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私は花見台京子。今年の春に高校生になったばかりの現役バリバリの高校1年生である。
私の住んでるこの場所は丘の上にある閑静な住宅地で、今はどこもかしこも桜の花が美しく咲き乱れている。
高校はここからだいぶ離れたところにある。なので私は同じ住宅地に住んでいる幼なじみの良くんと一緒にいつも電車で通学しているのだ。
さっきお母さんが言ってたように、良くんは小さい頃から私のことを何かと心配してくれる。この高校の進学も私を1人にさせたくないという理由だけで同じとこを選んでいる。何故そんなに私のことを心配しているのかは、この16歳になった今もさっぱり解らずじまいである。
何か特別な理由があって彼は私と一緒の高校を選んだのだろうか。その理由が何なのかはよく分からない。
だが今はそんな事はどうでもいいのである。時間が無いのである。
私はバスに乗るため、親にもらったこのろくすっぽ前に進まない短い足で住宅地を駆け抜けねばならんのである。
愚痴をこぼしつつ右へ左へ、息を切らせながら迷路のように複雑な街路を走る。
ゴミ袋を持ったおばさんをフェイントでかわし、人んちの庭で飼ってるワンコロに吠えられビクッとしながら走ること数分、道路っぱたにある小さなバス停に到着した。
停留所を見るとすでにバスが停車していたものの、まだ最後尾のOLが乗車するところだった。
ふう・・・。何とか間に合ったようである。呼吸を整え、私も後に続いて素早く乗り込む。
扉はすぐに閉まり、バスはゆっくりと発車して地元の小さな駅に向かって徐々に速度を上げていった。
バスの中を見渡すと、座席はサラリーマンや学生たちにすべて座られている。
・・・まぁ、こんなのはいつものこと。ここで毎朝、私には救いの手が差し伸べられる事になっている。
「京子ちゃん、こっちこっち」
呼ばれた方向を見ると、幼なじみの良くんが窓際の座席に座って私に手招きをしている。人ごみをかき分け良くんの近くまで行くと彼は立ち上がり、腕を組んで笑顔を見せた。
「はい、京子ちゃんの特等席」
私は良くんの空けてくれた座席に、お尻をちょこんと乗っけた。
「えへへ、ありがとね」
彼は私のすぐ頭の上にある吊り革につかまる。
この駅に到着するまでの時間、私たちはいつもおしゃべりをしていく。昨日のテレビは何を見たのかとか、宿題はやったのかとか。
でも今日は、そんなことを話す気分にはなれなかった。
「ねぇ良くん」
「ん?なに京子ちゃん」
「良くんは、どうしてあたしと同じ高校に通おうと思ったの?良くんの成績ならもっと頭のいい学校に行けたのに」
朝食のときにお母さんが話していた事を思い切って尋ねてみる。高校進学というのは人生の大きな分岐点でもある。それをどうして私のような脳みそがプリンでできてるような人間を選んだのだろうか。
「どうしてって言われても・・・まぁ、心配だったから・・・かな」
良くんは照れくさそうに言う。
「心配って、何が?」
「いや、寂しい思いをするんじゃないかと思ってさ。京子ちゃんは小さい頃から、俺がいなくなるとすぐ泣き出してたから」
「私が泣いた?あったっけ、そんなこと?あんまり覚えてないわ」
何だかあったような無いようなハッキリしない思い出である。小さい頃の思い出なんてそんなもんである。もしかしたら彼の言うように、私が忘れてるだけで過去にそんな事があったのかもしれない。
良くんは強引に話をまとめようとする。
「俺はそれから決めたんだ。京子ちゃんが泣かない女の子になるまで、そばにいてあげようって」
「それだけの理由で同じ高校にしたの?」
「俺にとっては大事なことなんだ」
「ホントにそれだけで?」
「何だよ、しつこいな」
「でも私、もう16歳よ?いつまでも泣いたりなんかしないわ」
そう言うと、良くんは窓の外を眺めながら感慨深げな顔をする。
「そうか・・・。そういえば、そうだよな。もう京子ちゃんは16歳なんだよな・・・」




