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駅の外は四方八方に伸びた陸橋が広がっていた。陸橋は駅と地続きになっている。外はもう薄暗い。誰も歩いておらず、車が1台も走っていない。
辺りを見渡しても良くんと私の姿はもうどこにも無かった。
「完全に見失った・・・。何だったんだろ、今の・・・」
陸橋をぼんやりと照らす街灯の下を、とぼとぼ当てもなく歩く。
人っ子1人いない静まり返った街である。この街に存在しているのは、もしかしたら私1人なのかもしれない。そう考えると不安でしょうがなくなる。助けを求めても誰も駆けつけてくれない。私は今、非常に危険な状況に置かれているのである。
向こうの方に大きなデパートがある。何階ぐらいあるんだろうか、かなり大きい。建物の上の方に『和座野デパート』と書かれた看板が見える。あれがこのデパートの名前か。・・・ふん。なかなかシャレっ気のあるネーミングをつけおるわい。
「おや?」
陸橋の下の方に目をやると、良くんと私が手をつないでこのデパートの中に入っていく姿が小さく見える。さっき駅で見た奴である。
「良くん!」
私は2人に向かって大声で叫んだ。・・・うーんダメだ。中に入ってしまった。ぜんぜん聞こえてなさそうである。
由美ちゃんが追ってきてないか急に不安になり、キョロキョロと周囲を見渡す。いないな・・・よっしゃ、あの2人のあとをつけてみるか。
陸橋の階段を下り、歩道沿いにある自動ドアからデパートの中に入る。
デパートの中は活気のある音楽が流れている。すぐ脇に買い物カゴとカートがあるのを見ると、どうやらここは食品売り場のようである。だがやはりここにも客が1人もいない。人がいないで音楽だけ流れているデパートというのは、こうも不気味に感じるものなのだろうか。
『京子ちゃん、どこ見に行きたい?』
『あたし洋服が見たいな』
あ!この声は!
声のした方を見ると、良くんと私が手をつないで歩く姿が今度こそハッキリと見えた。しかも、もう目と鼻の先である。2人は楽しそうに笑いながら、エスカレーターに乗って上へと行ってしまった。
私の見間違いではなかった。やっぱり良くんと私だった。でも何で2人がこんなとこにいるんだろ?いや、そんなことを考えてるヒマはない!追わねば!
「良くん!待って!」
慌てて私は2人のあとを追う。エスカレーターに飛び乗り、階段を駆け上がりながら見上げると、もう2人の姿は無い。また見失ったか・・・。いや、まだそう遠くには行ってないはずである。捜そう!
そういやさっき2人ともどこに行くって言ってたっけか。たしか洋服がどうとかって言ってなかったかな。
2階についたのでいったんエスカレーターを使うのをやめ、すぐ近くにある案内図を確認する。
えっと、洋服売り場・・・洋服売り場・・・。お。あった、ぬぬっ!10階だと!
・・・しょうがない、エレベーターでも使うか。楽しよう。めんどくせーから。
「京子ちゃん、1人でお買い物?」
「え?」
下から声が聞こえたので見下ろすと、由美ちゃんが1階のフロアからこちらを見上げて笑っている。
こ・・・ここまで追ってきたのか由美ちゃん・・・。っとに、しつこい女である。
「あたしからは絶対に逃げられないわ。どこへ逃げても、あいつがあなたの居場所を教えてくれるのよ。ふふ。あいつが!」
由美ちゃんは長い舌をペロッとさせてからエスカレーターに乗り込み、足をペタペタさせてこっちの階に上がって来る。やばい!来る!
私は大慌てで長いエスカレーターを駆け上がる。
3階・・・4階・・・5階・・・6階・・・!
はぁはぁ・・・あの追ってきてるのは・・・はぁはぁ・・・、本当に由美ちゃんなんだろうか・・・はぁはぁ・・・それとも・・・。
はぁ・・・はぁ・・・!ぜぇぜぇ・・・!ふひぃ、ちかれたびー!も、もうこれ以上は走れん・・・うぷっ。吐きそ。ふぅ・・・ついた、10階だ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・。
エスカレーターの下を振り返ると、まだ由美ちゃんは追ってきていない。はぁ・・・心臓が・・・はぁ・・・バクバク言っとる。ここでちょっと・・・ひと息つこう。
エスカレーターの近くで腰を下ろす。
『今度はどこ見たい?』
『あたしどこでもいいよ』
私と良くんの声だ。座りながら聞こえた方に目をやると、買い物袋を持って2人が洋服売り場から出て来る。
『じゃあ京子ちゃん、屋上にちょっと行ってみよっか?こないだ遥と貴志がクレーンゲームしに来たらしいんだよ。ゲームセンターがあるんだって、ここのデパート』
『そうなんだ。うん、わかった。行ってみよ良くん』
2人は私が座りこんでる横を素通りして、またエスカレーターに乗って上の階へ上がっていく。
屋上って・・・。ふへぇ、また上らにゃならんのか・・・。
2人のあとを追うため、ヨタヨタしながら私もエスカレーターに乗り込む。
11階・・・12階・・・。
「はぁはぁ、いったい、はぁはぁ、何階まであるんだここのデパート・・・」
お、ここでエスカレーターは終わりか。いやぁ助かったわい。
エスカレーターから降りて周囲を見ると、たくさんのショーウィンドウが私を囲んでいる。
ショーウィンドウの中は、天ぷら、そば、うどん、ラーメン、パフェなどのメニューのレプリカが展示されていた。どうやらこの階はすべて食事のコーナーらしい。
確かあの2人、屋上に行くって言ってたな。どこだ屋上って。お、あの階段がそうかな。レストランを無視して奥にある階段を駆け上がっていく。
階段を上りきると目の前にガラス扉があり、扉を開けると冷たい風が入ってくる。




