首をクイッと由美ちゃんの方にやり、ぬいぐるみ達に『行け』の合図を送る。
号令を受けてガラスケースから一斉にぬいぐるみ達がガラスをぶち破って飛び出してくる。大量のぬいぐるみ達は全員で由美ちゃんのムカデのような巨体によじ登っていく。その様子はまるでアリが角砂糖に群がるようである。
「ちょ、ちょっと!何すんのっ!邪魔よあんたたち!」
由美ちゃんはクネクネさせてもがくが、ぬいぐるみ達はしっかりとしがみ付き離れようとしない。
やがて何百とあるぬいぐるみ達の体がピタッと止まり、皆一斉に光り始める。
「や、やめっ・・・!」
言い終わる暇を与えずにぬいぐるみ達は大爆発を起こした。由美ちゃんを中心に光が放たれ、デパートそのものが爆風でグラつく。
私も爆発に巻き込まれ、由美ちゃんと共に光の中にかき消されてしまう。




