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 学校に着くと校舎は完全に元通りになっていた。昨日あれほどの大爆発が起きたにも関わらず、綺麗さっぱり、ヒビ1つ入っていない。

 私とダウンロード型ヒューマノイドは正門に立ち、元に戻った校舎をしばらく眺める。

「これもやっぱり復元されたの?」

「ああ、たぶんな」

 私たちの横を生徒たちが抜いていく。

「みんな何もなかったような顔して学校に来るわね」

「おそらく建物だけでなく、人間も復元されたからだろう。この生徒たちはすべてリセットが掛かり、昨日の事などすっかり忘れてるんだ」

「それじゃ、遥ちゃんも貴志くんも?」

「だろうな。あの2人も、もう昨日のことなど覚えていないはずだ」

「うーん・・・でも変ね」

「何が変なんだ?」

「由美ちゃんは覚えてたわよ、昨日のこと。それにダメージが残ってたじゃない、彼女の体。あれは明らかに復元されてない証拠でしょ。どうして?何で彼女は例外なの?」

「由美・・・言われてみればそうだな。もしかすると由美は京子ちゃんと共通点があるんじゃないか。この世界の影響を受けない理由が」

「理由?」

「ああ。例えば京子ちゃんがこの世界の人間ではないのと同じように、由美も外の世界から来た人間なんじゃないんだろうか。だからプログラムの影響をもろに受けないのかもしれない」

「由美ちゃんが外の世界から来た?そういえばさっき転生装置がどうのこうのって言ってたわよね。あれはこの世界が何か知ってるってことよね」

「だろうな。もう1度由美が現れたらその事に触れてみるか。何か聞き出せるかもしれない」

「うん」

 話が終わると、ダウンロード型ヒューマノイドは消えてしまった。

 

 教室に入り、いつものように授業が始まる。

 どうやら風邪のウィルスが流行るように、コンピュータウィルスがこの世界に徐々に広がっているらしい。だが学校は特にこれといった変化がない。

 いつも通り普通にホームルームが始まり、何も起きないまま午前中の授業が終わった。その間、私はずっと居眠りこいてた。これもいつもと同じで誰にも注意されない。

 お昼になり、いい匂いがしてきたので私は顔を上げる。周りを見るとクラスメイトがいつものように皆それぞれの机でお弁当を食べている。私もお昼にしようと思い、自分の机の脇にかけてある鞄を開ける。

 ・・・あれ?

 無い。お弁当がどこにも無い。

 あ、そっか。今日はお母さんに追い出されて慌てたから、お弁当を入れるヒマが無かったんだっけ。そうだそうだ。お、ポテトチップはあるようだな。しょうがない。今日はこれがご飯の代わりだ。

 ボリボリ、ムシャムシャ、ボリボリ、ムシャムシャ。うん、んまい。

 しばらくの間お菓子を夢中になってむさぼり食う。が、何かが頭にひっかかる。うーん・・・何だろ。この違和感は。

 あ、そうか。いつもならこの時間って遥ちゃんと貴志くんが私のとこに来るんだよな、お弁当を持って。2人はどこにいるんだろ。今日は来ないのかな。

 教室の隅々まで目をやると、教室の廊下側の席に座っている遥ちゃんと貴志くんの姿を発見する。何だ、あそこで食べてんのか。

 2人はおしゃべりしながら、楽しそうにお弁当の中身を突っついている。2人とも今日はこっちに来ないのかな。しゃあない、今日は私からそっちに行くとしよう。私は好物のポテトチップを持って2人の机まで歩いていく。

「ねぇ、貴志くんたち」

「モグモグ、え」

「私も一緒に食べてもいい?」

 そう声をかけると、どういうわけか貴志くんも遥ちゃんもキョトンとする。

「いいけど・・・同じクラスの子?」

「え?」

 何をとぼけたことを言いおる。このクラスの偏差値の低さは知ってはいたものの、友達の顔を記憶できないほどここは低かったのか。同じクラスに在籍している私にとっても、この事実をどう受け止めてよいのか戸惑うばかりである・・・。

 貴志くんは一緒に座って食べてる遥ちゃんに聞く。

「なぁ遥。この子、遥の友達か?」

「うう~ん。遥は知らないよ~。こんなずんぐりむっくりな子~」

 ず、ずんぐりむっくり・・・。ぽっちゃり系を売りにしてる私にとって、大変ショッキングな言葉である。

「ところでお前、名前は何て言うんだ?」

 貴志くんが私に質問する。

「きょ、京子だけど・・・」

 2人ともお互いに顔を見合わせて首を傾げる。そしてまた私の方に向く。

「ふーん、京子ちゃんか。いいよ、一緒に食べても。遥は?」

「遥もいいよ~。手に持ってるポテトチップくれたらだけど~」

 むむっ!取り引きする気か!このポテトチップは私のものだ。誰が渡すものか!

「じょ、冗談はやめて2人とも。あたしよ?同じクラスの京子よ。2人とも知ってるでしょ?」

「いーや、初めて見るぜ。クラス間違ってるんじゃないか?」

 そんな・・・。まさか2人とも忘れちゃったの・・・私のこと・・・?

 そうか。例のウィルス。あれのせいだな。お母さんに続いて、きっとこの2人もコンピュータウィルスに感染してしまったんだろう。ダウンロード型ヒューマノイドの言ったとおり、D r.ボマーのウィルスがこの世界にどんどん広がっているのかもしれない。

 でも何でそれが私を忘れることなんだろう。あんまり大したことなさそうな気がする。

「モグモグ、何か考え事してるみたいだけど、モグモグ、どうかしたのか?」

 貴志くんがからあげを食べながら聞いてくる。

 あれ。そういえばこのからあげ弁当、亜規ちゃんが映像の中で言ってた奴じゃないのかな。たしか駅前に売ってるって言ってたんだよなこの弁当。

「ねえ貴志くん、そのお弁当どこで買ったの?」

「え?ああ、これか?駅前の弁当屋だよ。あそこのからあげ弁当は有名だからみんな結構買ってくぜ。それがどうかしたのか?」

「あ、ううん、何でもないの。ちょっと聞いてみただけ」

 ふむ。やっぱりそうだったか。貴志くんが買った弁当屋は、亜規ちゃんが買いに行った弁当屋とどうやら同じらしい。何で映像で見たものがこの世界にもあるんだろ。

 ん?

 視線を感じたのでそっちを見ると、椅子に座っている遥ちゃんが私の手にしているポテトチップの袋をジッと見ている。

「・・・遥ちゃん、あげよっか?このポテトチップ」

「え、いいの~?」

「うん、あたしはあんまりお腹が空いてないから」

「ありがと~。京子ちゃんてよく知らないけど、優しい子なんだね~」

 遥ちゃんは嬉しそうな顔をする。私はポテトチップの袋を彼女に手渡し、2人にバイバイして自分の席に戻る。

 ・・・遥ちゃんは私のことを忘れてしまった。昨日までとっても仲が良かったのに。

 でもあのポテトチップで、きっとまた仲良くなれる。あのポテトチップが、私たちにできた溝をきっと埋めてくれる。・・・そんな気がした。

 そのとき向こうの席から遥ちゃんの文句が聞こえてくる。

「ぶー!このポテトチップ中身ぜんぜん入って無いよー!ただのゴミ袋じゃんこれー!」

 ・・・あ。もしかしたらあまりの美味さに、勢いで全部食べたかもしれん。

 これじゃ仲良くなるどころか完全に逆効果である。2人の間に余計大きな溝ができる結果となってしまったわい・・・。ま、いっか。あとで謝れば。

 あれ?そういえばどうして私、あの2人と友達なんだろな。あまり考えたことなかったけど、よくよく考えてみると変だな。仲良くなったきっかけもあんまり覚えてない。というか誰なんだ、遥ちゃんと貴志くんて。

 そもそも何で私はこの学校に通ってるんだろ。入学してきた記憶もまったくない。あの家にいるお母さんも、いま考えてみると知らない人である・・・。

 私って実はこの世界のこと、まったく知らないんじゃないのかな・・・。

 ・・・まぁいいか。考えれば考えるほど、解らない事が増えていくだけだ。考えるのはよそう。遥ちゃんと貴志くんは私の友達。それ以外の何者でもない。家にいるお母さんも、私のお母さん。今はそれでいいや。

 それにもしかすると、ウィルスの影響が私にまで及んでいるのかもしれん。うん。そうかもしれない。そういうことにしておこう。

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